恩田聖敬×佐藤仙務 ~僕らはこうして絶望を乗り越えてきた~ 

35歳の若さでJリーグ・FC岐阜の社長に就任すると同時にALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症した恩田聖敬さん。10万人に一人といわれるSMA(脊髄性筋萎縮症)を持って生まれた佐藤仙務さん。共に難病に屈することなく自ら会社を立ち上げ、仕事・人生を切り開いてきたお二人に、心の支えにしてきたものを語り合っていただきました。

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支えになったのは家族の絆

(佐藤)

僕の人生って、結構アップダウンがあって、先ほどのように「軟弱障碍者!」って言われてどーんと落ち込み、会社を立ち上げることができてどーんと上がってとか、そういう感じなんです。 

1年ほど前にも、インフルエンザで体を壊して入院し、どーんと落ち込んだんですけど、その中で学んだのは、仕事もプライベートも、本当にだめな時には、変に焦って何かをするのではなく、逆に何もせず、逆境が過ぎ去るのを待つほうがいいということですね。 

やっぱり、何事にも風向きってあると思っていて、追い風の時もあるし、何をやっても進めない向かい風の時もある。ただ、大事なのは、向かい風の時に完全に座り込んでしまわないということ。お尻さえついていなければ、追い風が来た時にいつでも立ち上がれます。追い風のタイミングが来たら、しゃがんでいた分まで前に進もう。僕はそういう思いでこれまで逆境と向き合ってきました。 

(恩田)

どんな時も座り込んでしまわないことが大事なんですね。 

(佐藤)

あと、逆境の時は誰かに相談するのも必要だと思います。 

まだ会社を立ち上げてすぐの頃に出逢った東海市役所の方がいるんですけど、僕はこれまでその方から、「健常者の集まりに参加することも大事なんだよ」とか、いろんなことを教えられてきて。 

僕は本当に悩んだり、泣きそうなくらい嫌なことがあったりすると、いつもその人に電話するんですよ。それである時、「どうしても許せない人がいて、もし自分の体が動けば殴ってやりたい」ってその人に電話したら、「じゃあ、もう一回考えてみて、どうしてもぶん殴りたいってなったら、俺が代わりに殴ってやる。俺の立場はもういい」って言ってくれたんです。 

(恩田)

素晴らしい方ですね。 

(佐藤)

そうやって僕の心の小ささを教えてくれるというか、勉強させられるというか、その人には本当に支えてもらってきました。 

(恩田) 

私の心の支えは、やっぱり妻と子供、家族の存在ですね。子供たちは毎日どんどん成長しています。その成長を見ていたら、私ももっとちゃんとしたパパになりたいと思うし、子供たちの成長をこれからも見るために、絶望なんてしていられないと思います。 

ALSに負けず前向きに生きる姿を子供たちに見せて、「パパは強くてかっこいい!」と思ってもらえる父親でいたい。病気が進行して、いま自分で子供たちを抱きしめることはできませんが、子供たちが私を抱きしめてくれます。 

医学は目覚ましい進歩を遂げていますから、必ずALSも治る日がやってくる。それまでしぶとく生き抜いて、家族に恩返ししたいと思っています。妻と子供にはこれから何が起こっても、「ずっと大好きだよ」と言いたいです。 

ALSになってから、私は「片道切符社長のその後の目的地は?」と題したブログで、病気のことや自分の考え方、生き方について発信しているんですが、子供たちが大きくなった時に私の生き様を読んでもらいたい。その思いがブログを書く励みになっています。 

(佐藤)

僕も家族の存在は大きいですね。病気のこともあって、僕は他の家庭より母と一緒にいる時間が長かったと思うんですけど、上の兄二人とも同じように家の中で過ごし、成長していきました。 

でも結婚して子供が生まれ、というように、兄たちが普通の人生を歩んで行く姿を見ると、そういう人生って羨ましいなぁと、一瞬感じてしまったことがあって。 

その時、いつも一緒にいる母は僕の心中を悟ったみたいで、「あなたが欲しいものは、そんな普通のものじゃないでしょ!」って言ったんですよ。それで僕は「誰もが持っているものだから、手に入れなきゃいけない」みたいに自分の中で勝手につくり上げていたんだと、ハッとさせられたんです。 

(恩田)

お母様の言葉で、ご自身の使命に気づかされたんですね。 

(佐藤)

最初は働く場所がないという、本当に自分本位な思いだけで会社を立ち上げたんです。でも社会に出て、障碍者の方が生活していく上での選択肢って全然整ってないってことを知ったことで、やっぱり自分はそういう状況にある障碍者の方を救っていく使命があるんだなと思うようになりました。いまの仕事をしているのも、自分の運命なんだと感じています。 

「隣の芝生は青く見える」と言いますが、たまに自分の本当にやりたいことがぶれちゃった時、母のひと言で「そうか」って原点に戻れたりするのは、家族にしかできないことなのかなって思います。 

(恩田) 

家族の存在は本当に大きいですね。

(本記事は『致知』2018年3月号 特集「天、我が材を生ずる 必ず用あり」から一部抜粋・編集したものです)

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◇恩田聖敬(おんだ・さとし)
昭和53年岐阜県生まれ。京都大学大学院航空宇宙工学修了。Jリーグ・FC岐阜の社長に史上最年少の35歳で就任。就任と同時期にALS(筋萎縮性側索硬化症)発症。平成27年末、病状の進行により職務遂行困難となり、社長を辞任。翌年、クラウドファンディングで資金を募り、株式会社まんまる笑店を設立。以後、全国で講演や執筆等を行う。佐藤氏との共著に『絶望への処方箋』(左右社)がある。 

◇佐藤仙務(さとう・ひさむ)
平成3年愛知県生まれ。4年SMA(脊髄性筋萎縮症)と診断される。22年愛知県立港特別支援学校商業科卒業。当時障碍者の就職が困難であることに挫折を感じ、ほぼ寝たきりでありながら、23年ホームページや名刺の制作を請け負う合同会社「仙拓」を立ち上げ、社長に就任。著書に『寝たきりだけど社長やってます』(彩図社)、恩田氏との共著に『絶望への処方箋』(左右社)がある。

 

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