【完全版】睡眠研究のパイオニアが教える、一億総不眠時代を生き抜く快眠メソッド

私たちの健康や日々のパフォーマンスに欠かせない睡眠。しかし日本人の睡眠時間は世界的に短く、実に約7割の人が睡眠に何らかの問題を抱えているともいわれます。良質な睡眠を得るためにはどうすればよいのか。睡眠研究のパイオニア・白川修一郎さんにお話しいただきました。

睡眠の健康効果

〈白川〉
脳は目覚めている限り、休息することなく常に感覚器(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、体性感覚)からの情報を処理し続けています。その脳を休息させ、機能を回復させることこそ、人間の睡眠が担う重要な役割の一つに他なりません。

脳の機能に限っても、良質な睡眠をとることで次のような健康効果があることが、これまでの研究によって証明されてきました。

・集中力/注意維持(事故防止)
睡眠不足や睡眠の質の低下が続くと脳の疲労が蓄積します。アルコールを飲んだ場合と、睡眠時間を制限した場合の作業効率と眠気を比較した研究では、睡眠時間が2時間不足した時の脳の働きや眠気は、〝弱度酩酊状態〟の血中アルコール濃度での結果とほぼ同じだったことが報告されています。

・抑鬱症状のリスク低下
睡眠と鬱病にも密接な関係があります。睡眠の状態と抑鬱症状との関係を追跡調査した研究結果では、調査の前後ともに不眠が見られた人では、36%が抑鬱症状を示し、その割合は睡眠が良好だった人の5倍以上にも上ります。

・死亡、自殺リスクの低下
日本人男性への調査では、睡眠時間が6時間以下の人は7~8時間の人に比べ死亡率が2・4倍高いという調査結果があります。また、自殺リスクも睡眠不足が続いている人は、そうでない人と比べて1・9倍から最大4・3倍高くなることも明らかになりました。

その他にも、良質な睡眠を取り続けることで、記憶・学習・認知機能、感情制御機能、創造性・論理的思考力、自己評価の向上。

アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症の発症リスク低下、精神性ストレスの消去などが見られることが証明されており、脳の機能以外でも、高血圧のリスク低下、免疫機能の増強によるがん発症リスクの低下、風邪やインフルエンザなどの感染症、アレルギー性疾患発症リスクの低下。

さらには、脂質代謝機能や消化器機能の増強による肥満予防、糖尿病(タイプⅡ)、機能性便秘、過敏性腸症候群のリスク低下などが、様々な科学的研究から証明されています。

世界的にも短い日本人の睡眠時間

良質な睡眠が私たちの心身の健康にどれだけ密接に関わっているか分かっていただけたかと思います。しかし、日本人の睡眠状況を調べると、非常に憂慮すべき状況が浮かび上がってくるのです。

平成21年にOECD(経済協力開発機構)が発表した睡眠時間の国際比較によれば、日本の睡眠時間はOECD諸国の中で韓国に次いで2番目に短くなっており、さらに、NHKによる5年ごとの生活時間調査でも、10歳以上の日本人の現在の睡眠時間は、昭和35年と比べて一時間近くも短くなっているのです。

また、睡眠改善委員会による全国の20~49歳の日本人男女1万7千7百77名を対象としたインターネット調査では、実に79%の人が、睡眠に何らかの問題を抱えていると回答しています。

睡眠時間が短いからか、日本人の健康観も、OECD諸国の中で下から2番目。平成24年の自殺率の高さも、韓国などに次いで3番目の高さとなっています。

一般的に推奨される睡眠時間は「7時間」とされていますが、私たちの全国調査でも、日本人の半数近くが限界ぎりぎりで日常生活を送っており、成人の10人に1人は5時間未満の睡眠時間で生活していることが分かっています。

そのような世相を反映して、子供たちの睡眠事情も目を覆う惨状です。
平成13年に出生した4万人以上の子供を対象にした厚生労働省の21世紀出生縦断調査によると、4歳6か月になった時点で午後9時以前に眠る子供は、20%以下。

2010年にも同様の調査が行われましたが、やはり結果は20%以下でした。私の年代では、子供たちは午後8時~9時には寝ているのがごく当たり前のことだったと記憶しています。

日本人の睡眠時間が短い理由

ではなぜ、日本人の睡眠時間は減少の一途を辿り、国際的に見ても極端に短くなってしまっているのでしょうか。

労働を美徳とする文化やスマートフォンなど電子機器の普及など、様々な要因はありますが、私が特に声を大にして伝えたいのは、日本における〝睡眠教育〟の欠如に他なりません。

