野中郁次郎氏が見た、京セラ創業者・稲盛和夫の魅力

経営学の観点から組織の知識創造理論を構築し、新しい経営のあり方を世界に発信している一橋大学名誉教授の野中郁次郎さん。現在、「稲盛経営の普遍化」をテーマにした立命館大学の稲盛経営哲学研究センターとの共同研究プロジェクトにも携わる野中さんに、京セラ創業者・稲盛和夫の魅力を語っていただきました。

【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】

去る8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。

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野生の知と文明の知を併せ持つリーダー

〈野中〉
稲盛さんの魅力は挑戦者であり続けたことでした。

昭和59(1984)年に第二電電(DDI、その後IDOと合併し現在KDDI)を設立。電電公社(現在のNTT)に独占された通信業界に風穴を開けるべく、通信の自由化を機に参入し、通信コストの大幅な値下げを実現しました。また、2010年には78歳にしてJALの再建を引き受け、債務超過の状態から僅か2年8か月で最高益を出すV字回復を果たしました。

これら二つの挑戦の根底にあったのは、「利他」もしくは「世のため人のためになる」という大義名分のあるビジョンです。

第二電電設立当時、巨大な電電公社に中堅企業の経営者である稲盛さんの挑戦をドン・キホーテみたいだと嘲笑する人もいましたが、大義名分を掲げたことが後の成功に繋がったと稲盛さんは確信しています。

最近、JICA(国際協力機構)の北岡伸一理事長と、世界を相手に日本をリードしていった明治維新後と第2次世界大戦後の2つの時代のリーダーの生き方やリーダーシップについて対談しました。その際に、時代ごとに政治家と経済人のリーダー二人ずつを抽出しました。

明治維新の政治家では大久保利通と伊藤博文、経済人は渋沢栄一と益田孝。戦後の政治家では吉田茂と中曽根康弘、経済人は本田宗一郎と稲盛和夫です。彼らは頭で考えるだけで行動の伴わないリーダーではなく、理想の実現に向けて身体で考え実践する知的体育会系のリーダーです。私は、そうしたリーダーたちを知的バーバリアンと呼んでいます。

知的バーバリアンとは、文明の知が支配する現代において、知性を盲信せず五感と直観を本能的に駆使しながら環境の変化を敏感に察知して迅速果敢に行動する野生の知も併せ持つ人材です。特に昨今のようなコロナ禍や米中対立にみられるVUCA※の時代には、野生の知と文明の知を状況変化に応じて繰り出すダイナミックなリーダーシップが求められます。また泥臭い現実主義と青臭い理想主義の両方を使い分けるバランスも必要です。

※VUCAはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもの

北岡氏との対談で取り上げた8人のうち、稲盛さんは大久保利通と同じく鹿児島出身です。稲盛さんは西郷隆盛が大好きで「敬天愛人」を会社のビジョンにしています。ところが、大胆さと慎重さの両方が必要だとして、西郷とは全く異なり合理的で冷徹な大久保のことも評価しています。例えば、「敬天愛人」と言っていながら、社員の懲戒免職ということもジャッジしなければならない場合もあります。そうすると、バランスというのが単なる中庸ということでいいのかと悩むことになります。

現実にここで決断するという場合、究極はその基準がトップの人間性ということになってきます。それで結局、温情・冷徹、慎重・勇気という両極端がなくてはいけないことになり、そこをとことん突き詰めて知った上で状況に応じて賢い中庸を選択するのが重要になると稲盛さんは言うのです。


(本記事は月刊『致知』2021年4月号 特集「稲盛和夫に学ぶ人間学」より一部抜粋・編集したものです)

【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】

去る8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。
【著者紹介】
◇野中郁次郎(のなか・いくじろう)
昭和10年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院博士課程修了。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授、北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科長、南山大学経営学部教授、防衛大学校教授などを歴任。経営学の立場から組織の知識創造理論を構築し、経営学の新しいパラダイムを世界に発信している。『失敗の本質』(中央公論新社)『知識創造企業』『ワイズカンパニー』(共に東洋経済新報社)など著書、編著書多数。

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