ダウン症の周と共に生きる——詩人・服部剛

ダウン症を持って生まれた一人息子、周君との日々を詩に綴ってきた服部剛さん。その詩には、周君への限りない愛の眼差しと、人間の苦しみや悲しみへの深い共感が溢れています。周君が生まれた当時のエピソード、そこから生まれた感動の詩をご紹介します。

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君の人生はパパとママの嬉し涙から始まった

当時、妻は43歳。高齢出産の不安はありましたが、カトリックの教えから、天の意志に沿わない「バースコントロール」、命の選別はしないと夫婦で決め、羊水検査などは受けませんでした。しかし、妊娠八か月頃、母子の健康状態が悪いと診断され、妻は緊急入院。あれよあれよという間に、帝王切開することになりました。

病院から連絡を受けた私は職場を早退し、すべてを天に委ねる思いで病院へと向かいました。静まり返った病院の個室で、私は胸を高鳴らせながら歓びの知らせを待ちました。十五分ほど経った頃、トントンとノックする音が部屋に響き、ドアが開きました。「おめでとうございます! 無事生まれました。男の子です」と、看護師さんが笑顔で知らせてくれました。

再び部屋に沈黙が訪れた次の瞬間、不安と安堵が理屈にならない感情の渦になって押し寄せ、気づくと私は全身を震わせ、涙が両目からどーっと流れていました。

よかった、ありがとうございます……やっとの思いで看護師さんに伝えると、「奥様も生まれて間もない赤ちゃんに手を触れた時、感極まって泣いていましたよ」と教えてくれました。

周よ、君の人生は、君の生まれた2011年8月18日は、パパとママの言葉にならない溢れる涙から始まったことを、いつまでも覚えておいてほしい。

お前はお前のペースでゆっくり歩め

早産で生まれた周はNICU(新生児特定集中治療室)に入ることになりました。私はNICUにいる周に毎日のように会いに行きました。その中で、病院の先生から念のため遺伝子、染色体の検査を受けたほうがいいと勧められたのです。私は大丈夫だろうと楽天的でしたが、検査結果を待っている間、妻は不安な様子でした。

検査から数週間後、医師は普通より一本多い染色体の写真を見せて、周がダウン症であることを私たちに告げました。その夜、妻は泣き崩れました。心から周を愛していたからこその涙だったのでしょう。私も「大丈夫だ、大丈夫だ……」と繰り返し妻の肩を抱き締めながら、これは夢ではないかと目の前が真っ暗になりました。

妻と一緒に自分まで落ち込んでいてはどうにもならない、私は告知を受けた翌朝、藁にも縋る思いで洗礼の代父となってくれた先生に電話をしました。すると先生はこう言ってくださったのです。

「周君の普通より一本多い染色体には、もしかしたら、人間には計り知れない天の望み、願いが込められているのかもしれません」

周の一本多い染色体には天の願いが込められている─先生との電話を終え、一人部屋の中で沈黙した後、私は天に向かって「ありのままの周を、確かにこの両手に受け取りました!」と心の中で叫んでいました。

先生の言葉によって、私はダウン症を持って生まれた周を受け入れることができたのです。まるで心に希望が芽生えたようでした。この時の体験を綴った詩が『天の賜物』です。

 

小児科の医師は/私達の前で

紙を引っくり返し/周の染色体の写真を見せた

 「正常よりも一本多いです」

二人で溢れる涙を流した/翌朝/

僕は恩師に電話をした

 「その一本の染色体に/天の息吹がこもっています」

 「これから僕と嫁さんで/周が授かった賜物を探します」 

携帯電話のスイッチを押した後/周の命そのものを信じよう…という/今迄とは何か違う/不思議な歓びが胸の内に広がった

そして私は、周のこと、妻のこと、様々なことに思いを巡らせながら、近くの林へと向かい『僕等の道』という詩を書きました。

ダウン症と知った翌朝/これからのことを考えようと/僕は近所の林へ歩いていった 

林の中に入り、ふと見下ろせば/不恰好ないも虫さんは/にょっきり土の上を/這っていた 

周よ/いも虫さんが自分らしく生きるように/お前はお前のペースで、ゆっくり歩め 

林の中を進んで、ふと見上げれば/枝に留まった蝉さんが/つくつくほうし、つくつくほうしと/鳴いている 

周よ/蝉さんが全身で自らを奏でるように/お前はお前らしい声で、自らを歌え 

予定日より早く生まれた/小さなお前が退院したら/パパもママもいつもそばにいるのだから/どんな天気の日にも/僕等の道を一緒に歩み/僕等の歌を一緒に歌おう 

林の中を更に歩むと木々の間から/新たな日射しが、道を照らした

(本記事は月刊『致知』2020年9月号特集「人間を磨く」の記事から一部抜粋・編集したものです)

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◇服部剛(はっとり・ごう)
昭和49年東京都生まれ、神奈川県育ち。平成10年より本格的に詩作・朗読活動を始める。日本ペンクラブ会員、日本文藝家協会会員、日本現代詩人会会員、四季派学会会員。詩集に『風の配達する手紙』(詩学社)『Familia』(誌遊会出版)『あたらしい太陽』(詩友舎)『我が家に天使がやってきた』(文治堂書店)、近刊に『天の指揮者』がある。ブログ「服部剛のポエトリーシアター」、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブチャンネル「服部剛の朗読ライブ」などで詩や思いを綴る他、朗読や講演活動も行っている。

★WEB限定連載『心に灯をともす 服部剛の「詩の贈り物」』はこちら★

 

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