2024年06月03日
人間は「感性」のはたらきによって真に人間らしい人間として生きることができる、と提唱する感性論哲学の創始者・芳村思風氏(写真右)。行動科学・感受性訓練・禅という3つを融合させた「BE訓練」の開発者である行徳哲男氏(写真左)。感性を人間の本質と捉える両氏が語る、時代を超えた普遍的リーダー論とは――。
※対談の内容は2010年当時のものです
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リーダーは逃げてはいけない
〈芳村〉
永遠に変わらない万古不変のリーダーの条件というものがあります。
その1つは決して逃げないこと、受けて立つということです。そのためには、問題の前にたじろがない精神が必要です。古来、優れたリーダーは決して問題を恐れなかった。「俺に任せておけ。なんとかするから、心配するな」という親分肌を持っていましたね。
〈行徳〉
北条時宗は蒙古が使者を寄こしてきた時、17歳でした。しかも体も気持ちも弱かった。
その時宗の家庭教師として呼ばれたのが無学祖元ですよ。蒙古からの使者にどう対応すればいいか時宗は分からなくて、無学祖元に相談に行くわけです。そこで無学祖元が時宗に叩きつけた一言が
「驀直去(まくじきこ)」
です。「まっしぐらに突き抜ける」という意味です。逃げるな、ということです。
その「驀直去」は後に禅の公案になりました。
「大事到来、いかにしてこれを避くべきや」「酷暑到来、酷寒到来、いかにしてこれを避くべきや」という問いに対する答えが「夏炉冬扇」という言葉です。夏は暑さにどっぷり浸かる、冬は寒さにどっぷり浸かるということです。そのことになりきるということですね。
現代人は苦しみから逃げ過ぎていますよ。苦しみから逃げるから、苦しみにつきまとわれるんです。逃げ回って何かと言い訳をつくるのは大体、理性型の人間ですよ。言い訳が多過ぎます。
感性型の人間は自分の置かれた状況に浸り切ることができますから、苦しくなったら苦しみます。悲しかったら思い切り泣けばいい、死ぬ時は死ねばいいんですよ。良寛禅師も「災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候。死ぬ時節には死ぬがよく候。是はこれ災難をのがるゝ妙法にて候」と言っています。
〈芳村〉
理性で考えると「問題が出てこない道があるはずだ」「問題が出てくる道は間違った道だ」と思ってしまうんですね。
だけど、人間は不完全だから問題が出てこない道はない。問題があることが正常で、ないことは異常なんです。そういう現実判断ができないと、問題を恐れずに向かっていくという生き方はなかなかできません。
だから、逃げずに受けて立つことはリーダーの基本になるのです。
生きている時間は現在しかない
〈芳村〉
その次に大事なことは、決断に懸け、あれこれ考えて迷わないことです。「この道を選んだから、こんな問題が出てきた」「ひょっとしたら、あちらのほうがよかったんじゃないか」と迷うような生き方をしてはならない。
自分がいま、現在の最大の力を使ってこの道で行こうと決めたら、出てくる問題はすべて、しらみ潰しに乗り越えていくという生き方をしなければいけない。「断」の力が必要なのです。
〈行徳〉
前後裁断ですね。過去も未来も断ち切って、いまに生きる。
〈芳村〉
リーダーにはこの断ち切る力が絶対に必要です。
間違いやすいのは、決断とは多くの可能性の中からある1つに決めることだと思っている人が多いけれど、そうではない。決めた限りはほかへの思いを断ち切る、これが決断です。断ができて初めて、不撓不屈の意志が固まるんです。
〈行徳〉
断の力は感性の力ですよ。知性や理性は連鎖の力なんです。
祇園精舎の教えに
「過ぎ去れることを追うなかれ。いまだ来たらざることを思うなかれ。過去はすでに捨てられたり。未来そはいまだ到らざるなり。されば、ただ今あるところのものをそのところに於いて観察すべし。揺らぐことなく、動ずることなく、そう見極め、そう実践すべし」
とありますが、いまの経営者は過去を追い過ぎていますよ。
板画家の棟方志功も「一大事とは、今、ここのことにて候」と言っています。
〈芳村〉
生きている時間は現在しかない。だから、いま、自分が最高の生き方をしていれば過去も全部よかったことになるんです。
そして熱情を持っていまを生きるには、未来に理想がなくてはいけない。理想とはいまを生きる力です。だから、「うまく行くだろうか」と迷うのではなく、未来に理想を持って愚直に現実を理想に近づけていく努力をすればいい。
未来もまた現実なんです。過去も現在で決まるんです。だから、現在を鮮やかに生きることによって過去も変わり、未来を支配できる。そういう生き方をしないと本当の命は輝きません。
(本記事は月刊『致知』2010年10月号 特集「一生青春、一生修養」より一部を抜粋・編集したものです)
◉『致知』最新7月号 特集「師資相承」に行徳氏がご登場!!
「とにかく現代は虚構、見せかけが多すぎる。決定的に大事なのは存在だよ。やっぱり独立した自分を生き切らなきゃ」――行徳哲男
感性の哲人・行徳哲男氏、92歳。米国の行動科学と感受性訓練を東洋の禅と融合し、「感性=紛れもない私」を取り戻す研修を創始した人物です。50年以上にわたって人間開発の一道を歩み続け、経営者やアスリートなど受講者数は3万人以上に及びます。
スポーツキャスターの松岡修造氏もその一人。衝撃的な出逢いから約30年の時を経て、師と弟子が今回初めて本気で語り合う「日本人にいま伝えたい魂のメッセージ」とは――。【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】
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◇行徳哲男(ぎょうとく・てつお)
昭和8年福岡県生まれ。35年成蹊大学卒業。46年BE研究所設立。行動科学、感受性訓練と禅を融合した訓練により、感性を取り戻す研修を行う。著書に『感奮語録』(致知出版社)など。
◇芳村思風(よしむら・しふう)
昭和17年奈良県生まれ。学習院大学大学院哲学博士課程中退。思風庵哲学研究所を設立。感性論哲学の創始者。元名城大学講師。著書に『人間の格』(致知出版社)など。