「50歳までに1億人以上の人生を変える」書道家・武田双雲さんの感謝の❝原点❞

NHK大河ドラマ「天地人」や世界遺産「平泉」、 スーパーコンピュータ「京」などの数多くの題字、ロゴの揮毫を手がけてきた武田双雲さん。現在は世界中から依頼を受け、パフォーマンス書道、書道ワークショップや企画展の開催など幅広い分野で活躍を遂げられています。既存の枠に捉われない大胆な発想や力強い書は、どのようにして生まれるのでしょうか。感謝と挑戦の日々を歩み続ける武田さんの、アーティストとしての原点について語っていただきました。※記事の内容や肩書はインタビュー当時のものです。

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人が喜ぶ姿に火をつけられた

――昔から書道家を志しておられたのですか。

〈武田〉 
いえ、書道は、書道家だった母に教わりながら3歳の時に始めたんですが、将来はプロになろうなんて考えはまったくなく、数ある習い事の1つといった程度でした。

長男でのんびり屋だったせいか、親の言われるままにずっとやってきて、大学に入った時も、一般企業に就職した時も、特別何も考えていませんでした。

――会社にはどれくらいの間、勤められたのですか。

〈武田〉 
約2年半です。

――退職をされたのはなぜですか。

〈武田〉 
まず、母の書いた書に感動したんです。久々に帰省した時に、「飛翔」という書を見て鳥肌が立って。いままでも見てきたはずだったんですが、書ってこんなにカッコよかったんだと。社会に出ていろいろなことを経験し、初めて客観的に書というものを見られたのかもしれません。でもそれで書道家になろうとは思いもせず、会社に戻ってまた働き出しました。

そんなある時、先輩がやってきて「名刺に筆で字を書いてほしい」と言うんです。少し前から、僕の字がうまいというのが社内でバレ始めていたんですね(笑)。いいですよ、と書いて渡したら、それが社内中の噂になって。書くたびに皆が「カッコイイ」と言ってくれて、その喜んでくれる姿があまりにも嬉しくて、これでいっちゃおうかな、と思って会社を飛び出しちゃったんです(笑)。

――それはまた思い切った行動を。

〈武田〉 
とにかくもっとこれで人を喜ばせたい、という一心でした。それで最初に夢を持とうと思ったんですが、やっぱりできるだけ多くの人を喜ばせたいなと。

じゃあどれくらい? と考えた時に、約60億いる世界の人口のうち、50歳までに1億人以上の人生を変えると決めたんです。

――壮大な夢ですね。

〈武田〉 
でもまず何をやっていいか分からないし、練習している時間がもったいないから、外で書こうと思ってストリートに出たんです。

最初はやっぱり人が来てくれない。集まってきたとしても、誰も何も反応してくれない。そこで、ちょっと諦めたというか、力を抜いたわけです。そして地べたに座りながら人間ウォッチングをしていたら、皆の悲しそうな表情とかが見えてきて、道行く人々に興味が湧いてきたわけです。

つまりそれまでは、周りのことにまったく興味がなかったわけですね。自分のことばかり考えて、こっちへ来い、こっちへ来い……みたいな(笑)。相手のことをまったく見ていなかった。それが見られるようになってきてから、不思議と人が集まってくるようになりました。

こちら次第ですべてが変わる

〈武田〉 
でも最初はまたエゴが出て、評価されたい、認められたいという気持ちがあるから、何のリアクションも返ってこない。それで、これじゃいかん、相手のことをもっと知らなきゃと思って、人の話を聞き始めたんですね。

すると1時間近く仕事のグチを言う人もいたし、自分の身の上話を延々とし始める人もいて、人って、心の内に秘めている、伝えたいことがやっぱりあるんだなと思いました。そして、いろいろと話をして、お互いの心が繋がった後に書を書くと、皆が感動してくれたんですよね。

で、この発見が大きかった。同じストリートでも、こっちの気持ち次第、こっちのあり方次第で、こんなに人の反応は変わるんだと。それは僕にとって途轍もなく大きな発見であり、コペルニクス的大転回でした。自分がうまい字や、すごい字を書きたいという心じゃダメなんだと。つまりそれは評価を求めているということでしょう。

こういうものを書いたらどう見られる、ということばかり考えているうちは、人を感動させられない。相手のことに好奇心を持って、その人を心から喜ばせたいとか、悲しみを取り除いてあげたいといった気持ちがあって、初めて書は人に感動を与えられるものである。

