2020年07月21日
新型コロナウイルスの流行を受け、石けんやアルコール消毒液を用いた手洗い、マスクによる咳エチケットによる感染予防はもはや常識として浸透しています。一方で、自粛期間が明け段々と日常が戻ってくるなか、「栄養・休息」を基にする内からの予防が疎かになりはじめた方も増えているのではないでしょうか。本記事では免疫学の権威である星野泰三博士に、食事と免疫の関係について詳しくお話いただきました。
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食事でコントロールできる免疫力
私たちが健康であり続けるためには、医学的に3つの条件が必要とされています。すなわち神経、ホルモン、免疫です。神経は体の各部に指令を出す、ホルモンは体の機能を高めたり抑えたりする、免疫は細菌やウイルスなどから体を守るなど、それぞれの役割を担っています。
このうち最も生活によってコントロールしやすいのが免疫力であって、それを高めるのに一番効果的なのが食事なのです。食生活に気をつけていないと免疫システムに悪影響を及ぼし、健康を損なってしまいます。
免疫とは何か、これについて少し触れておきましょう。私たちの周囲には細菌やウイルスが多数存在しています。これらは呼吸や食事などによって常に体内に侵入しようとしてきます。そのままでは病気になってしまいますから、異物の侵入を防がねばなりません。そのために戦っているのが免疫であり、その主役は主に血液内の白血球です。
白血球は、異物を捉える「マクロファージ」、異物を攻撃する「顆粒球」、それにマクロファージや顆粒球だけでは対処できないがん細胞などに抗力がある「リンパ球」(T細胞、B細胞、NK細胞など)に分類され、それぞれがお互いに作用し合いながら免疫反応を高めています。
免疫力が正常に働いていれば、体内のウイルスや細菌は次々に排除されていくのですが、何らかの原因でこれが低下すると、ウイルスや細菌が増殖し病気になってしまいます。寝不足や不規則な生活が災いして、風邪をひいてしまうのはその典型でしょう。
バナナ/キノコ類/淡色野菜/魚に注目
免疫と栄養が関わっていることは、果物による実験で立証されています。バナナを食べてからの免疫細胞の数の推移を観察すると、12時間後、24時間後に顆粒球、マクロファージを中心とする白血球の数がいずれも大きく増加することが確認されています。最も免疫力が増強するのは、一週間ほどおいて皮に黒い斑点ができたバナナです。
椎茸(しいたけ)に限らず、アガリクスやメシマコブなどのキノコ類が、がんを防いだり免疫力を高めることは以前から知られていましたが、最近の研究ではβ(ベータ)-グルカンと呼ばれる多糖類にその効果があることが認められました。β-グルカンは水溶性なので、調理の際には、長時間水に浸したり、煮込んだりしないことがポイントです。
キャベツや大根、長ネギ、ニンニクのような淡色野菜にも免疫力を高める効果が確認されています。これは植物に含まれる色や香り、辛み、苦みなどの成分でファイトケミカルと呼ばれているものです。ちなみに、ファイトケミカルは緑黄色野菜にはあまり含まれていません。
魚料理を見てみましょう。免疫力を高めるのに一番いいのは刺身です。免疫システムの主力である白血球には、ウイルスなどの異物を退治するキラーT細胞があり、その栄養源となるのが、イワシやマグロ、サバなどに含まれる良質タンパク質です。加えて、魚に含まれているDHAやEPAなどの不飽和脂肪酸は血圧を下げて脳の機能を高めたり、血管を拡張させ血行をよくする働きがあります。
味噌汁の中に入れる具を工夫すれば、さらに免疫力を高めるメニューができます。長ネギや大根などの淡色野菜、胃や大腸の免疫を守るビタミンCを含むジャガイモ、解毒作用のあるアサリ、β-カロテンが豊富な小松菜など、いくつかのメニューを考えましょう。
冷たい食べ物や飲み物は避けたい
人間の30%の免疫細胞が腸管に集まっています。食物は食道や胃、小腸を通って大腸にたどり着きます。そして食べ物にくっついた細菌やウイルス、毒素などは最終的に大腸の免疫細胞によって集中的に排除される仕組みとなっています。
これをケアするには、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を含むヨーグルトを摂取して、免疫細胞の働きを高めるといいでしょう。反対に便秘や下痢などで腸の働きが悪くなると、同時に免疫力も低下してしまいます。
免疫力を低下させる要因は、それだけではありません。冷たい食べ物や体内の酸化を招く糖分の取り過ぎを嫌います。タンパク質が極端に少ない野菜だけの食事もアルブミンの欠如により免疫力を衰えさせてしまいます。さらに、添加物の入った食品もできるだけ避けるべきです。アルコール、特にウイスキーやブランデーを愛飲されている方には、多糖体を多く含む日本酒に切り替えることをお勧めしています。
以上、免疫力と食事についてほんの一端を紹介してきましたが、食事だけ改善すればいいというわけでは、もちろんありません。新陳代謝をよくする有酸素運動、さらに精神的なストレスを取り除くためのアロマを使った入浴法、モーツァルトを聴きながらの睡眠、よき睡眠を得るための寝室のコーディネートなど、いろいろな方法があります。
食事、呼吸、運動のバランスが上手に保ててこそ、本当の意味で高い免疫力が維持できるのです。
※新型コロナウイルスに関しては解明されていない部分も多く、厚生労働省や国立感染研究所の発出する情報、さらに自治体や保健所や医師会などから出される情報に留意し、適切な予防や治療が望まれます。
(本記事は『致知』2004年12月号連載「大自然と体心」より一部抜粋・編集いたしました)
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◇星野泰三(ほしの・たいぞう)
医学博士。昭和63(1988)年東京医科大学卒業後、大学院にて腫瘍免疫専攻。米国立衛生研究所(NIH)に留学しフェローシップを取得。大学講師を経て統合医療ビレッジグループ理事長。日本統合医療学会発起人。『高速温熱リンパ球療法』『ガンを封じる5次元理論』など著書多数。