体験者が語る、アルコール依存症の恐怖

お酒を飲む量や時間などを自分でコントロールできなくなるアルコール依存症に苦しむ方は、全国に100万人以上いるといわれます。自分自身、また大切な家族や友人がアルコール依存症になった時、どうしたらよいのか。自らもアルコール依存症により人生のどん底を体験し、そこから立ち直られた堺市泉北断酒会会長・松井直樹さんの体験談に学びます。

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アルコール依存症患者109万人

(松井)
お酒を飲む量や時間を自分の意志でコントロールできなくなるアルコール依存症。この病気の恐いところは、自分がアルコール依存症であることに気がつかず、家族や周囲の人も単に酒癖の悪い人だと見なしてしまい、治療が遅れてしまうということです。
 
事実、内閣府の発表によれば、アルコール依存症患者は約109万人いるとされていますが、その中で専門的な治療を受けている人は5万人にも満たないとされています。

そのうちに、酒のために仕事ができなくなり無断欠勤が続いて会社をクビになる。そして最悪の場合には自殺に至る事例も多くあるのです。

私が会長を務める大阪府の堺市泉北断酒連合会(以下断酒会)では、行政・医療と連携しながら、40年以上にわたりアルコール依存症に関わる様々な啓発活動に取り組んできました。その活動の命綱となるのが、保健センターの会議室で行う「断酒例会」です。
 
飲酒して周囲に迷惑を掛けることを「酒害」と呼びますが、断酒例会では各々の酒害体験を語り合います。それにより、自身の辛い過去を忘れないこと、また、「自分だけではなかった」と孤独感が和らぎ、仲間意識が芽生えることで酒を断っていくのです。
 
とはいえ、断酒例会の2時間は命懸けの真剣勝負。断酒例会には、「ここで酒をやめられなかったら死ぬしかない」という方が大勢いらっしゃいます。実際、ある方は今年初めに例会の体験談の中で、「お酒がやめられない」と悲痛な表情で訴えた数日後、自ら命を絶ちました。ですから「例会で絶対酒を断つんだ」という覚悟と真剣さ、緊張感のある雰囲気づくりに努めるのが会長である私の使命です。

お酒が止められない

かくいう私も、かつては重度のアルコール依存症に苦しみ、断酒例会に参加することで命が救われた一人でした。体験者だからこそ、断酒会仲間の気持ちが分かるのです。

私は1961年、大阪府堺市に生まれました。家族は皆喜んでくれ、とりわけ母からは、「私の自慢の息子や」と事あるごとに聞かされ、何の不自由なく育てられました。

そんな私が、酒が原因で最初に問題を起こしたのは、大学寮の新入生歓迎会で大量の飲酒をした時でした。その深夜に泥酔した状態でバイクに乗った私は、タクシーと衝突事故を起こしたのでした。
 
就職してからも、毎晩のように飲み歩くようになり、目を覚ませばいつも裸に近い状態で駅前や公園でひっくり返っているのですが、自分が何をしていたのか全く覚えていません。その度に自責の念に駆られるも、現実から逃れるためにまた飲酒するという日々の繰り返しでした。

給料はもらった日にすべて酒代に消え、借金は瞬く間に二百数十万円に膨れ上がりました。両親に初めて借金を返済させたのはその二百数十万円です。
 
その後、大手運送会社に転職しましたが、収入が増えたことで気が大きくなり、飲み方は一層ひどくなりました。また、29歳の時に結婚するも、毎日泥酔して朝方に帰宅する、飲酒を注意されれば暴力をふるう、という状況が続き3年後に離婚しました。
 
結局、35歳の時に六百数十万円の借金をつくり、「もうあかん」と、梅田のホテルにチェックインし、大量に酒を飲み、屋上から飛び降りようと自殺を決心しました。

飲酒後、意識を失ってしまったようで、フロントからの電話で目を覚ました時には数日経っていました。フロントには母からの一通の封書が預けられており、現金と「誰もあんたを怒ったり責めたりしないから安心して帰ってきなさい」という手紙が入っていました。死にきれず、私はまた母に助けを求めました。

しかし、それでも飲酒が原因で借金を繰り返し、母親から「あんたを殺そうと思ったけど、あんたは私がお腹を痛めて産んだ子供やから、私の手では殺されへん。どうか頼むからもう自分で死んでくれへんか?」と頭を下げて頼まれました。そして、2007年、遂に会社のお金を横領し逃亡生活に入りました。もうどうなってもいい、金がなくなったら死のうと、逃亡しながら酒を飲み続けました。

救いになった「よう来たね」の一言

大阪・ミナミのビジネスホテルで、飲み仲間からもらった睡眠薬と酒を一緒に飲み自殺を図ったのですが、意識を取り戻した時には府内の警察署に保護されていました。
 
間もなく、母が方々奔走してくれたことで、アルコール依存症を専門に治療する新生会病院に入院することができました。そして、相部屋になった方に断酒会の存在を教えていただき、一緒に参加するようになったのでした。
 
初めて断酒会に行った時のことはいまでも忘れられません。当時の会長さんが私を見るなり、「よう来たね」と、笑顔で声を掛けてくださったのです。飲酒のことで虐げられることはあっても、「よう来た」と褒められる経験などなかった私は、会長さんの温かい言葉が嬉しく、「来週も来よう。断酒をやり遂げよう」と決意することができたのでした。会長さんの言葉は現在の私の活動の原点となっています。
 
お酒の問題を誰にも相談できず、無理解に直面し、すべてを失っていく方がまだ大勢いらっしゃいます。断酒会で体験談を語り続けていく中で同じ悩みをもつ仲間ができます。「断酒は仲間とともに」なのです。これからも、アルコール依存症に苦しむ方々と向き合い続けるとともに、未成年の飲酒問題や飲酒運転の問題にも取り組んでいきたい。

そして、腰が痛くなれば整形外科に行くように、お酒の問題があれば、一人で悩まずに当たり前のように病院に行ける。そのような社会を実現していきたいと思います。

(本記事は『致知』2017年12月号 特集「遊」に掲載された記事を抜粋・編集したものです)

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