はとバス元社長・宮端清次が語る「ソニー創業者・井深大のリーダーシップ論」

1万本以上に及ぶ月刊『致知』の人物インタビューと、弊社書籍の中から、仕事力・人間力が身につく記事を精選した『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)。致知出版社が熱い想いを込めて贈る渾身の一書です。本書の中から、「ソニー創業者・井深大のリーダーシップ論」という一篇をご紹介します。

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落書きがピタッとなくなった理由

リーダーシップの勉強を始めようと私が思ったのは、30年以上前のことです。
都庁で管理職になった頃、現役を退いたソニーの井深大さんの講演を聴きに行ったんです。そこで井深さんは一時間ほどリーダーシップの話をされましたが、私にはよく分からなかった。

すると終了後に、ある女性が手を挙げて「失礼ですが、いまのお話はよく分かりませんでした。私のような主婦にでも分かるように話をしてくれませんか」と言ったんです。司会者は大慌てでしたが、さすがは井深さんですね。ニコッと笑って、こんなお話をされました。

「ソニーの社長時代、最新鋭の設備を備えた厚木工場ができ、世界中から大勢の見学者が来られました。しかし一番の問題だったのが便所の落書きです。会社の恥だからと工場長にやめさせるよう指示を出し、工場長も徹底して通知を出した。それでも一向になくならない。そのうちに『落書きをするな』という落書きまで出て、私もしょうがないかなと諦めていた。するとしばらくして工場長から電話があり『落書きがなくなりました』と言うんです。

『どうしたんだ?』と尋ねると、『実はパートで来てもらっている便所掃除のおばさんが、蒲鉾の板二、三枚に、〝落書きをしないでくださいここは私の神聖な職場です〟と書いて便所に張ったんです。それでピタッとなくなりました』と言いました」

井深さんは続けて、「この落書きの件について、私も工場長もリーダーシップをとれなかった。パートのおばさんに負けました。その時に、リーダーシップと上から下への指導力、統率力だと考えていましたが、誤りだと分かったんです。以来私はリーダーシップを〝影響力〟と言うようにしました」と言われたんです。

リーダーシップとは上から下への指導力、統率力が基本にある、それは否定しません。けれども自分を中心として、上司、部下、同僚、関係団体……その矢印の向きは常に上下左右なんです。だから上司を動かせない人に部下を動かすことはできません。上司を動かせる人であって、初めて部下を動かすことができ、同僚や関係団体を動かせる人であって、初めて物事を動かすことができるんです。よきリーダーとはよきコミュニケーターであり、人を動かす影響力を持った人を言うのではないでしょうか。

リーダーシップとは時と場合によって様々に変化していく。固定的なものではありません。戦場においては時に中隊長よりも、下士官のほうが力を持つことがある。ヘッドシップとリーダーシップは別ものです。あの便所においてはパートのおばさんこそがリーダーだった。そうやって自分が望む方向へ、相手の態度なり行動なりが変容することによって初めてリーダーシップが成り立つのです。


(本記事は『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』より一部を抜粋・編集したものです)

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◇宮端 清次(みやばた・きよつぐ)
1935年、大阪市生まれ。中央大学大学院法学研究科修了後、東京都庁に入庁。総務局災害対策部長、交通局長を経て、94年、東京都地下鉄建設株式会社の代表取締役専務に。98年、はとバス代表取締役社長に就任。役人出身らしからぬ意識改革と組織の改革を行ない、倒産の危機にあった同社を再建。その手腕は、「週刊ダイヤモンド」などのビジネス各誌で話題に。2002年に退任後は、同社特別顧問や東京都交通局経営アドバイザリー委員を歴任。現在は、「三やか人生」アドバイザー(心おだやか、体すこやか、行ないさわやか)として、講演活動を精力的に行なっている。

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