公文式は21世紀の寺子屋。可能性を阻害しない、一対一の教育をめざして【村上和雄×角田秋生】

日本や世界はいま、大きな転換期に差し掛かっています。強きもののみが生き残る世界から共生の世界へ、目に見えるものだけの世界観から精神的な世界観へ――。本記事では、公文教育研究会元社長・角田秋生社長と、筑波大学名誉教授・村上和雄氏に、公文式教育の根底でもある〝子どもの力を引き出すための教育〟の重要性についてお話いただきました。

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公文の基本は観察すること

〈村上〉 
先日、公文の教室を見学させていただきましたが、感心したのは、教材がダーッと並んでいるでしょう。それを先生が聖徳太子のように、それぞれの子どもに応じて出してくるんです。

一番適している教材を出せるのは、教材すべてが頭に入っていることはもちろん、子どもの成長具合をほぼ完全につかんでいるということですよね。そうじゃないと、あんな見事なことはできません。

〈角田〉 
よく「公文の先生は教員の資格を持っているんですか」と聞かれますが、公文の先生の仕事は、一人ひとりの子どもが自学自習できるような状態にすることを目指しています。具体的には、その子に適切な質と量の教材を与える、これが先生の大きな仕事なんです。そのための研鑽を積み重ねています。基本的に最適な教材が目の前に置かれれば、子どもはやる気を起こすと考えています。

だから大切なのは、子どもを観察することです。教室に入ってくる時の雰囲気や、実際に勉強に取り組んだ時、鉛筆の進み方はどうか。究極的には子どもが「こんにちは」と教室に入った時に、その子のいま必要な学習が何かが分かると。実際、それに近い先生もいらっしゃいます。

〈村上〉 
でも、最初からそういうことができたわけではないでしょう。やはり訓練とか、子どもへの愛情がそうさせるのでしょうか?

〈角田〉 
公文の先生は基本的に臨床医と同じだと思います。臨床例を多く持つことによって、医療技術が上がっていくように、多くの子どもたちに接することですね。

〈村上〉 
なるほど。

〈角田〉 
公文の先生方は本当に互いに学び合うんですね。私どもでも1年ごとに講習会で必要単位を取っていただくようにしていますが、地域ごとに自主的に集まっての勉強会が非常に多いです。

そして皆さんが「学ぶ集団であり続けるべき」「子どもから学ぶ」「悪いのは子どもではない」とおっしゃっていて、それがコアな考え方になっているようです。

〈村上〉 
悪いのは子どもではない?

〈角田〉 
例えば子どもがうまく先に進めなかったとしたら、子どもが悪いのではなく、子どもに渡した教材が、適切な課題ではなかったからだという発想です。

まず「この子は伸びる」と信じて、「潜在的な力を伸ばしてあげたい」と。そういう思いを強烈に持っている先生が本当に多いです。

〈村上〉 
「教育」という言葉は明治時代になって生まれた言葉で、「エデュケーション」を訳したものですが、ある教育学者によると、「あれは最大の誤訳だ」と。なぜなら「いまの教育はティーチングで、エデュケーションではない。エデュケーションとは可能性を引き出すという意味だから」と言っていました。そういう意味では、公文はエデュケーションをやっておられると感じましたね。

教育は子どもが持っている潜在的な良い遺伝子のスイッチをオンにすることだと、私は思っているんです。

そのためには「場」が非常に大切ですね。研究も同じです。例えば、ノーベル賞を受賞された利根川進先生がおられた研究室からは、先生を含め5人のノーベル賞受賞者が出ています。指導された教授は、利根川先生らの弟子にあまりやかましく言わないで、まあ好きなようにやれと。そして肝心な時にアドバイスをして方向性を示してくれたといいます。

教授の中にも「あれやれ」「これやれ」といちいち指示を出す人もいますが、これでは下が伸びません。自分で考えないですから。

〈角田〉 
公文式も同じ考え方ですね。

阻害しない教育を

〈村上〉
私は江戸時代の寺子屋教育が明治以降の日本の発展を支えたと思っているんです。寺子屋のほとんどは私塾で、1万以上存在したといいますが、そこで教えたのが読み書き算盤です。その土台があったから、明治から100年で西洋に追いついた。しかも、そのほとんどがお寺の住職さんとか、教育の専門でない人が一対一で手ほどきをしたわけです。

ところが、明治以降は一律の教育によって一定水準の人間をつくろうとしましたが、いまその歪みが日本の教育のいたるところに見受けられる。その点、個別教育の公文式は現代の寺子屋だなと思うんですよ。

〈角田〉 
ありがとうございます。元ユネスコ職員で国際基督教大学教育研究所顧問の千葉杲弘先生も、「公文は21世紀の寺子屋だ」とおっしゃってくださっています。

〈村上〉 
非常にいいキャッチフレーズですよ。そしてこの日本独自の寺子屋の概念が海外で受け入れられて、世界中の子どもたちの可能性を引き出しているんですからね。

人間は遺伝子レベルで見れば38億年の艱難辛苦を乗り越えて生まれてきたんだから、もっと可能性があるはずです。それを「あの子は数学ができない」などといって、決めつけてしまう。本来人間の可能性を引き出すのが教育なのに、その教育が可能性を限定してしまっているのかもしれないと感じることがありますね。

〈角田〉 
分かります。

〈村上〉 
筑波の万博の時に、1粒の種から、1万数千個の実をなしたトマトが話題になりました。それを見て多くの人が、バイオテクノロジーを駆使してつくったと思ったそうですが、あの種は、種も仕掛けもない(笑)。“命には素晴らしい潜在能力がある”という、つくった人の哲学が生み出したものなんです。

〈角田〉 
哲学というのは?

〈村上〉 
土は植物にとって大切なものだといわれるけれども、土が根の成長を阻害している部分もあるんですね。それで土を取り除き、水耕栽培をしたわけです。植物の3大栄養素の、窒素、リン酸、カリではなくて、太陽、水、空気をフル回転させれば、生き物はまだまだ伸びるんだと。

要するに、植物には土がいる、という既成概念を取り除いたわけです。これはトマトの話に限ったことではなくて、専門家でもまだ分かっていない、無限大ともいえる可能性を生き物は秘めているんです。それを開発し、発揮させるのが教育なんですね。

〈角田〉 
おっしゃるとおりですね。教育とは何かものを教えることではなく、成長を阻害するものを取り除き、持っている可能性を引き出す仕事。公文の先生方の取り組みを見ていると、つくづくそう感じます。

(本記事は『致知』2009年5月号 連載「生命のメッセージ」より記事の一部を抜粋・再編集したものです)

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◇村上和雄(むらかみ・かずお)
昭和11年奈良県生まれ。38年京都大学大学院博士課程修了。53年筑波大学教授就任。遺伝子工学で世界をリードする第一人者。平成11年より現職。著書に『心の力』(共著・致知出版社)など多数。

◇角田秋生(つのだ・あきお)
昭和24年群馬県生まれ。54年東京公文数学研究会(当時)入社。横浜事務局、社長室、幼児向け事業責任者、事業開発室長を経て、平成10年に「書写教室」を展開する公文エルアイエル社長を経て、17年公文教育研究会社長に就任。27年、同社取締役相談役。

 

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