ソフトバンク・孫正義と対談——竹村健一が語った日本の将来

評論家の竹村健一さんが7月8日午後、東京都内の病院でお亡くなりになりました。米国留学などで培った豊かな国際感覚に基づき、テレビや雑誌などを通して日本人の常識を覆す大胆なメッセージを発し、メディアの寵児となりました。月刊『致知』の誌面にもたびたび登場。その中から、ソフトバンク創業者の孫正義さんとビッグバン(金融制度改革)について対談した1998年2月号の記事の一部をお届けし、生前のご活躍に敬意を表しご冥福をお祈りいたします。

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M&Aはマネーゲームではない

(竹村)
全面的な金融大改革、いわゆる日本版ビッグバンが行われるのは2001年からだけど、98年4月からは外為法の改正が実施されて、金融が自由化になる。

マルチメディア・ビッグバンという言い方もあるように、金融だけでなくあらゆる分野で規制がバーンと外されていく。あらゆる分野にビッグバンがあるわけですね。だから、今までと違う日本が生まれる。

(孫)
今までのやり方が通用しなくなるし、すでにビッグバンという台風の接近で銀行や証券などは暴風雨に見舞われています。温室の中で育てられていた産業界もこれからは寒暖の激しい自然界と対峙しなければなくなる。

(竹村)
経営のやり方を変えなければならんということは、人間の生き方にも影響してきます。そこで非常に参考になるのが、孫さんの生き方だ。すでにビッグバンを先取りし、成功しているモデルが目の前にいる。

(孫)
恐れ入ります。

(竹村)
ソフトバンクが株式を店頭公開したのが94年7月だから、まだ3年ちょっとしかたってない。その若い企業がアメリカの世界的な企業を次から次と買収する。こんなこと、日本では誰もようやらんかった。

孫さんは、今のところ間違いなく成功している。だからこの先もずっと成功し続けてほしいのよ。でないと、あなたに続こうとする日本の若者が委縮してしまう。

求めるのは世界のナンバーワン

(孫)
志として本業の分野で世界一になりたかった。だから国内で他の分野に進出するよりも、世界に打って出ることを選択しました。われわれの業界はマイクロソフトでもインテルでも、みんなアメリカのナンバーワンが日本でもナンバーワンになってるわけです。

だから、業界においてはアメリカがメッカで、アメリカが都(みやこ)です。その都にですね、旗印を揚げないことには天下になにかを主張できません。

(竹村)
世界に覇を唱えよう、世界に旗を立ててみせる、と思った。あなたの行動の基本にある、そういう志の高さというものが、残念ながら日本で知られていない。あなたが買収にかかった企業はすでに世界一だったんでしょう?

(孫)
世界の断然トップです。

(竹村)
日本人は気が小さいし、劣等感が強くて、日本一の会社の経営者でも、世界一になれないと思っている。例外はソニーの盛田昭夫さんとかホンダの本田宗一郎さんなど、ごく少数ですよ。ところが、あなたは上場間もなく世界企業をM&Aした。最初にM&Aのツバをつけたのはコムデックスでしたな。

(孫)
そうです。93年秋でした。ラスベガスのコムデックスの展示会場を見学した時、「コムデックスが売りに出るかもしれない」という噂を会場で耳にして、創業者でグループの会長のシェルドンさんに面会を求めたんです。

(竹村)
いきなりね。そこらへんがなんとも厚かましい(笑)。まだ株式も公開してない会社の社長が、それも30代の男がね、ナンバーワンの企業を買ってやろう思うてトップに会いに行く。あなたの行動を見てくると、けっこう厚かましいところがありますよ。だけど、そこがすごいんだ。

ビッグバンこそ幸福への道

(竹村)
もう一度、日本の株式市場を復活させるために、僕は去年あたりからアメリカでやってる「401K」というのを日本でも導入できないかと、各界のリーダーたちに呼びかけているんだ。

サラリーマンなどが将来の自分の年金にあてるため、毎月決まった額を給料から引き出して、株やら投資信託を買う。この方法が導入できると株式市場も一気に活性化して立ち直る。

そういうように頭を切り替えなければ、グローバルスタンダードの資本主義は21世紀には成り立たん。一所懸命にモノを作って、それを売っているだけではだめなんだ。

(孫)
おっしゃる通りです。

(竹村)
日本は底力と体力があると僕は言っている。底力とは世界一のいいモノを作る能力。その結果入ってきたお金の額は一人平均で世界一。これが体力だ。日本には1200兆円もの個人金融資産があるんだから、これが賢明に使われるようなシステムがあれば、不況なんていっぺんにふっ飛ぶ。

僕はいろんな規制が取り払われるビックバンを、むしろ「チャンスの到来」と見ています。現状を打破して日本人が幸福になるための大変革ですよ。

人間、まじめに働くことはとても大事なことだけど、それだけではもはや不十分なんだと気づいてほしい。体力も底力もある日本は、そういう自助努力でもう一度輝かしい時代を迎えられるし、そういう日が来ることを僕は夢見ています。

(本記事は『致知』1998年2月号の特集「創意と工夫」の対談記事より一部抜粋したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら\この夏、読書の旅に出かけようキャンペーン開催中/【いまだけ特典書籍つき!】詳しくはこちら

竹村健一(たけむら・けんいち)
昭和5年大阪府生まれ。京都大学文学部英文科を卒業、第1回フルブライト留学生としてエール大学などに学ぶ。30年『英文毎日』記者としてジャーナリスト生活に入る。その後、追手門学院大学助教授を経て言論界で活躍。

孫 正義(そん・まさよし)
昭和32年佐賀県生まれ。久留米大学附設高校を1年で退学し、アメリカに留学。55年カリフォルニア大学バークレー校経済学部を卒業。56年日本ソフトバンクを設立、社長に就任。

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