日本の未来は国土強靭化にあり【前編】——日本を蝕む「ポリコレ」に屈するな 大石久和×藤井聡

首都直下型地震の危機が迫っているといわれる中、有効な対策を打てずにいる日本は、確実に亡国の道を辿っている—―共に国造りの困難を担う国土学に精通する大石久和さん、藤井聡さんのお二人はそう警鐘を鳴らし続けてきました。迫り来る危機から日本、そして国民の命を守るために何をすべきなのか。前編では、日本を蝕むものの正体を語っていただきます。

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緊縮財政によって凋落し続ける日本

〈大石〉
緊縮財政がどれだけ間違った政策であるか、それはもう現実のこととして証明されているんですね。「財政が厳しい」「無駄遣いが多い」などと言って、日本が緊縮財政を始めたのは20年ほど前ですが、以来、日本の経済規模はどんどん小さくなっています。

先ほども触れましたが、世界のほぼすべての国が経済成長しているにも拘(かかわ)らず、日本のみが1995年以降、20年間全く成長していません。また、1995年に世界のGDP(国内総生産)シェアの約18%を占めていたのが、いまや6%を切っています。

税収も、1990年に約60兆円あったのが、いまは約59兆円。28年前の税収を下回っている国は日本以外ありませんよ。

〈藤井〉
しかも安倍政権が頑張ってようやく59兆円。それより前は約39兆円でしたからね。

〈大石〉
そうです、40兆円を切るまでに下がっていたわけです。

その間にアメリカは財政規模を約3倍にし、それに連動するようにGDPも税収も約3倍になっています。韓国も約2.7倍に経済を大きくしている。最近、韓国が日本に対して上から目線、強気に出てきているのも、経済的に日本に追いつき始めたという自信がそうさせているのだと思います。
  〔中略〕
ご存じの通り、消費税は庶民に一番負担を強いる税です。「消費税を上げろ」と主張することは、「庶民からもっと収奪しろ」というのと同じなんです。加えて日本は消費税を上げながら法人税を下げてきましたので、庶民の富を企業に移してきたようなものです。

事実、この20年間で日本の世帯収入(2人以上)は下がり続けています。1995年には世帯当たり660万円ほどの平均収入があったにも拘らず、2016年には、560万円ほどと、100万円も低下しています。さらに、高額所得者が減少して200万~400万円の低所得者層が大きく伸びているんです。日本人は確実に貧しくなっています。

〈藤井〉
緊縮財政によって明らかに日本人は貧困化していますね。

「ポリコレ」の支配が日本を蝕んでいる

〈藤井〉
なぜ日本は緊縮財政の過ちに気づけないのか。その理由を説明するために私がよく使っているのが、「ポリティカル・コレクトネス」という概念です。

これは「政治的な言説の正しさ」について世間に共有された社会的風潮で、しばしば「ポリコレ」とも略されます。いわば、「空気」という奴です。例えば、性差別を声高に叫ぶのは明らかにポリコレ・アウト、「性差別はイカンですね」という発言はポリコレOK、っていうのがその典型です。

それで、いまの日本では、「財政規律を守る」「緊縮財政や消費税の増税が必要だ」という見解が政治的、社会的に正しい「ポリコレOK」の言説になっています。

〈大石〉
緊縮財政は正しいことだという空気、ポリティカル・コレクトネスが日本を覆っていると。

〈藤井〉
実を言うと、政治家やマスメディア、官僚や経営者など、いま日本を動かしている人々の多くが、真実に向き合って日本をよくしようということには関心がない。

実に驚くべきことに彼らの多くは、一体何がポリティカル・コレクトなのか、いま世間を覆っている「空気」は一体どういうものかだけに神経を尖らせ、それに基づいて発言し、振る舞い方を決めているのが実態です。

つまり、彼らはとにかく「保身」ばかりを考えているわけで、自分の地位の確保、あわよくばその向上を図るというくだらないゲームに四六時中、勤しんでいる。だから何が正しいか、国民のために何が必要かなんてことには、本質的関心がない。

それどころか、我われが主張しているような積極財政や消費税の増税反対などの「ポリコレ・アウト」な主張を耳にすれば、そんな事実や視点があるなら一度議論してみようじゃないかと考えるなんてことはまずないわけで、ただただ異物として排除しようとする。

