走る哲学者・為末大が明かす、継続力を高める秘訣

陸上男子400メートルハードルの日本記録保持者であり、オリンピックをはじめ数々の世界大会で活躍してきた為末大さん。現役時代は「走る哲学者」の異名を取り、引退後も多彩な活動を続ける為末さんに、スポーツが人間にもたらす可能性について語っていただきました。対談のお相手は、筑波大学名誉教授の村上和雄さんです。

物事を長く続けるには

〈村上〉
現役時代、特に困難だった時期はありますか。

〈為末〉
僕は世界一になりたいという思いで陸上を始めましたし、世界大会でメダルを取りたいという思いがモチベーションだったのですが、1つ目のメダルを案外早く取ってしまいましてね。まだ23歳の時だった上に、それが世界大会のスプリント種目で日本人初のメダルだったものですから、次に何を目指したらいいのか分からなくなって、3年くらいスランプに陥ってしまいました。

〈村上〉
その後メダルを2つも獲得なさって、長く現役を続けられたそうですが、どのようにして気持ちを切り替えたのですか。

〈為末〉
一番の源泉になったのが好奇心ですね。自分が本当はどこまでいけるのか、よく分からないまま終わるのが嫌で、それを知りたいという欲求。それがすごく大きかったですね。

僕の目から見ると、歩みが終わらない人の特徴というのは、目標を目の前にぶら下がっているニンジンみたいな感じで追いかけ続けていく。その原動力というのは好奇心なんじゃないかという気がしています。

ですから競技成績も重要なんですけど、それとともに分からなかったことが分かるようになる喜びというのも、競技生活を続けていく上ではとても大切だと思います。日々の小さな喜びというのは、その気になればいくらでも見出せるもので、僕にはそうした日々の小さな喜びと、試合における結果をモチベーションに競技を続けてきました。

〈村上〉
それは科学の世界にも通じるお話ですね。

アインシュタインは「あなたは天才ですね」と言われて、「いや、私は天才ではない。好奇心が強いだけだ」と答えていますけど、知らないことを知りたい欲求の大切さというのは、いろんな分野に当てはまるわけですね。

〈為末〉
おっしゃるとおりだと思います。選手の力が発揮されなくなる場合、そういう好奇心を失うケースが多いんじゃないかという気がします。

〈村上〉
僕がアメリカにいた時のボスは、毎晩訪ねて来ては「What’s New?」(何か新しい発見はあったか?)と聞いてくるんです。新しい発見がそんなにあるわけがないんですけど、もう挨拶代わりのように繰り返していて、そのくらい好奇心がなければ生きられない世界なんです。

〈為末〉
短期的に成果を上げるためには無我夢中で頑張ればいいと思うんですけど、人間ってそんなに持たないので、長期で頑張るポイントっていうのは、結局好奇心ではないかと思います。何かを知るために夢中になること、そういう根源的な欲求に訴えかけることが重要で、そのためには日々何か工夫をしながら生きていくということが重要なのではないかと思いますね。

〈村上〉
そうして長く陸上競技を続けてこられて、よかったと思うことは何ですか。

〈為末〉
まず、練習が辛いことばかりなので、痛みとか苦しみに強くなりましたね。もう一つは、最後は自分によって立つんだという覚悟を定められたことです。

陸上競技って、グラウンドに入る前に通信機器を全部取り上げられて、誰とも連絡の取れない状態になるんです。特に最後の5、6年はチームメートもいなくて、ずっと一人で練習していたものですから、自分とは何か、自分はなぜこう思うんだろうかといったことをずっと考えていました。あれほど自分と徹底的に向き合う競技って他にないと思うので、そういう点では陸上競技をやってよかったと思っています。

(本記事は『致知』2017年6月号「寧静致遠」より一部を抜粋・編集したものです。『致知』には人間力・仕事力を高める記事が満載!詳しくはこちら

為末大
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ためすえ・だい――昭和53年広島県生まれ。中学、高校時代より陸上競技で活躍し、平成13年エドモントン世界選手権及び17年ヘルシンキ世界選手権の男子400メートルハードルで銅メダルを獲得。シドニー、アテネ、北京とオリンピック3大会に出場。男子400メートルハードル日本記録保持者。24年に引退後は、会社経営などを通じてスポーツと社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。著書に『諦める力』(プレジデント社)など。

村上和雄
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むらかみ・かずお――昭和11年奈良県生まれ。38年京都大学大学院博士課程修了。53年筑波大学教授。平成11年より現職。23年瑞宝中綬章受章。著書に『スイッチ・オンの生き方』『人を幸せにする魂と遺伝子の法則』、共著に『遺伝子と宇宙子』(いずれも致知出版社)などがある。

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