人間国宝の仕事の原点|染織作家・志村ふくみさんに聞く

大正13年生まれ、90歳を超えてなお染織作家として活躍し、円熟味を増し続ける志村ふくみさん。31歳で織物を生業にしようと決意した際、木工作家の黒田辰秋さんからかけられたある言葉が、工芸の仕事とは何たるかを教えてくれたと語られています。

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「工芸は“運・鈍・根”に尽きる」

――染織作家として出発されたのはおいくつの時でしたか?

〈志村〉
31歳の頃でした。当時は二人の小さな子供を抱えて生きていかなきゃいけないし、織物なんてしたって食べていけるわけがない。だからもう、早くやめて東京に戻り、職業婦人になれと周りの者は言っていました。

私もそのつもりでいったんは帰ったんですが、寝るともう、ウワーッと夢に出てくるんですよね。やっぱり織物をやろうと決意してまた近江に戻ったんですが、母とも親しかった木工作家の黒田辰秋さんを訪ねていったら、こんな話をされたんです。

「この仕事は足を踏み入れたら、もう地獄かもしれない。だけどやるなら、誰になんと言われてもやるんだ」

と。その時に、

「工芸の仕事はひたすら“運・鈍・根”に尽きる」

と言われました。

工芸の仕事は鈍い、「鈍」なものですよ。だけどコツコツコツコツ弛まずやる。誰の助けも受けずにやる。これができるかと。もうできるも何も、それしかない。でなければ一家心中しなきゃならないような状態ですから、「やります」と言いました。

「運」はね、他にいろんな選択肢があるわけじゃなく、自分にはこの道しかないと思い込んで、ただひたすらやりなさいと。

「根」は粘り強く、一つ事を繰り返し繰り返しやること。工芸は画家のようにパッとインスピレーションがおりてきて筆を走らせるのではなくコツコツコツコツやるものだと。鈍も根もコツコツですね。

なぜコツコツが大切かといえば、材料と親しくなるからです。そのためには時間がかかるんですよ。私であれば、糸や染めなどの性質を知って仲良くし、その材質に持ち上げてもらって仕事をしている。だから自分が何かをつくるよりも前に、まずものがあるんです。ものが最初なんです。

私がよく「植物から色をいただく」と言うのもそのことで、ものを敬い、自然と自分が溶け合う。それに時間がかかるんじゃないでしょうか。


(本記事は月刊『致知』2013年11月号 特集「道を深める」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇志村ふくみ(しむら・ふくみ)
大正13年滋賀県生まれ。31歳の時、母の指導で植物染料と紬糸による織物を始める。昭和32年第4回日本伝統工芸展に初出品で入選。翌第5回展から第8回展まで紬織着物により連続4回の特選を受賞、第9回展からは特待出品者となる。平成25年京都・岡崎に染織学校「アルスシムラ」を設立し、後進の指導にも当たる。重要無形文化財保持者(人間国宝)認定、文化功労者。『一色一生』(講談社)など著書多数。作品集に『織と文 志村ふくみ』など。

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