「いいものをつくるには、いいものを見ろ」本田宗一郎のデザイン論

1万本以上に及ぶ月刊『致知』の人物インタビューと、弊社書籍の中から、仕事力・人間力が身につく記事を精選した『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)。致知出版社が熱い想いを込めて贈る渾身の一書です。本書から、1970~80年代にかけて「シビック」や「アコード」などのデザインを手掛けてきた岩倉信弥さんに、本田宗一郎から受けた薫陶や、「怒られて掴んだ」モノづくりの極意をお届けします。

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どんな名武将の鎧兜や陣羽織でも、つくったのは一介の職人だ

本田宗一郎さんはいつもしつこいくらいに「いいものをつくるにはいいものを見ろ」とおっしゃっていました。

ある時、こんな苦い経験をしたことがあるんです。「初代アコード」の四ドア版をつくっていた時のことでした。

僕らのデザインチームは、四ドアを従来の三ドアの延長線上に考えて開発を進めていた。ところが本田さんは、「四ドアを買うお客さんの層は三ドアとは全然違うぞ」と言って憚(はばか)らない。ボディは四角く、鍍金(めっき)を付け、大きく高そうに見えるようにしろと言われるのです。

僕は内心、そんな高級車はよその会社に任せればいいと考えていました。

ほんの気持ち程度の対応しか見せない僕らに、本田さんは「君たちはお客さんの気持ちが全然分かっていない。自分の立場でしかものを見ていない」と日ごとに怒りを募らせてきます。毎日よく似たやりとりが続き、我慢の限界を感じた僕は「私にはこれ以上できません。そんな高級な生活はしていませんから」と口にしていました。

本田さんはそれを聞くなり「バカヤロー!」と声を荒げ、「じゃあ聞くが、信長や秀吉の鎧兜や陣羽織は一体誰がつくったんだ?」と言われたんです。

大名の鎧兜をつくったのは、地位も名もない一介の職人。等身大の商品しかつくれないのであれば、世の中に高級品など存在しなくなる。自分の「想い」を高くすればできる。心底その人の気持ちになればできるんだ。

つくり手は、その人が欲しいのはこういうものだということが分からなければダメなんです。想像する力ですね。像を想う。その人になり切る。それができなければよいデザインは生まれない、と教えてくださったんです。

僕が40歳になった時「形は心なり」という言葉がふっと胸の中に浮かんできました。やはりいい心でものを考えないといい製品はできないし、形のいい製品はやはりいい心でできているんだなと思うようになりました。


(本記事は弊社刊『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』〈藤尾秀昭・監修〉から一部抜粋・編集したものです。)

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◇岩倉信弥(いわくら・しんや)
昭和14(1939)年和歌山県生まれ。39(1964)年多摩美術大学卒業後、本田技研工業に入社。本田宗一郎の薫陶を受け、ホンダ車のデザイン、商品開発の担い手となる。平成7(1995)年常務取締役(四輪事業本部商品担当)。11(1999)年退社。13(2001)年から多摩美術大学教授。

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