剣の達人が教える、怖れや迷いを克服する方法——剣の道に終わりなし(高田學道)

若くして武の道、剣の道を志し、60年以上にわたって剣道、居合道、杖道など厳しい修行を続けてきた高田學道(たかだ・がくどう)さん。80歳を超えるいまなお毎日朝・昼・晩の3度の稽古を欠かさず、ご自身の道場で後進を現役で指導しています。剣の道一筋に歩んできた高田さんに、大事にしてきた言葉を交え、心身を錬磨し、一道をひらく要諦を語っていただきました。

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剣の修行で心身を錬磨する

〈高田〉
剣の道を学ぶ上で重要なことに「驚懼疑惑」がありますが、これを「剣の四病」といいます。驚き、懼れ、疑い、迷い、この4つの心の病を克服しなければ、剣の道のより高く、より深い神髄を得ることはできないというのです。

例えば、オリンピックなどに出場する五段、六段のいかにも強そうな柔道選手であっても緊張で体が思うように動かせずに負けてしまうということがよくあるでしょう。また「自分は強い」などと蛮勇になってしまっても十分に力を出すことはできません。

剣の道も同じように、いくら技を鍛錬しても、その時の状況や相手によって心が揺れ動いてしまうようでは勝負に勝つことはできません。自分の心を看破してこそ達人です。

そのような姿勢で厳しい心身の鍛練に取り組み、1963年、私は24歳の時に松尾剣風師より夢想神傳流を相伝、34歳で夢想神傳流八段允可を得ました。

後進の指導にも携わるようになり、特に実感するようになったのが「名人は弟子から学ぶ」という教えです。教え子でも自分にないものをたくさん持っている、学ぶべきものがたくさんあります。そして、厳しい稽古をしても何度も熱心に向かってくる教え子ほど怖いものはありません。そういう子は育てれば自分より偉くも強くもなるでしょうが、それは怖いことでもあります。

しかし、本来、師というのは、自分より半歩でも一歩でも踏み出す人間を育てなければならないのです。

もう一つ剣の道を学ぶ上で大切なのは、学問を修め、教養を深めることです。私が若い頃から大事にしてきた言葉に、武道と学問の道は分かつことができない、一体であるという「文武不岐(ぶんぶふき)」があります。

先にも触れたように、剣の技術が向上していくと、どうしても「自分は強い」と蛮勇、天狗になってしまいます。その天狗になる心を修めていくために必要なのが学問、教養に他なりません。

封建時代においては、武士階級は単なる闘う集団ではなく、国家、藩を治めていく支配階級でもありました。そのためには剣が強いだけではなく、学問を修め、教養を深め、政治や経済などの運営もしていかなくてはならない。人材を育て、人々に温かい手を差し伸べられる心を持った人格者、指導者でなくてはなりませんでした。そのような歴史的な背景もあり、学問と教養がなければ剣の道も成り立たないとされるようになったのです。

剣の達人・山岡鉄舟は、凄まじい心身の鍛錬や学問・教養、そこから生まれてくる温かい心、高潔な人格があったからこそ、明治維新で活躍できたのだと思います。それは『五輪書』を著した宮本武蔵もしかりです。私もまた常に笑顔、素直に、人々に温かい手を差し伸べられることを信条にしてきました。

礼法や心の修養、学問・教養の大切さを説く居合道、剣の道は、まさに日本の伝統を重んずる心であり、日本の心です。

では何のために剣を学ぶのか。それは至高至大なものの御意志に適った、よりよい世の中をつくり上げることに尽きるのではないかと思います。

しかし、いまの日本の世相を見ると、その日本の伝統、心が危機的な状況に陥っているように思えてなりません。

特にこれからの日本を担う若い人たちには、自らを厳しい環境に置き、一所懸命、学問修養に励んで心身を錬磨し、見識あるしっかりした人物となってもらいたい。そして、政治や経済、医療などあらゆる分野で世のため、人のために活躍してもらいたいと願います。そのために、私はこれからも「文武不岐」の言葉を胸に剣の道をただひたすらに歩んでゆく所存です。


(本記事は月刊『致知』2018年6月号 連載「私の座右銘」より一部抜粋・編集したものです)

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【著者紹介】
◇高田學道(たかだ・がくどう)
昭和14年神奈川県生まれ。29年大日本帝国心剣館松尾剣風道場入門。38年居合道錬士六段、松尾剣風師匠より夢想神傳流居合相伝、横浜市教育委員会委嘱中学校剣道講師。58年金沢警察署少年剣道推進会会長・剣道師範。平成8年居合道範士。16年範士十段。13年より現職。

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