こうした「ポリティカル・コレクト政治」が日本を蝕んでいる。これでは確実に国は滅びますね。

世界に劣後する日本のインフラ

〈藤井〉
……不条理な「ポリコレ政治」の結果として、実際に人がたくさん死ぬ、という事態が生じている。

もっとも分かりやすいのは、西日本豪雨(2018年)による岡山県倉敷市真備町の洪水です。この時の小田川の堤防決壊は、その関係者なら皆事前に技術的な観点から予期している事態だった。

〈大石〉
まさに、ハザードマップ通りのことが起こったわけです。

〈藤井〉
にも拘らず、適切な対策が取られてこなかったのは、煎じ詰めれば、「緊縮財政が必要だ」「公共事業は無駄ばかりなんだからヤメロ」という空気のせいで対策費がつかなかったからです。

そもそも、洪水が起こった時点で具体的な施工方法は決まっていたわけですから、くだらない「緊縮ポリコレ」なんてものが存在しておらず、対策費さえが普通についてさえいれば、50名の命が失われることもなかった。

だからこれは国家による不作為の罪だし、緊縮財政がいいんだという「ポリコレ」の風潮が彼らの命を奪ったのだと言わざるを得ない。

〈大石〉
同感です。小田川の堤防工事は何千億円もかかる大事業ではなかったわけで、決壊は防げたことでした。まさに緊縮財政は、インフラの劣化を通じて国民の命と財産を脅かしているんですね。

日本では財務省を中心に「公共事業叩き」が行われ、20年で公共事業費をかつての半分に縮小してきました。その結果が近年の自然災害による被害なのですが、例えば日本の高速道路においても、1万2000キロのうち、約38%が暫定二車線という正面衝突の危険がある道路であり、時速70キロでしか走れないんです。

そんな危ない高速道路を国民に使わせている国は一つもありませんし、経済成長に必要な物流効率や人々の移動効率を下げているのは明らかです。

しかも地方に行くほどそうした道路になっていますから、地方活性化などできるわけがありません。国民はこのことに対してもっと怒らなければだめだと思います。

〈藤井〉
本当にその通りですね。

〈大石〉
また、河川工学の専門家である竹村公太郎氏が指摘しているように、近年、雨の降り方がどんどん激しくなるなど、世界中で気象が「狂暴化」しています。ですが、日本は治水事業費も20年で半減しているんです。日本の河川は非常に短く急流で、世界で最も治水が厳しい国であるにも拘らず、です。

都市は大変な労力と時間を費やして整備されています。河川の氾濫原にある都市が毎年洪水でやられたら、日本経済は成り立っていかないでしょう。

その一方で、財政状況が厳しくても、アメリカは約2倍、イギリスは約3倍に公共事業費を拡大してきました。世界の指導者は、道路網や港湾設備などのインフラをどれだけ構築してきたかによって、その国の産業の効率性や競争力が規定され、経済成長に繋がるかをよく理解しているんですね。

インフラ整備は必要ない、無駄遣いだと言っているのは日本くらいです。世界の国々が懸命に国土強靭化の努力を重ねている中で、日本だけが怠ってきたんです。

いまや日本のインフラは各国と比べて相当劣後し、大きな差がついています。日本も経済成長するためにはインフラ整備にもっとお金を使って、国土を強靭化していかなくてはならないんです。


(本記事は月刊『致知』2019年1月号 特集「国家百年の計」の記事から一部抜粋・編集したものです)


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◇大石久和(おおいし・ひさかず)
昭和20年兵庫県生まれ。45年京都大学大学院工学研究科修士課程修了。建設省入省。平成11年同省道路局局長。14年国土交通省技監。一般社団法人全日本建設技術協会会長、京都大学大学院経営管理研究部特命教授などを兼務。公益財団法人土木学会第105代会長。専攻は国土学。著書に『「危機感のない日本」の危機』(海竜社)などがある。

◇藤井聡(ふじい・さとし)
昭和43年奈良県生まれ。京都大学卒業、同大学院修了後、同大学助手、助教授、東京工業大学助教授、教授を経て、平成21年京都大学大学院教授。専門は国土政策、経済政策、防災政策などの公共政策論。15年土木学会論文賞、19年文部科学大臣表彰・若手科学者賞、日本学術振興会賞など受賞多数。著書に『「10%消費税」が日本経済を破壊する 今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』(晶文社)などがある。

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