急速に台頭する中国に、日本が対峙するための「四分の一戦略」を語る

隣国・中国が軍事的、また経済的にも国際的な影響力を急速に高めています。新型コロナウイルスに世界中が席巻されている中、このままで大丈夫なのか――。ジャーナリスト・櫻井よしこさんとの対談で、論客・中西輝政さんが語られた対中国の「四分の一戦略」のお話をご紹介します。※情報は2018年1月時点のものです

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習近平国家主席の微笑みの意味

〈中西〉
これはベトナムでの安倍首相との日中首脳会談でも感じたことですが、習氏のあんなににこやかな顔を見たのは初めてです。私はこれは大変なことになった、と思いました。

なぜかというと、(2017年)10月18日の党大会初日、彼は3時間半の大演説を行いました。あの中で最も目を引いたのは、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義の思想」を党規約に盛り込んだことです。さらにあの演説の中に2035年、2049年と国家戦略の目標年をはっきりと明示したことに大変深い意味があると感じました。

2049年は共産党体制100年の節目ですから、そこに向けた大目標は以前から示されていたわけですが、習氏は今回、2035年という中間の目標年を掲げました。

簡単に言えば、この年までに前倒しで経済力や政治力でアメリカと並び、世界に影響を及ぼす超大国になると。さらに49年にはアメリカを凌駕する世界一の軍事大国となるということなんです。彼の微笑みはその自信の表れだったんですね。

これらがすべて予定どおりに実現するとは思えませんが、これは大変なことになってきた、と思います。ここで一つ押さえておかなくてはいけないのは、2035年、習氏はまだ82歳ということです。

〈櫻井〉
まだまだ現役で国のリーダーが務められる年齢ですよね。

〈中西〉
そうなんです。鄧小平(とうしょうへい)が南巡講話を行って市場経済化の掛け声を発したのは88歳でした。今回の習氏の大演説は、自分も鄧小平と同じように終身独裁を敷き、中国をしてアメリカを圧倒するような世界最大の国にする、という宣言だと受け止めるべきだと思います。

そのように考えると、日本はもはや、当面の選択として日米同盟で中国の海洋進出を抑止するとか、そのレベルの議論で終わってはいけない。もちろん、北朝鮮危機や中国の東シナ海、南シナ海問題に日米を基軸にして現実的に対処することはとても大事です。

しかし、同時に国家の長期ビジョンをどう描くのか、2030~40年代にはアメリカに頼らずに膨張した中国にどう向き合うのか、といった根本問題を考えなくてはいけません。そうしないと、確実に我が国は中国に呑み込まれてしまうことになります。

かつて中国の李鵬(りほう)元首相が1995年にオーストラリアで「日本という国は数十年後には地上から消える」と発言していますが、そのようなことがまさに現実化してしまうんです。

中国に対峙するための「四分の一戦略」

〈櫻井〉
私も習氏の演説を読んだ時、2035年まで彼は自分でやる気なのだな、と感じました。自身は毛沢東(もうたくとう)と同格とはっきり位置づけていますし、やがて中国はより独裁的な国になっていくことでしょう。

彼は自分の世界戦略をザクロの実に譬えて説明していましたね。外側の堅い殻が中国共産党で、その中で各民族が肩を寄せ合って生きていく社会をイメージしているのが見てとれます。

「中華民族は世界の諸民族の中で聳え立つ」

との表現もありましたが、それは世界を中国の価値観に染めてしまおうという恐ろしい考えです。その一つが「宗教を中国化する、社会主義化する」という思想でしょう。宗教弾圧を受けているチベットやウイグルと同じ運命を他の民族も辿らなくてはいけない。これは容易ならざる事態です。

〈中西〉
確かに。

〈櫻井〉
一方、アメリカのトランプ体制はどうかと見ると、戦略が見えてきません。いまはまだアメリカの力が勝っているとしても、西側諸国は民主主義のルールに従ってリーダーが次々に替わっていきます。他方、習近平専制政治は長期に及ぼうとしています。

一党独裁体制の下、揺らぐことなく中国の大戦略を進めるとしたら、中・長期的には明らかに彼らのほうが有利ですね。中国が提唱したAIIB(アジアインフラ投資銀行)やブリックス開発銀行も、様々な矛盾を孕みながらも形になっていくと思います。

これに対抗して西側が打ち出したのがトランプ大統領のインド太平洋戦略です。これはもともと安倍首相の唱えた戦略ですが、これにアメリカが乗った。安倍首相はインド・太平洋戦略を支える枠組みを、日米豪印四国による安全保障ダイヤモンド構想として打ち出しました。

概念としては立派です。しかし、中身はまだ見えてこない。あちこちに拠点をつくっている中国に後れを取ってしまっていることは誰の目にも明らかです。

〈中西〉
日米豪印によるインド太平洋戦略は、開かれた民主主義と自由経済の国々が連携し、ASEANを含めて全体を上手くカバーできるという意味では、戦略上の概念としてはとてもいい構想だと思います。

ただ、日米はいいとしても、オーストラリアやインドは中国の影響を受けやすい国内情勢にあるんですね。オーストラリアは中国系移民が国策にまで影響力を及ぼしていますし、中国への経済的な依存度も極めて高い。インドはいまのモディ政権が倒れれば再び左傾化、つまりやや親中に振り戻しかねない不安定な国情です。

そう考えると、他国との協力など外交戦略にのみ頼るのではなく、安全保障、経済の面を含めて日本が自らの力をつける、自分の足で立っていくことが何よりも大事であることが納得できるのではないでしょうか。

〈櫻井〉
それを成し遂げる気概が試されていますね。

〈中西〉
だからといって、私は何もすべてにおいて自力で中国に対抗できる力を持てと言っているわけではありません。よくよく考えれば中国という国は国内に大変深刻な不安定要因があり、他方で周囲はインド、ロシア、中央アジアのイスラム圏諸国など反中国の国々に囲まれています。

そのことを考えれば、日本がフルに中国に対抗する必要などなくて、私の持説ですが、「対中・四分の一戦略」で十分だと考えているんです。

〈櫻井〉
少し詳しくお話しください。

〈中西〉
要は日本が、総合国力において中国の四分の一の力を常に保っていれば、十分に対抗してやっていける、ということですね。

例えば防衛力ですが、中国は軍事費を増強しながらも現実には模型のような古い航空母艦を動かしたりしていますから、中国の四分の一、つまり大体いまの日本の防衛予算でも効率化や装備の充実を図っていけさえすれば当面は対抗できると思います。

長期的には、中国のさらなる軍事力増強に備えて現在5兆円(※掲載当時)の防衛予算を倍の10兆円に増額することも求められるでしょうが、大切なのは中国のような水増しではなく、日本は優れた技術力など真水の力で勝負することです。

事実、日清戦争以来、日本は軍事力、経済力ともに中国の10分の1ほどの国力で立派に存立を貫いてきました。そういう大きな力を秘めている国なんです。

★『致知』2021年1月号に櫻井よしこ、中西輝政 両氏が登場! 緊迫するアメリカ情勢、中国の動向などについて縦横に語り合っていただきました。


(本記事は『致知』2018年2月号 特集「活機応変」より一部を抜粋・編集したものです)


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致知出版社編集部ブログ

◇櫻井よしこ(さくらい・よしこ)
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスター等を経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年「国家基本問題研究所」を設立し、理事長に就任。23年日本再生に向けた精力的な言論活動が評価され、第26回正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。近著に『頼るな、備えよ―論戦2017』(ダイヤモンド社)など多数。

◇中西輝政(なかにし・てるまさ)
昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『賢国への道』(致知出版社)など。

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