当代随一の刀鍛冶・吉原義人が語る、一流の日本刀に共通するもの

刀は人を斬るものではなく宝物だった

刀鍛冶を営む家系に生まれ、若くして数々の権威ある賞を受賞してきた当代随一の刀鍛冶、吉原義人さん。

現在の日本人にとって、日本刀は人を斬る戦いの道具であると思われていることでしょう。しかし、古来日本人は鉄でできた刀を、武器ではなく、素晴らしい宝物として受け入れてきたと吉原さんは言います。

「そもそも刀というのは、日本人にとって最初から素晴らしい宝物であり、武器として受け入れられたものではないと思うんです。
 
皇室でいえば、皇位継承の印である『三種の神器』(玉・鏡・剣)の一つになっていますし、木や石が生活や戦争の主な道具として使われていた時代には、鉄でできた刀は普通の人が見ることもできない貴重なものだったでしょう。
 
そのように、鉄の刀は大事な宝物として扱われてきたから、日本人はそれに相応しい価値あるものをつくらなければならないと、何百年、何千年と努力を重ね、現在見ることができる日本刀の素晴らしい姿形をつくりあげてきた。
 
独りよがりですが(笑)、私はそう思っているんですね」

武器ではない、宝物だったからこそ、日本人は日本刀に特別な思いを込めてきた――。戦いがなくなったいまなお、日本刀が他に類のない美しさ、精神性をもって、日本のみならず世界の人々を魅了している理由がよく分かります。

◎東洋古典に学ぶ人間学——自らを磨き、高める「四書五経」の学び

一流の日本刀には品格がある

しかし吉原さんは、最近の日本刀から、精神性、品格が失われつつあると言います。

「品格を口で表現するのは非常に難しいですが、歴史に残っているような本物の日本刀には、刃文が美しいとか、刀の形がいいとか、全体の雰囲気で何かを感じさせる品格があるんです。
 
私が刀鍛冶になった4、50年前は、先輩が『ここにちょっと変なところがあるから、この刃文には品がないな』などとよく教えてくれたものでした。お互いにいい刀を持ち寄って、鑑賞する勉強会もいっぱいありました。昔の人はよく勉強して、日本刀に対する一つの常識みたいなものを知っていたんです。特に刃文なんて日本刀の品格がうんと出るんですよ。

(中略)

でもここ30年ほどで、かつてのような勉強会もほとんどなくなり、第一線でやっている刀鍛冶に日本刀の常識、品格が分かる人が少なくなってきて、悪いものをいいものだと評価してしまう風潮がどんどん蔓延しています。絶対やってはいけないような、いやらしい刃文が高く評価されたりしている。
 
それでは、本物のいい日本刀が残らなくなって、日本刀が日本刀でなくなってしまうのではないかと危機感を覚えているんです」

日本刀を日本刀たらしめてきた精神性、品格を後進や社会に伝えていくべく、いま吉原さんは、自らの刀鍛冶としての経験や日本刀の見方を詳しく記した書物の出版に心血を注いでいるそうです。

日本刀の起こっている変化は、もしかしたら日本人の生き方への警鐘なのかもしれません。

【吉原義人さんの記事の読みどころ】

・日本人にとって刀は宝物だった
・日本刀づくりは体でコツを覚えるもの
・「映り」を再現して刀鍛冶の頂点に
・一流の日本刀には品格がなければならない

(※本記事は『致知』2018年11月号 特集「自己を丹誠する」に掲載された記事を抜粋・編集したものです。経営や仕事の糧になる体験談が満載の『致知』!詳細・購入はこちらから)

◎武士道といふは、死ぬ事と見付けたり――武士の修養書『葉隠』に学ぶ

◇吉原義人(よしはら・よしんど)
━━━━━━━━━━━━━━━━
昭和18年東京生まれ。幼少期から弟とともに刀鍛冶であった祖父・初代国家に日本刀づくりの手ほどきを受ける。40年文化庁認定刀匠。20代で高松宮賞をはじめ数々の賞を受賞、39歳の時に史上最年少で刀鍛冶の最高位である無鑑査認定を受ける。「伊勢神宮の御神刀」の作刀に三度指名、アメリカのメトロポリタン美術館やボストン美術館にも作品が所蔵されている。東京都無形文化財保持者。東京葛飾区にある日本刀鍛錬道場代表。

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に 1年購読 10,300円(1冊あたり858円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 27,800円(1冊あたり772円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは