渋沢栄一と孔子は似ている!? 生き方の基本は『論語』にあり

左からゆはず(弓へんに巾)氏、安岡氏、數土氏

「子、曰(いわ)く……」で始まる独特のリズム。学校の授業で、同級生とこのように『論語』を読み合った記憶がある人も多いでしょう。ここに登場するJFEホールディングス名誉顧問の數土文夫さん、北海道大学副学長のゆはず(弓へんに巾)和順さん、郷学研修所・安岡正篤記念館理事長の安岡定子さんは、それぞれ経営・研究・教育の分野で『論語』に親しみ、その教えを実人生に活かしてきた方々です。生き方の基本は『論語』に学んだ――そんなお三方が語る実体験が、古典につきまとう難解なイメージを払拭してくれます。

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『論語』に学んだ経営者のあり方

〈ゆはず〉
數土(すど)さんは長年大企業の経営者でいらっしゃいましたから、舵(かじ)取りのいろいろな局面で『論語』の教えを生かしてこられたのではないですか。

〈數土〉
経営者の一番の使命は利益を出すことです。ただ、その場合、仁、徳を守るのは至難の業(わざ)なんですね。『論語』を読むと、仁という言葉が100回以上出てくる。それをいろいろな形で弟子たちに説いて聞かせていることを思うにつけ、これは会社経営においてもとても重要であるという思いを強く抱くようになりました。

少し『論語』から離れますが、もともと私は中国の春秋時代に栄えた斉(せい)の宰相(さいしょう)・管仲(かんちゅう)の言行に強く惹かれていました。管仲は孔子よりも150年以上前の人で、主君の桓公(かんこう)を補佐し、一介の諸侯にすぎなかった斉を一大強国に至らしめた名宰相です。その管仲の考えが端的に示されているのが『管子(かんし)』の次の言葉です。

倉廩(そうりん)実(み)つればすなわち礼節を知り、衣食足ればすなわち栄辱(えいじょく)を知る。
(倉の中の品物が豊富になってくると、人は初めて礼節を知る基盤ができ、日常生活に必要な衣食が十分足りてくると、初めて真の名誉、恥辱がいかにあるべきかを知る基盤ができる)

この教えはまさに経済活動の根幹そのものなんですね。

孔子と渋沢栄一の思想は共通している!?

〈數土〉
一方、孔子はどうかというと14年間、各国を放浪するという逆境の中で3,000人もの弟子を育てたというじゃないですか。また孔子自身、それを天命と思っていた。

ここは他の指導者にはない孔子の特徴でしょうね。そんな孔子の生き方が私を人材育成の大切さに目覚めさせてくれました。

〈安岡〉
數土さんの先ほどのお言葉のように孔子一門の師弟関係は実に大らかで、「儒教」という言葉から受けるイメージとは大きく異なっています。孔子は決して教祖ではないのでディスカッションもすれば、飲んだくれた姿も見せている。まさに人間模様そのままなんですね。企業活動をはじめとして現代社会にそのまま当てはまるところも『論語』の大きな魅力といえるでしょう。

〈數土〉
『論語』の「郷党(きょうとう)第十」で、孔子は弟子たちに応対辞令の大切さを教えるために、孔子自らが他国の君子にまみえる時の挙措動作を細かく話しています。「子張(しちょう)第十九」は弟子たちの発言だけでまとめられた章であり、これらを読むと孔子の教育がどれだけ素晴らしいものだったのかがよく分かりますね。

〈安岡〉
特にこの19章は読んでいてとても楽しいですよね。

〈數土〉
私は中国の王朝や李氏朝鮮が朱子学を科挙の制度に持ち込んだ時点で失敗だったと思っているんです。高みから人間を捉えて、下々の苦労を分かろうとしなくなってしまった。

その点、孔子は習ったこと、学んだことを実地で行ってこそ価値があるという一貫した信念を持っていますからね。

〈ゆはず〉
ええ。數土さんは経営の視点から東洋古典についてお話しされましたが、孔子は正しい道さえ踏み行えば金持ちになること、高い地位に就くのを認めていることも興味深いと思います。

ここも宗教とは一線を画するところであり、『孟子』や『荀子(じゅんし)』にいう「先義後利」、渋沢栄一が『論語と算盤』の中で説く道徳経済合一説と通じる部分がありますね。

〈數土〉
渋沢は「自分は『論語』だけで経営をやってきた」というようなことを言っていますが、一方で渋沢は『管子』もよく学んでいる。管仲は孔子よりも150年以上前にいまでいうグローバル戦略について述べている。だから渋沢の本音は「論語と算盤」だけではなく、「管子と算盤」でもあったのではというのが私の思いなんです。


(本記事は、月刊『致知』2021年2月号 特集「自靖自献」の鼎談「東洋教学が導いてくれた世界」から一部を抜粋・編集したものです)


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