吉藤健太朗に聞く——分身ロボット「オリヒメ」がひらく人類の未来

病院にいながらにして家族団らんや旅行を楽しめる――そんな夢のようなロボット「オリヒメ」を開発したオリィ研究所代表の吉藤健太朗さん。ハイテクを追い求めるより、使いやすさ、親しみやすさにこだわってきたというオリヒメ。その開発への思いやオリヒメを通じた出会いについて吉藤さんに語っていただきました。

大事な人との温かな時間を

――オリヒメを通して心に残る利用者との出会いもあったと思うのですが。

〈吉藤〉 
一番思い出に残っているのは、オリヒメを最初に使ってくださった方ですね。学生ですからコネがあるわけではないし、使ってくださる方が誰もいず、とても悩んでいたのですが、そういう時に僕はたまたまビジネスコンテストで優勝し、「面白い学生がいる」というのである教育関係の会社の社長さんから「会いたい」と連絡をいただきました。
 
ちょうど社長さんとお会いする約束をしていた前日、その方がアキレス腱を切って「社員旅行に行きたかったのに。残念」ととても悔やんでいらっしゃることが分かったんです。僕は「社長、いいものがありますよ。僕がつくったオリヒメはまさにそれなんです」と言って社員さんたちにオリヒメを旅行に持参していだたくようお願いしました。

社長さんは病室からパソコンを使って社員さんと喋ったり、車窓の景色を眺めたりしながら大変喜ばれましてね。夜の宴会ではオリヒメで乾杯の発声までされました(笑)。

――楽しげな情景が目に映るようですね。

〈吉藤〉 
それから、2つ目の例は遠方の両親が交代で見舞いに来る重病のお子さんのケースです。彼は感染予防のための個室病棟にいました。きょうだいや友達とも会えませんから、2か月、3か月と入院するうちにテンションが落ちていって、「家族と一緒にテレビを見たい」というのが切なる願いでした。テレビは病室にもあるんです。でも彼は一人では決して見ようとしませんでしたね。
 
父親から相談を受けた僕は、彼の実家にオリヒメを置き、病室のパソコン画面を通して居間のテレビを家族と一緒に見られるようにしました。それから彼は毎日、家族との団欒の時間を楽しめるようになったんです。

嬉しいことに、しばらくして無事退院できましたけど、オリヒメがその子の回復に一役買っていたとしたら、こんなに嬉しいことはありません。
  
僕が関わっている中にはALS(筋萎縮性側索硬化症)という筋力が低下していく難病を患った方もいます。その方はベッドで常に上を向いたままの状態ですが、視線の動きを文字に換えるソフトを使うことで、言葉は喋れなくてもオリヒメに自分の意思を語らせることができるんです。奥様や見舞客との会話も楽しんでいらっしゃいます。
 
最近「俺はスイスにもう一度行きたいんだ」とおっしゃって、4人のヘルパーさんを伴って本当にスイスに行かれました。私の事業にも何かと親切にアドバイスをくださっていて、いまは特別顧問をお願いしています。
  
――お話しを伺っていると、オリヒメによって人類の未来が大きく拓けてくるような予感がします。

〈吉藤〉
ここはよく誤解されるところなのですが、僕がつくりたいのは決してロボットではありません。親しい家族や仲間と一緒にいる時間と場所です。ハイテクよりも使いやすさと親しみやすさにこだわる理由もそこなんですね。
 
この世の中にはオリヒメを求めている人たちはたくさんいらっしゃるでしょうし、これから先の時代を見た時、さらに必要とされるようになるという確信が僕にはあります。

一人でも多くの人たちの身体的問題や物理的な距離によって生じる悩みを克服し、家族や親しい友人と一緒にいることによる心安らぐ、温かな時間を提供していきたいと思っています。

(本記事は月刊『致知』2015年11月号 特集「遠慮――遠きを慮る」から一部抜粋・編集したものです。いまの時代に求められるのは「人間力」――人生や仕事、人材育成のヒントが見つかる!月刊『致知』のご購読はこちら

吉藤健太朗(よしふじ・けんたろう)
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昭和62年奈良県生まれ。県立王寺工業高等学校卒業後、早稲田大学創造理工学部に進学。中学生の時、虫型ロボットコンテスト関西大会で優勝。高校時代は車椅子の開発で文部科学大臣賞、世界大会でエンジニアリング部門3位を獲得。19歳の時、折り紙をとおして地域の〓がりを生み出し、奈良文化折紙会を設立。自身が開発した分身ロボット「オリヒメ」は若者から高齢者まで幅広く活用されている。

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