「まさに日清戦争前夜」――いま日本の国防はどうあるべきか 櫻井よしこ×番匠幸一郎

ジャーナリストの櫻井よしこさんと、元陸上自衛隊西部方面総監の番匠幸一郎さんは、対談中に「国難ついに来たれり」という言葉を何度も口にされました。緊迫化する台湾情勢など、日本を取り巻く情勢はかつてない緊張関係にあるいま、日本はどうあるべきなのか。お二人に縦横に語り合っていただきました。

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日本国民が国防を担っている

(番匠) 

私は日本を取り巻く国際情勢を考えた時、いまはまさに日清戦争前夜ではないかという気がするんです。

日清戦争が起きたのは、明治27(1894)年、西南戦争が終わって間もない頃でした。非常に強大な清という国と、どんどん東方に進出してくるロシアと、不安定な朝鮮、これらとどう向き合って国の独立と平和を守るかが明治の日本人の一大テーマでした。10年後の日露戦争もまた似たような構図です。

当時は同盟もありませんから、日本はまさに自分たちの力で戦略を考え、大陸の3つのパワーと対峙していきました。その日清戦争から120年余を経て、再びそのような時代を迎えているように私は思っているんです。

(櫻井) 

確かにその通りですね。

(番匠) 

この状況に向き合うには、まず日本列島の守りを強くすることが大切です。北海道から沖縄の与那国島まで日本全体に精強な自衛隊員を配備し、信頼できる米軍と共に防衛体制を固め、国自体を強化することが欠かせません。

軍事力の本質はパワーなんです。優勝劣敗は戦いの原則です。安倍政権になって以降、防衛費は着実に上がっていますので、強い国土、強い自衛隊、強い同盟というものをこれからも追求していかなくてはいけないと思います。

(櫻井) 

日本列島を強くしなくてはいけない、優勝劣敗だといまおっしゃいましたけど、勝つために何をしなくてはいけないのか。私は簡単だと思います。私も憲法改正を強く主張している一人ですが、それは大目標であって、その前にやらなくてはいけない具体的な事例があります。例えば、自衛隊員の確保です。陸上自衛隊員、いま何人いらっしゃるのですか。

(番匠) 

常備自衛官の定員は15万1千人なのですが、実質は14万人を切っています。陸海空合わせると2万人以上足りないのが現実です。

(櫻井) 

100万人の中の2万人が足りないというのならまだしも、25万人の2万人が足りないというのは、大変な事態ですよね。そのあたりを含めて、いま何をしたらいいのでしょうか。

(番匠) 

私たちはよく「態勢」と「体制」という言葉を使うんですが、この両方を強化させていく必要があると思います。「態勢」で言いますと、いささか雲を掴むような話で恐縮ですが、国民が武士道精神を持つことです。いまの日本には武の精神が希薄なような気がするんです。

(櫻井) 

確かにいまは、もやしのような男性が多いですね(笑)。テレビに出ている男性を見ても、「この人だったら守ってくれそうだ」という男性はとても少ない。

(番匠) 

本来、強さというのは優しさと同義だと思います。「強くなければ優しくなれない」と言いますが、強さがあるから他者を守ることができるんです。当然、自衛隊の隊員一人ひとりは強くなくてはいけません。

少し生意気に聞こえるかもしれませんが、いまの日本社会は何事につけ公よりも私を優先します。権利か義務かと問われれば権利、自由か規律かと問われれば自由という考えが主流になりつつあります。

ところが、国を発展させていこうと思えば、公のために何ができるか、集団の中で規律を重んじどういう義務を果たさなくてはいけないか、という発想が欠かせないんですね。要するに楽しいことよりも厳しいことに立ち向かうことのできる姿勢が、特に次代を担う若者には求められているように思います。

その根底にあるのが日本古来の武の心、武士道精神です。それがここでもう一度見直されてもいいのではないかと。

(櫻井) 