ということは、こっちが世界中の人々の心に関心を寄せていけば、向こうが僕を手繰り寄せてくれるんじゃないかと思ったんです。

――あぁ、なるほど。

〈武田〉 
それと、もう一つ大きな気づきがあったんですよ。僕の書を見てくれた人の中で、泣き出す人が出てきたんです。そしてその数は日増しに多くなっていった。

その時に僕は、これは自分が感動させているわけじゃない、ということに気づいたんです。その人の溢れ出そうになっていた感情のスイッチを、僕の書がたまたまポンと押しただけじゃないか、と。

ちっぽけな自分が1億の人々を感動させるのは難しい。でもそういうことだったら、いけるんじゃないか。こっちの心のあり方次第、行動の仕方次第によっては。

――大きな発見でしたね。

〈武田〉 
いま僕の話したことを聞いて何かを感じた方は、ぜひ実践してみるといいと思うんです。こっちの言葉の選び方一つ、態度一つで相手の態度が変わりますから。そしてすべては自分のあり方次第であることに気がつく。

でもいくら気づいても、実践を繰り返さないと、細胞の中にまで染み込んで、体質化していかないんですね。

だから僕はテレビに出る時も、自分がどう見られているかという意識を、できるだけゼロに近づける。後でどう評価されるかという意識で話をしていたら、言葉って全然伝わらないと思うんですよ。

そうやって、書だけでなく、すべてが自分の作品である、ということに気づけたこともまた大きかった。しゃべることや書くこと、つまり生き様そのものが僕の作品なんだと気づいた時から書の世界だけにこだわらなくなりましたね。

日々感謝、感動し、感性を磨いていく

――書の技術はどうやって磨いてこられたのですか。

〈武田〉 
数です。それ以外に、近道はないんじゃないですか。そして自分の書のダメな部分はダメと素直に認め、認めることでまた練習しようという気持ちになる。

それから人の書をたくさん見ることだと思います。それも書家の書だけじゃなく、好奇心を持ってあらゆる人の書を見る。自分の書や人の書はよく見ているようで実は見えていないので、とにかく「よく観ること」が、書くこと以上に大切な技術の根幹だと思っています。

――ほかによい書を書くための心得などがあれば教えてください。

〈武田〉 
やはり気を清めることだと思います。相手にとっていかに心地よいエネルギーになるか。書道って、そもそもコミュニケーションの手段ですから。

要するにお互いのエネルギー交換のツールですよね。だからこちらが気を高め、訓練していく以外にない。日々感謝、感動し、感性を磨いていくことで、より相手の立場に立とうとする思いが強くなるから、もっと読みやすい書を書こうとか、人を元気づける書を書こうという気になってそれがよい書に繋がっていくんだと思います。

――根本はやはり、感謝、感動、感性ですね。

〈武田〉 
そう。そしてこの感謝、感動は、インプットをすることなんですね。それが溜まってくると、自然と外へ出ていくものだと思うんです。技術はそれを放出するパイプのようなもので、技術が高まるほど、よい花となって咲いていく。感謝、感動が種まきだとすれば、美しい花を咲かせるのは技術だと思うんです。

――その感謝、感動の種を見つけるのも、意識の持ち方次第ですね。

〈武田〉 
はい。意識を向けるだけで、日々数限りなく、何かを発見できるようになります。どの国やどの時代に生まれようが、実力があろうがなかろうが、感謝、感動は誰にでもできますからね。

でもこの一番シンプルで一番簡単なはずのことを、僕も含めて多くの人ができていません。時間がかかるし、目に見えないし、誰かが数えているわけでもない。自分でチェックして心掛けていくしか方法はありません。


(本記事は月刊『致知』2010年10月号 特集「一生青春、一生修養」より一部を抜粋・編集したものです)


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◇武田双雲(たけだ・そううん)
昭和50年熊本県生まれ。東京理科大学理工学部卒業。3歳より書道家である母・武田双葉に師事し、書の道を歩む。大学卒業後、NTT入社。約2年半の勤務を経て書道家として独立。様々なアーティストとのコラボレーション、斬新な個展など、独自の創作活動で注目を集める。平成21年のNHK大河ドラマ『天地人』の題字も揮毫。『「書」を書く愉しみ』(光文社)『武田双雲にダマされろ』(主婦の友社)など著書多数。

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