サグラダ・ファミリアに向き合い続けて40年——彫刻家・外尾悦郎に学ぶ仕事術

スペイン・バルセロナの世界遺産、サグラダ・ファミリア教会にこのほど正式な建築許可が下り話題になりました。着工から137年。この世紀の大工事に40年間にわたって携わっている一人の日本人がいることをご存知でしょうか。外尾悦郎氏(サグラダ・ファミリア芸術工房監督)です。遠いアジアから乗り込んで活動を続ける同氏に、独自の「仕事術」を伺いました。

40年続けることができた理由

(外尾)
(勤続40年は)長いのか短いのか分かりませんけど、200人いるスタッフの中で一番の古株になってしまいました。

古株っていうのはだいたい煩(うるさ)がられるんですよ。ましてや、私のような外人部隊は一番危ないところへ送り込まれて、真っ先に死んでも誰も悲しまないという立場ですから。

40年の間に、6人の会長と5人の建築家と4人の枢機卿(すうききょう)を見てきたんですけど、その人その人に合わせていくと大変なんですよ。むしろ適度に反発していかないといけない。

反発し過ぎると辞めさせられちゃう。でも、その人に迎合していくと、次の代の人は必ず前任者の息のかかった人を排除します。政治の粛清と一緒ですね。

だから、私は主任建築家とかがこうしろと言ったことをその通りにしたことは一度もないんです。「はい」と言っておきながら全く違うものをやる。

例えば、「ハープを奏でる天使像」をつくった時に、3人のガウディの弟子の方がどなたもハープに弦をつけるようにとおっしゃった。私はそれに反対だったんですが、一応つけたんです。でも、いつかこれは取ってやろうと思っていたら、チャンスはすぐに来まして、別の天使を彫ってる時に足場を延ばして弦を全部切っちゃったんですね。

それを見た3人の建築家たちからはお咎(とが)めなし。外尾は仕方ないなと(笑)。そういうふうに自分の思いをずっと通してきたので、いまに至れたんじゃないかなと思います。

定時制の非常勤講師から欧州へ

大学卒業後は非常勤講師として複数の定時制の中学と高校を掛け持ちし、やんちゃな子供たちと共に1年間、楽しい教師生活を送っていたんですけど、やっぱり何か足りない。貯金をつぎ込み、3か月間の予定で当てもなくヨーロッパに飛んだんです。石を彫ってやろうと念じて。

まずパリに行き、次にスペインへ向かいました。で、サグラダ・ファミリアという建物があると知ってたまたま行ってみたら、もう一瞬にして虜(とりこ)になってしまったんです。

リュックを背負って「仕事をさせてください」って言っても、断られるのはだいたい想像つきますよね。そこで私は、知り合った日本人の駐在員を介してコンタクトを取ることにしました。

最初は「いま忙しい」「明日また来てくれ」と、何度も門前払いです。1か月経つ頃、ようやく主任建築家と会うことができ、試験をしてもらって晴れて合格しました。1978年、25歳の時です。それ以来、ずっと試験が続いています。

私はいま、芸術工房監督という肩書をもらってますけど、5年前に初めて正式採用された。つまり、35年間は試験期間です。1回でも仕事を失敗すれば、次の仕事は来ない。それが運よくいままでなかったというわけです。

ガウディの思いを想像する

設計図が残っていないため、ガウディがやっていたのと同じようなことを、想像しながら進めているのが私たちの仕事です。

私が入った頃は、まだガウディを直接知っている弟子の方が何10人といらっしゃいました。その方たちの話を聞いてるだけで、目を見るだけで、「ああ、ガウディに惚れ込んでいるな、命懸けだな」と感じましたし、直接ガウディを知らない私の心も惹きつけられてしまったんです。

でも、ガウディを知ろうとすればするほど、ガウディを見れば見るほど、分からなくなるということを私は身を以て経験しました。それである時、ガウディは僕のことなんか何とも思ってないんだ、だとしたらガウディはどこを向いてるんだろうと。

ガウディが見てる方向を見てみようと思った瞬間、スッとガウディが自分の中に入ってきたような、ガウディに抱きかかえられたような気がするんです。

じゃあガウディが最終的に求めたものは何か。芸術作品をつくることがガウディの最終目的ではなく、やはり建築を通して人を幸せにしようとした、社会をよくしようとした。サグラダ・ファミリアはそのための一つの過程や道具にすぎないと認識しています。

私はこれができたら命を終えていいと思える仕事に出逢い、いまもその仕事に携われているというのは、とても幸せなことだと感じています。65歳になり、肉体的にどこまでやれるかは分かりませんけど、体力が続く限りずっとこの仕事を続けていきたいですね。

(本記事は『致知』2018年11月号の特集 「自己を丹誠する」より一部抜粋したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

外尾悦郎(そとお・えつろう)
1953年福岡県生まれ。1977年京都市立芸術大学彫刻科卒業。中学校・高校の定時制非常勤講師として勤務した後、バルセロナへ。1978年以来、サグラダ・ファミリア教会の彫刻に携わり、2000年に完成させた「生誕の門」が世界遺産に登録される。著書に『ガウディの伝言』(光文社)『サグラダ・ファミリア ガウディとの対話』(原書房)など。サン・ジョルディ・カタルーニャ芸術院会員。

サグラダ・ファミリア贖罪教会
聖母マリアの夫ヨセフを信仰する教会として1882年に着工。翌83年、前任者が辞任したことによりガウディが引き継ぐこととなり、没後その遺志は弟子たちに委ねられた。設計図が残っていないため、ガウディの建築思想を想像する形で建設は進められている。170ⅿを超す「イエスの塔」など18の塔と3つの門を持つ。完成は2026年の予定。

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