野球は人生一生のドラマを2時間に凝縮したもの—— 浦和学院・森監督が語る〝瞬間的判断力〟の育て方

浦和学院高等学校を春夏通算21度の甲子園に導き、多くのプロ選手を育ててきた森 士監督。「集まってくれた生徒が常に主人公」という信念で一人一人の生徒と向き合い、成果を出し続けてきた名監督に、野球と人生を貫くモットー、そして教え子たちに伝えたい思いを語っていただきました。
※本記事の内容は2013年当時のものです

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目の前の一瞬、目の前のチームに全力を傾ける

201343日、春の甲子園で我われ浦和学院高等学校は初めて頂点に立った。

苦節22年。振り返るといろいろなことが頭の中を駆け巡る。その都度目の前に敵が現れ、思うようにいかないことの連続であったが、生徒や家族、守るべき存在がいたからこそ頑張ってこられたのだろう。

今回優勝できた一番の要因は私自身の意識にあると思う。まだまだ未熟だが、やはりトップに立っている人間の器を広げないと組織は伸びていかない。教育とは自分自身を磨くことだと日々実感している。

甲子園優勝は夢のような瞬間だった。しかし、それ以上に私が誇っていることは、この22年間、春夏秋とある埼玉県大会で決勝戦に行っていない年が一度もないということだ。

毎年生徒が入れ替わる高校野球では、時としていい選手が集まらないこともある。だからといって、「今年は諦めて来年勝てばいい」というチームづくりは一切してこなかった。集まってくれた生徒が常に主人公であり、とにかくいま目の前の代に懸ける。その積み重ねが成果に繋がったのではないだろうか。

私が今日あるのは上尾高校時代の恩師・野本喜一郎監督がいてくださったからに他ならない。大学時代、私は怪我に泣かされ、このまま選手として続けるか、指導の道に進むか悩んでいた。野本監督は上尾高校から浦和学院高校に移られていたが、そんな時、野本監督から「もし指導者を志すなら、手伝わないか」と声を掛けていただいた。

ところが、である。大学4年の時、野本監督はすい臓がんで亡くなってしまった。その年、浦和学院は初の甲子園出場を果たし、ベスト4まで勝ち進んだのだが、秋の大会では一回戦負け。選手たちは恩師を亡くした悲しみに打ちひしがれていたようだった。

そんな彼らの姿を見た時に、学校さえ違うものの、同じ師のもとに集った一人の人間として、残された後輩たちに何か手助けができないだろうかと思い、師の亡き後の浦和学院高校を守り立てようと決めた。

5年間のコーチ指導を経て、監督に就任したのは1991年、27歳の時。以来、負けたら終わりという勝負の世界にずっと身を置いてきた。その中で何が勝敗を分けるのかと考えると、それは瞬間的集中力の継続、に尽きるのではないかと思う。

私はよく生徒たちに「野球とは人生一生のドラマを2時間に凝縮したもの」と言っている。その時その時の決断が後の人生を大きく左右するように、野球の試合も一瞬のパフォーマンス次第で状況は目まぐるしく変化していく。

例えばストライク、ボールのカウントだけで12通り。それに加えてランナーが何塁にいるのか、相手がどういうバッターなのか、いま何回なのか、何点差あるのか……といったように、何百通りある組み合わせの中で、目の前の一瞬をいかに集中できるか。そこで咄嗟の判断を誤ったり、流れを読み間違えると勝機を逸しやすい。

人生のメンバー外になるな

瞬間的集中力の継続。これを養うには普段の生活こそが重要になってくる。我われ野球部の1日は、朝6時半からの全体練習で始まる。中には朝5時から個人練習を行っている生徒もいる。打撃練習は1日約2000スイング。怪我の原因にもなり得るため、ただ数を振ればいいというわけではないが、やはりある程度の数をこなさなければ感覚は身につかないし、上達しない。

1日の練習が終わると生徒たちは野球日誌を綴る。その日の練習内容や試合の展開を書き留め、考えを述べることによって、自己を内省し、気持ちを整えられるようにする。つまり、主体性を発揮させることが目的だ。

我われ野球部は3つのモットーを掲げている。

1、自分が自分を高める責任
2、後輩を育てる責任
3、組織全体を高める責任

チームづくりの中でまず求められるのは、自分が自分を高めること。これは下級生であっても上級生であっても同じだ。

チームスポーツでよく使われる標語にOne for all, all for one(一人はみんなのために、みんなは一人のために)とあるが、これに最後続く言葉は、but one for one(しかし、自分が自分のために)である。一番は自己責任であり、自己責任なき仲間意識などは無意味だと思う。

私は毎年、新入部員を全員集めてこう話している。

4000を超えるチームの中で私が監督をしている浦和学院高校を選んでくれてありがとう。私は君たちが甲子園で勝つために最善を尽くす。そして、これだけは約束してもらいたい。最後の1分、1秒までレギュラーを目指すこと」

84名の全部員のうち、大会でベンチ入りできるメンバーは20名、試合に出られるのは僅かに9名。心情的には全員入れてあげたいが、それができないのが高校野球の厳しさである。たとえレギュラーに選ばれなかったとしても最後まで戦う姿勢を貫いてほしい。大事なのはこの先、人生のメンバー外にならないことだと思っている。

私は現役時代、一度もベンチに入ったことがないメンバー外の選手だった。しかし、いま指導者として人生のメンバーにはなれている。だからこそ、生徒たちにも一人の男として自らの人生を切り拓く生き方――浦学魂をこれからも伝え続けていきたい。

(本記事は月刊『致知』2013年9月号連載「致知随想」から一部抜粋・編集したものです)

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◇森 士(もり・おさむ)
1964年埼玉県生まれ。浦和学院高等学校硬式野球部監督。東洋大学卒業。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。1986年浦和学院高等学校硬式野球部のコーチを経て、1991年同校監督に就任。同年の秋季関東大会でベスト4入りを果たし、1992年、第64回選抜高等学校野球大会でもベスト4に進出するなど就任当初からチーム成績を上げる。浦和学院を甲子園常連校に育て上げ、多数のプロ野球選手を輩出している。

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