睡眠研究の深化を受け、欧米諸国では早くから睡眠教育の充実を図ってきました。各地域には睡眠障害センターが設けられ、ほとんどの大学に睡眠を専門にした講座があり、睡眠指導ができる人材の育成にもしっかり取り組んできています。

また、各企業も社員の睡眠の質を高め、健康増進や仕事の生産性を上げようと、研修などに睡眠教育を取り入れています。

アジア諸国でも韓国や台湾、シンガポールなどの大学には専門講座がありますが、先進国でいまだにゼロなのは日本だけ。企業の研修向けに睡眠指導ができる人材も圧倒的に不足している状況です。

快眠で企業の生産性もアップ

その中でも継続的に睡眠教育を行ってきた数少ない日本企業の一つにJR東海があります。

特に鉄道事業では、内勤と外勤とを問わず不規則交代勤務に従事する人が大半なこともあり、睡眠時間も不足しがちで、眠気による人為的ミスをいかに解消するかが課題となります。

そこでJR東海は、私も在籍していた旧国立精神・神経センターと共同で睡眠自己管理システムを開発し特許を取得しました。

その結果、JR東海ではシステム導入前に比べて、眠気による人為的ミスや出勤遅延など大幅に減少し、相当な成果を上げてきています。日本人も日本企業も、良質な睡眠が私たちの心身の健康や仕事の生産性向上に果たす役割にもっと注目する必要があります。

すぐに実践できる快眠メソッド

良質な睡眠を得るにはどうしたらよいのか、具体的なメソッドをご紹介しましょう。

もちろん最適な睡眠時間は人それぞれですが、まず図Ⅱから、各年齢に応じてどれくらいの睡眠時間が必要なのかを把握してください。この表は、アメリカの睡眠財団が数多くの信頼できる国際医学論文より睡眠時間の心身への影響をレビューして推奨時間と限界範囲を発表したものです。

例えば26歳から64歳までの大人なら、7~9時間が推奨される睡眠時間で、10時間を超えても、六時間を下回っても心身に悪影響が出てしまうことを示しています。

だいたい自分に必要な睡眠時間の目安がついたら、今度は自分の睡眠状態やそれによる体調の変化を把握するために1週間の「睡眠ダイアリー」を作成しましょう。

眠っていた時間帯、うとうとしていた時間帯、日中の眠気が強かった時間帯を日記のように記録します。それで1週間の平均睡眠時間、睡眠パターン、日中の眠気の混入具合などが分かります。朝の目覚めが辛い、勤務中にうたた寝をしてしまう、休日にいつもより長く眠ってしまうなどの症状はかなり睡眠不足で生活している危険な状況だと認識してください。

さらに、食事や入浴をした時間を記入しておくと、そのタイミングが規則的、適切であったかなども検討できます。また、排便の時間に大きなばらつきがあれば、生体リズムに乱れが生じている可能性や、就寝間際に食事をとっていればその習慣が排便の規則性を乱している可能性を把握できます。

以上のような項目を検討しながら就寝時間を調整し、睡眠不足による症状がほとんど見られないようになれば、それがあなたの能力を最大限に発揮できるベストな睡眠時間だと言えます。

また、睡眠ダイアリーをつけることで、やむを得ず睡眠を削らなければならない際に、自分がどこまで無理できるかを把握することも大切です。

(本記事は『致知』2016年8月号 特集「想いを伝承する」 連載「大自然と体心」より一部を抜粋・編集したものです。『致知』には人間力・仕事力を高める記事が満載! 詳しくはこちら

◇白川修一郎(しらかわ・しゅういちろう)
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昭和24年福岡県生まれ。52年東京都神経科学総合研究所研究員、平成3~21年国立精神・神経センター精神保健研究所老人精神保健研究室長、精神保健研修室長、東京都神経科学総合研究所客員研究員。現在、睡眠評価研究機構代表。医学博士。睡眠研究のパイオニアとして知られ、JR東海などの企業の睡眠教育に携わり、各メディアでも睡眠科学に基づく正しい睡眠法を解説している。著書に『脳も体もガラリと変わる! 「睡眠力」を上げる方法』(永岡書店)『ビジネスパーソンのための快眠読本』(ウェッジ)など多数。

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