易経×ドラッカー:アフターコロナの時代を「知覚」する【ドラッカー学会理事・佐藤等】

新型コロナウイルスが世界中に引き起こした影響は計り知れず、コロナ禍の後の世界は時に「アフターコロナ」という言葉で表現されます。経済的にも歴史的にも大きな変化を経験した後の世界と、わたしたちはどのように向き合っていけばよいのか――。ドラッカー研究の第一人者・佐藤等氏に、易経とドラッカーという古今東西を問わない思想の源流に沿って読み解いていただきました。

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質的な変化を見つけその意味を問う

変化の激しい時代においては、継続しているものとそうでないものを見分けることが重要です。そこで観るべきものは、トレンドではなくシフトです。前者は、過去の活動によってもたらされる量的な変化です。一方シフトとは、質的に新しい、後戻りしない重大な変化のことです。

たとえば、21世紀に中国がグローバル経済に組み込まれ世界の貿易は量的に拡大してきたが、質的な変化が起こる新しい局面に入ったかもしれないとアンテナを立てることを「知覚」といいます。

「重要なことは、『すでに起こった未来』を確認することである。すでに起こってしまい、もはやもとに戻ることのない変化、しかも重大な影響力をもつことになる変化でありながら、まだ一般には認識されていない変化を知覚し、かつ分析することである」『すでに起こった未来』

質的な変化には過去がありません。したがって過去のデータを基に量的に分析する手法は役に立ちません。質の変化は「知覚」という方法を用い、得られた情報を分析することによって得られます。

ドラッカーは『断絶の時代』(1969)を著し、その書の目的を明らかにしました。

「本書は、定量的ならざるもの、質的なもの、構造的なもの、そして認識、意味、価値、機会、優先順位を見ていく」

今回のコロナ禍は、隠れている断層を露わにしつつあります。世の中の「断絶」を観るポイントは、今起こっていることの意味や価値を問うことです。ドラッカーが知覚のあとに分析せよといったのは、このことです。

先の例では、コロナ禍のあとにくるシフトの意味や価値を問うことです。マスクはウイルスと戦うための武器との認識の変化が起こり、単なる衛生品が国防品に意味を変え、価格よりも安全に価値を置くことになるかもしれません。そうなれば国内生産に回帰する動きが出てくることも考えられます。

やがて感染症に対する治療薬ができれば今回の災禍は収束します。その時、今回露わになった様々な「すでに起こった未来」や「新しい現実」はまた観えにくくなります。今私たちが行うべきことは、シフトを見逃さず、その変化の意味を問うことです。

窮まれば変ず変化を機会に変える

「明日の大学もまた、学生が通う場所ではなく、情報を伝送する知識センターとなる」『新しい現実』

30年以上前にドラッカーが予見したことが眼前で急速に起こりつつあります。

コロナ禍による臨時休校に伴う教育環境の彼我の差は、今回如実に表面化しました。中国はいち早く、アメリカの大学などでもオンライン授業を通常授業に変える動きが出ています。

しかし日本では学校の授業そのものをオンラインで行うという議論はこれからという段階です。今後シフトが起こることは間違いありません。

「パソコンや通信衛星の技術が、学校を呑み込む。その結果、学び方と教え方が一変する」『ポスト資本主義社会』

オンライン授業へのシフトは、すでに起こった「新しい現実」の一例です。私たちは、このような現実を前提に意思決定しなければなりません。それは、コロナ禍を福に転ずるということです。

そのためには、意識を変え、意思決定と行動を新しい姿勢で行うことです。さもなくば「昨日の現実」に基づいて考え、決定し、行動してしまいます。それは過去に取り残されることを意味します。

『「易経」一日一言』(致知出版社)に次の言葉があります。

「易は窮まれば変ず。変ずれば通ず。通ずれば久し」

好調な経済を背景に覇権争いを繰り広げていた二大国を含む全世界にコロナ禍が襲いかかりました。最高の時から一転。陽が窮まり陰に転じました。消費と生産の拠点を襲った災禍は世界経済に強烈な打撃を与えつつあります。

しかし陰もまた窮まれば陽に転じます。先の言葉に関する編者の竹村亞希子先生の解説です。

「物事は行き詰まることがない。窮まれば必ず変じて化する。変化したら必ず新しい発展がある。それが幾久しく通じて行って、それがまた生々流転する」

私たちは、常に実りの時(秋)を求めがちです。しかし収穫の後には、必ず滋養を蓄える冬が来ます。その厳しい冬のあとに来る春に種を蒔くから芽吹くのです。

『易経』は、しかるべき時に、しかるべき行いをすることの大切さを教えます。断絶の時代には、新しい変化の兆しを知覚することが大切です。自らの強みを生かせる機会を見つけ、この機を生かし、来るべき新しい実りの秋に備えたいものです。

(本記事は『致知』2020年6月号 連載「仕事と人生に生かすドラッカーの教え」より一部抜粋したものです。)

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◇佐藤等(さとう・ひとし)
昭和36年北海道生まれ。59年小樽商科大学商学部商業学科卒業。平成2年公認会計士試験合格。佐藤等公認会計士事務所開設。14年同大学大学院商学研究科修士課程修了。ドラッカー学会理事。編著に『実践するドラッカー』シリーズ(ダイヤモンド社)など。新刊に『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』(日経BP)がある。

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