バイデン新政権で米中関係はどう変わるか? 国際情勢に見る日本の活路

1月20 日(現地時間)に第46代米大統領就任式を控えた民主党のジョー・バイデン氏。覇権国家・中国に対して厳しい睨みを利かせていたトランプ政権から、新政権の対外・対中政策はどのように変化していくのか。また、日本はどこに活路を見出してゆくべきか――。ジャーナリスト・櫻井よしこ氏と京都大学名誉教授・中西輝政氏にご対談いただきました。
※本記事の内容は202012月当時のものです

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バイデン政権は中国を抑えられるのか

〈櫻井〉 
アメリカ大統領選挙は民主党のジョー・バイデン前副大統領が勝利しましたね。

〈中西〉 
トランプ大統領は「不正選挙」があったとして法廷闘争に打って出ていますが、バイデン陣営は実に賢くて勝利を既成事実化しました。各国の首相も相次いで祝意を示し次期大統領という流れができてしまいましたから、これを裁判で覆すのは容易ではないでしょう。また、そんなことをしていたらアメリカは民主主義国家としてやっていけなくなる。
(中略)
気になるのは、今後バイデン氏が中国や北朝鮮に対してどのように向き合うかということですね。

先ほどの3つを踏まえて、より系統的かつ体系的な戦略、戦術によって対中封じ込め政策をとっていくべきだと思いますが、これはあくまでも「べき」であって、本当のところどうなるかは、新政権の人事などもう少し様子を見る必要がありますね。

〈櫻井〉 
そうですね。バイデン氏は同盟国を大事にする、対立よりも融和であると美しい言葉で言っていますが、あの方がオバマ政権時代の8年間、副大統領としてやってきたことを考えると、失礼ながらその言葉が本心なのかどうか疑わしい部分が多分にあります。左翼として知られ、次期副大統領になるカマラ・ハリス氏が中国に対して毅然とした政策をとることも、ほとんど期待できません。

おそらく環境問題あたりから米中の接近が進むでしょう。環境問題と言われれば誰も反対できませんし、パリ協定に戻ることも自明です。ハリス氏自身「米中は環境問題で一緒にやっていける」と言っていますが、よほど注意しないと、日本もヨーロッパも中国のペースに引き込まれかねません。

それに加えて、バイデン氏のご子息のハンター氏には中国疑惑があり、人民解放軍関係の企業とかなりの額の裏取り引きが行われたという話が取り沙汰されています。

そのことを考えると、バイデン氏の中国政策はやはり心配だという思いは拭いきれません。それだけに日本やイギリスなど米中の間に挟まれた民主主義、国際法を信奉する国々の役割が重要になると思うんです。

〈中西〉 
バイデン氏のことで忘れてはならない点が一つあります。4年前の大統領選挙の時、ヒラリー陣営の大きな集会で副大統領だったバイデン氏が応援演説をし、次のようなことを言いました。「トランプ氏は日本に軍事力の増強を求める考えだが、日本は我われがつくった憲法により核兵器をはじめとする強い軍事力を持つことはできないんだ。我われがそうなるように日本のいまの憲法をつくったんだ」と。政治家としては失言でしょうが、これが彼の本音でしょうね。このように日米関係は、非常に微妙なものを含んでいることを重々知らなくてはいけません。

ハリス氏のことについて述べておくと、今回の選挙で黒人女性として初の副大統領となった彼女のことが大きくクローズアップされています。熱心な支持者の少ないバイデン氏が、とにかくギリギリ勝利できたのは、ハリス氏を副大統領候補に指名したからだと思います。彼女は2024年の大統領選出馬を目指していると言われますが、もしそうなると、おそらくブッシュ(子)政権からオバマ政権、トランプ政権と続いてきたこの20年ほどのアメリカ政治のパラダイムが今回の選挙をきっかけに大きく変わってゆくのではないか。それは人種や世代などの多様性に重きを置くアメリカ社会の構造の変化と軌を一にしているといえるでしょう。

〈櫻井〉 
私もそう思います。

〈中西〉 
オバマ氏やトランプ氏が「アメリカは世界の警察官をやめるべきだ」とか「アメリカは世界から撤退すべきだ」とアメリカファーストを訴えてきましたが、40代までのアメリカの若い世代は「アメリカは他国への関与が大きすぎた」「アメリカは損ばかりしてきた」というメンタリティーを非常に強く受け継いでいますね。

安全保障の面で日本にとってはアメリカの関与は決定的に重要なわけで、これらのことを考えるとこれからどのようにアメリカとの同盟関係の緊密化を図っていくかが、一層重要な課題になります。

〈櫻井〉 
アメリカは武漢ウイルスで大変なダメージを受けました。しかし、南北戦争以来、いくら力を削ぎ落とされても、その度に力強く甦ってきたのがアメリカの歴史です。そういう潜在力を持った国でもあります。そういう強いアメリカですから、何があっても一本の太い軸になり得る国家であり続けるでしょう。

アメリカを引きつけておくためには日本の役割が非常に大きいと思います。例えば、安倍前首相はTPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)を纏め、アメリカが抜けた後、加盟国を纏める役割を果たしました。トランプ政権はTPPから脱退しました。バイデン政権では相当難しいとは思いますが、復帰の可能性はゼロではありません。日本とEUの間でEPA(経済連携協定)を結んだことも大変印象的でした。

このような形で日本政府がリーダーシップをとって世界秩序の構成に関わっていくのは歴史上初めてのことではなかったでしょうか。日本は菅義偉政権になりましたが、日本はこれからも自国に託された使命を自覚し、新しい秩序形成に自信を持って歩んでもらいたいと願っています。


(本記事は『致知』2021年1月号 特集「運命をひらく」より一部を抜粋・編集したものです。

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◇中西輝政(なかにし・てるまさ)
昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『国民の覚悟』『賢国への道』(共に致知出版社)『大英帝国衰亡史』(PHP文庫)『アメリカ外交の魂』(文春学藝ライブラリー)『帝国としての中国』(東洋経済新報社)、近編著に『アジアをめぐる大国興亡史』(PHP研究所)他多数。 

◇櫻井よしこ(さくらい・よしこ)
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスター等を経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年「国家基本問題研究所」を設立し、理事長に就任。23年日本再生に向けた精力的な言論活動が評価され、第26回正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。著書多数。最新刊に『言語道断』(新潮社)がある。

 

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