首都直下型地震や大規模水害にどう備えるか——国土強靭化が急務 大石久和×藤井聡

 

首都直下型地震の危機が迫っているといわれている中、有効な対策を打てずにいる日本は、確実に亡国の道を辿っている—―共に国造りの困難を担う国土学に精通する大石久和さんと、藤井聡さんはそう警鐘を鳴ら続けてきました。迫りくる危機から日本、そして日本国民の命を守るために何をすべきなのか、語り合っていただきました。

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世界に劣後する日本のインフラ

(藤井)

……もっとも分かりやすいのは、西日本豪雨による岡山県倉敷市真備町の洪水です。この時の小田川の堤防決壊は、その関係者なら皆事前に技術的な観点から予期している事態だった。

(大石) 

まさに、ハザードマップ通りのことが起こったわけです。

(藤井) 

にも拘らず、適切な対策が取られてこなかったのは、煎じ詰めれば、「緊縮財政が必要だ」「公共事業は無駄ばかりなんだからヤメロ」という空気のせいで対策費がつかなかったからです。

そもそも、洪水が起こった時点で具体的な施工方法は決まっていたわけですから、くだらない「緊縮ポリコレ」なんてものが存在しておらず、対策費さえが普通についてさえいれば、50名の命が失われることもなかった。だからこれは国家による不作為の罪だし、緊縮財政がいいんだという「ポリコレ」の風潮が彼らの命を奪ったのだと言わざるを得ない。

(大石) 

同感です。小田川の堤防工事は何千億円もかかる大事業ではなかったわけで、決壊は防げたことでした。まさに緊縮財政は、インフラの劣化を通じて国民の命と財産を脅かしているんですね。

日本では財務省を中心に「公共事業叩き」が行われ、20年で公共事業費をかつての半分に縮小してきました。その結果が近年の自然災害による被害なのですが、例えば日本の高速道路においても、1万2000キロのうち、約38%が暫定二車線という正面衝突の危険がある道路であり、時速70キロでしか走れないんです。

そんな危ない高速道路を国民に使わせている国は一つもありませんし、経済成長に必要な物流効率や人々の移動効率を下げているのは明らかです。

しかも地方に行くほどそうした道路になっていますから、地方活性化などできるわけがありません。国民はこのことに対してもっと怒らなければだめだと思います。

(藤井) 

本当にその通りですね。

(大石) 

また、河川工学の専門家である竹村公太郎氏が指摘しているように、近年、雨の降り方がどんどん激しくなるなど、世界中で気象が「狂暴化」しています。ですが、日本は治水事業費も20年で半減しているんです。日本の河川は非常に短く急流で、世界で最も治水が厳しい国であるにも拘らず、です。

都市は大変な労力と時間を費やして整備されています。河川の氾濫原にある都市が毎年洪水でやられたら、日本経済は成り立っていかないでしょう。

その一方で、財政状況が厳しくても、アメリカは約2倍、イギリスは約3倍に公共事業費を拡大してきました。世界の指導者は、道路網や港湾設備などのインフラをどれだけ構築してきたかによって、その国の産業の効率性や競争力が規定され、経済成長に繋がるかをよく理解しているんですね。インフラ整備は必要ない、無駄遣いだと言っているのは日本くらいです。世界の国々が懸命に国土強靭化の努力を重ねている中で、日本だけが怠ってきたんです。

いまや日本のインフラは各国と比べて相当劣後し、大きな差がついています。日本も経済成長するためにはインフラ整備にもっとお金を使って、国土を強靭化していかなくてはならないんです。

首都直下型地震に備えよ

(大石)

これからの日本にとって重要だと思っているのが外交や安全保障の問題です。

これはある方が言っていたのですが、国が貧しくなると、アメリカは日本を対等の同盟を結ぶ価値のある国としては見なくなると。アメリカの自動車も武器も買えず、何の貢献もできないのなら、日本に魅力を感じるわけがありません。いまは中国への牽制などもあって日本と仲良くしてくれてはいますが、いずれは「一人で立ってくれ」と見放される時代が来るはずです。

(藤井) 

そして、そこにさらに首都直下型地震と南海トラフ地震が襲ってくれば、もはや日本は自力では復興を遂げられないまでにぼろぼろになってしまうでしょう。海外企業が復興支援の名目でどんどん日本に入ってきて、日本人を二束三文で雇って、奴隷のように扱う事態になるかもしれません。

(大石) 

以前、巨大地震について藤井先生と記者会見をした時に、私はいま首都直下型地震や南海トラフ地震が来れば、「日本は世界の最貧国に転落するだろう」と言いました。事実、首都圏が巨大地震に見舞われた際の経済損失、被害損失は、1410兆円に上るとも言われています。日本のGDPが530兆円だと考えると、巨大地震によってとんでもない富を失うことになるわけです。これはもう間違いなく再起不能ですよ。

巨大地震が来る確率は30年で70%だとされていますから、いますぐにでも、積極財政に転換して、インフラの強靭化や東京一極集中の分散など、被害を少なくする投資をスピード感を持ってやっていかなければ、日本を救うことはできません。このことは国民の皆さんにもぜひ真剣に考えていただきたいですね。

(本記事は月刊『致知』2019年1月号「国家百年の計」の記事から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇大石久和(おおいし・ひさかず)

昭和20年兵庫県生まれ。45年京都大学大学院工学研究科修士課程修了。建設省入省。平成11年同省道路局局長。14年国土交通省技監。一般社団法人全日本建設技術協会会長、京都大学大学院経営管理研究部特命教授などを兼務。公益財団法人土木学会第105代会長。専攻は国土学。著書に『「危機感のない日本」の危機』(海竜社)などがある。

◇藤井聡(ふじい・さとし)

昭和43年奈良県生まれ。京都大学卒業、同大学院修了後、同大学助手、助教授、東京工業大学助教授、教授を経て、平成21年京都大学大学院教授。専門は国土政策、経済政策、防災政策などの公共政策論。15年土木学会論文賞、19年文部科学大臣表彰・若手科学者賞、日本学術振興会賞など受賞多数。著書に『「10%消費税」が日本経済を破壊する 今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』(晶文社)などがある。

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