イラクに行かれる前も、そのことを強調しておっしゃっていましたね。

(番匠) 

はい。先ほど「態勢」と申し上げましたが、国防とは自衛隊だけがやるのではありません。私は国防は国民のものであり、国民の仕事だと思っています。もちろん自衛隊が最前線に立ちますが、自分たち国民が国防を担っている。そういう武士道精神を取り戻すべきだと私は思います。

国の運命に責任を持つ

〈櫻井〉 
言うまでもなく国の一番の責務は国民を守ることです。経済的に国民を支えていくこと、外敵や自然災害から命を守ること、大きくはこの2つですね。

経済に関して、いまの日本はいろいろな問題はあるにしろ、民間の力が発揮できていると感じていますが、一方で日本が自律国家となるためには教育の改革は欠かせないですね。ここでは詳しくは触れませんが、少なくとも文科省がやっているような教育では駄目で、一人ひとりの能力を伸ばすためのしっかりした基礎づくりが求められています。

もう一つの国民の命を守ることについていえば、この対談の時間のほとんどを費やした安全保障、軍事力の問題こそが最優先課題です。それを考える時、番匠さんがいみじくもおっしゃった「自衛隊だけが国を守るわけではない」という視点はとても重要になってきます。自衛隊がいくら少数精鋭で頑張っていたとしても、ウンカの如く襲ってくる敵には敵わない。

ではどうしたらよいのか。これは国民の自覚を促す教育の問題とも関わってくるでしょうが、国民皆が自らの問題として自主的に考えていく必要があると思うんです。

〈番匠〉 
今回のテーマ「自律自助」の根底にあるのは、いまのこの時代に生きる者として、その責任を果たす気持ちだと思います。元寇をはじめとして日本はこれまでいろいろな国難に見舞われてきましたが、先人たちは勇気と情熱を持ち、時に犠牲を払いながら日本を守ってきました。その日本を平和で豊かな国として後世に受け継ぐのが私たちの役割です。その責任を自覚することが、自律自助の精神に結びつくのではないでしょうか。

いま令和という時代を迎えました。私たちは未来を予見することはできませんが、できることが2つあると思います。1つ目は未来に備えることで、その究極にあるのが防衛力です。2つ目は理想的な未来をつくるための努力を惜しまないことです。そして、この2つはいまからでもできることです。

「人事を尽くして天命を待つ」という言葉がありますが、いまは待つだけでなく「天命を信じて人事を尽くす」という主体的、自律的な生き方が日本人には求められるのかもしれませんね。

(本記事は『致知』2020年1月号「自律自助」から一部抜粋・編集したものです。

★『致知』2022年9月「実行するは我にあり」には、番匠幸一郎さんと元国家安全保障局次長の兼原信克さんによる緊急対談を掲載。「日本は安全保障の一丁目一番地」「台湾有事は起こり得るか」「核シェアリングの議論は待ったなし」など、日本は自国を守るために、具体的にどのような対策をとればよいのか。タブーなしに語ります。ぜひご覧ください。【対談詳細はこちら(「電子版」でも全文をお読みいただけます)】

◇櫻井よしこ(さくらい・よしこ)
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスター等を経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年「国家基本問題研究所」を設立し、理事長に就任。23年日本再生に向けた精力的な言論活動が評価され、第26回正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。近著に『韓国壊乱 文在寅政権に何が起きているのか』(PHP新書)など多数。

◇番匠幸一郎(ばんしょう・こういちろう)
昭和33年鹿児島県生まれ。55年防衛大学校卒業。平成12年米国陸軍戦略大学卒業。第三普通科連隊長兼名寄駐屯地司令、第一次イラク復興支援群長、幹部候補生学校長、陸上幕僚監部防衛部長、第三師団長、陸上幕僚副長、西部方面総監などを歴任し、平成27年退官。平成30年まで国家安全保障局顧問。現在は丸紅顧問の他、全日本銃剣道連盟会長を務める。

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