古典には人生の教えがすべて書かれてある——數土文夫×出口治明

若き日より古典に親しみ、仕事と人生に活かしてこられたJFEホールディングス特別顧問の數土文夫さんと立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明さん。知の巨人ともいうべきお二人に、人生100年時代といわれるいま古典を読むことの意義を語り合っていただきました。

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古典がますます重要になる時代へ

〈數土〉
人生百年時代と言われているいまこそ、私は古典の言葉や故事成語が生きてくると思います。70歳や80歳になっても元気に働き続けるためには、「大器晩成」。これは『老子』の言葉なんですよね。小さい時から競争してしまったら、途中で燃え尽きたり、疲れてしまう。ですから、遠大な志を持って慌てない、淡々とゆっくり努力を積み重ねていくことが大事なんです。

〈出口〉
稷下の学といって、古代中国の斉では、都の臨淄の稷門外に学堂を建て、広く天下の学者を集めて邸宅を与え、自由に研究させたんですよね。

アズハル大学というエジプトにある世界最古の大学の三信条に「入学随時、受講随時、卒業随時」とあって、この言葉が僕は好きなんですが、要するに知りたいという気持ちが湧いた時に入学すればいいし、入ったら単位に囚われずに、本当に学びたいことだけを勉強し、腹に落ちたらいつ出て行ってもいい。
 
いまリカレント教育ということが叫ばれていますが、世の中の進歩ってものすごく速いですから、例えば10年くらい働いて、世の中が進歩したら、大学で勉強し直す。で、また戻ってきて仕事をする。そうやって何回も何回も勉強して皆がお互いに高め合っていくことをしないと、AIが普及するにつれてどんどん脳が退化していくんじゃないかと思います。

いまGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)をはじめ、世界を牽引している企業で働いている人はものすごく勉強していて、ダブルマスター、ダブルドクターの人が多いんですよ。しかも、統計学とか数学だけではなく、文学とか美学とか哲学の学位を持っている。そういう世界を知って初めて、面白いアイデアが出せるわけです。
 
もっとも、大学院の免状を取れと言っているのではなく、例えば、『論語』と『老子』と『韓非子』を勉強することがダブルマスターでありダブルドクターであって、一つだけに決め打ちしないで幅広い分野を勉強していかないとこれからの時代のリーダーにはなれないという気がしています。

〈數土〉
世の中の変化が激しくなるにつれて、人間の精神状態も社会の富の配分や格差も大きくなる。その中でどう生きていくべきかという答えは、2500年前、3000年前の古典にすべて書いてある。だから、古典を幅広く読まなきゃいけない。これからの時代、ますます古典が重要になってくると、声を大にして言いたいですね。

〈出口〉
全く同感です。

まさに數土さんがおっしゃったように、社会の変化が激しいので、将来何が起こるか分かりませんよね。でも、悲しいことに教材は過去しかないんですよ。だから、逆説的ですが、何が起こるか分からない時代になればなるほど、歴史や古典を学び、人間が5000年にわたって営んできた幅広く深い世界を知っておかなければ生き残っていけない。
 
僕はいま大学の学長を務めていますが、大学は10年先の日本の先行指標だと思うのです。だからこそ、一所懸命若い人を育てなきゃいけないし、大学生に元気がなかったら、10年先、20年先の日本が心配でなりません。人に投資をして、社会が隆々と発展していくように、古典を読んだり歴史を学んだりしながら、お互いに切磋琢磨する教育環境をつくっていきたいと願っています。


(本記事は月刊『致知』2018年12月号 特集「古典力入門」から一部抜粋・編集したものです)

◇數土文夫(すど・ふみお)
1941年富山県生まれ。1964年北海道大学工学部冶金工学科を卒業後、川崎製鉄に入社。常務、副社長などを経て、2001年社長に就任。2003年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。2005年JFEホールディングス社長に就任。2010年相談役。経済同友会副代表幹事や日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長などを歴任し、2014年よりJFEホールディングス特別顧問。

◇出口治明(でぐち・はるあき)
1948年三重県生まれ。1972年京都大学法学部を卒業後、日本生命保険相に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、2006年退職。同年ネットライフ企画㈱設立、社長に就任。2008年ライフネット生命保険㈱を開業。2012年東証マザーズ上場。2013年会長(2017年退任)。2018年1月より立命館アジア太平洋大学(APU)学長。著書に『全世界史(上下)』(新潮文庫)など多数。

◎『致知』2023年3月号 特集「一心万変に応ず」では、數土文夫さん、文学博士・鈴木秀子さん、臨済宗円覚寺派管長・横田南嶺さんという弊誌お馴染みの三氏が鼎談を披露。変化の激しいいまのこの時代、どのような心構えで臨んでいったらよいのか――その人間学に根ざした人生や仕事の叡智を示していただきました。
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ぶれることのない編集方針と意図するところを読者に伝えようとする志、熱意に対してであります。読者層がこれ程、多種多様な月刊誌は他に類を見ない、との感、強く持っております。『致知』は常に実例、実話をもって人が学ぶことの重要さ、自から志をもって努力することの大切さを、熱く、漸新に訴え続けてくれています。このことを強く感じます。

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