マツダを倒産危機から救い、快進撃の先鞭をつけたリーダーの信念

日本の自動車メーカーの雄・マツダ。魅力的な名車を輩出してきたことで知られていますが、かつては深刻な経営危機に直面した時期がありました。開発畑のリーダーとして、マツダ車をゼロからつくり直す一大プロジェクトを主導した同社会長(現・相談役)の金井誠太さんに、変革を成し遂げる心構えと、リーダーとしての信念をお聴かせいただきました。


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子供の頃のワクワク感を届ける

―― 一時期、マツダの経営は大変厳しい状況にあったようですが、見事な逆転劇でしたね。

〈金井〉
当社は大正9年に広島で創業されて以来、ものづくりによって広島から世界に貢献していくというスピリットを貫いて、今日では世界130か国で年間140万台の車を販売するまでになりました。

けれどもその歩みは、周期的に経営危機を繰り返す歴史でもありました。その真因を突き詰めますと、私どもの長年にわたるビジネスに対する考え方そのものに行き当たったわけです。

――どんな問題があったのですか。

〈金井〉
当社は長年、トヨタさん、ホンダさん、日産さんといったビッグプレーヤーに負けまいとして、彼らに追いつき追い越せという思いで頑張ってまいりました。規模の拡大を最優先に、ビッグプレーヤーと同じだけのラインナップを揃えようとしたわけですが、実情は品揃えだけで手いっぱいで、すべてを競争力の強い商品にするだけの力はありませんでした。

そこで何が起きたかといいますと、短期的に販売台数を達成するために、ディーラーに車を押し込む。ディーラーは無理な値引きをしてでもお客様に売り込む。その結果ブランドが傷つき、経営が悪化する。バブル崩壊後の1990年代には、マツダのブランドイメージは大きく失墜していました。

その結果、平成8年にアメリカのフォード社主導で経営が行われることになったのです。

――日本の自動車業界の一角を担う御社がフォードの傘下に入ったことは、大きな衝撃でした。

〈金井〉
そうだったかもしれません。けれども、これがいまに繋がる大きなターニングポイントになりました。あの時潰れかけていた当社に対して、言ってみれば借金の裏書きをしてくれて、信用が保たれたという意味では、フォードはマツダの恩人です。

フォードは、私どもが当時行っていたものよりも分析的、科学的なマーケティングや、優れた財務システムを導入してくれ、さらにブランド価値の向上を経営課題の中核に据えてくれました。

ここから平成12年に打ち出されたマツダの新しいグローバルブランド戦略が「Zoom‐Zoom(ズーム ズーム)」でした。これが再生に向けた一つの大きな節になりました。

――「Zoom‐Zoom」とは、どのような戦略なのですか。

〈金井〉
これは日本の子供がいう「ブーブー」と同じ意味合いの英語の幼児語でしてね。子供の頃に感じた動くことへの感動やワクワク感を表します。際立つデザイン、意のままの走り、考え抜かれた機能を通じて、子供の頃に感じた心ときめく体験をお客様にお届けしたい。これをマツダの核となる提供価値と定めたのです。

当時、私は会社では部長クラスで、この戦略立案に直接関わってはいませんでしたが、非常に共感しましてね。ずっと自分自身の内に抱いていた思いと一致していたものですから、心が打ち震えたことを記憶しています。

――ご自身が抱いていた思いとは。

〈金井〉
いまから30数年前、私は足回りの設計者をやっていた30歳そこそこで、生まれて初めてドイツのアウトバーンを走りました。

当時マツダはカペラという車を輸出していて、私は他社との品質比較のためにBMWやベンツにテストドライブで少し乗ったことがあったんですが、まぁ多少負けているかな、というくらいの認識しかありませんでした。

ところが速度無制限のアウトバーンを走ってみたら、向こうの車との品質の違いが歴然としましてね。これは多少どころの差じゃない、明らかに負けていると思い知らされたんです。あれはショックでしたね。同時に、いつか彼らに勝ちたいという強烈な思いが沸々と湧いてきて、以来ずっと私の心の火種になっていたんです。

ですから「Zoom‐Zoom」戦略は、そういう私の思いにものすごく合致していたわけです。

インコース高めに全力で投げ込む

〈金井〉
ただ、それだけで自分たちの将来が保障されたわけではないという自覚はありました。最大の課題は、世界各国で厳しくなっていくCO2規制に対する準備ができていないことでした。

そういう中で、「Zoom‐Zoom」戦略に続くもう一つの大きな節目になったのが、平成18年に立案した長期戦略でした。マツダ創業以来の「ものづくりで世界に貢献する」という志に対して、マツダならではの貢献とは何か、自分たちはこうありたいという、マツダの十年後の姿を全社でとことん議論したのです。

――その時のご自身のお立場は。

〈金井〉
専務になり、開発の責任者としてこの長期戦略を推進する立場でした。私が最初に皆に言ったことは、まず自分の理想を語れと。エンジンはエンジン、ボディはボディで、すべての制約を忘れて、自分のユニットはどうやったら理想になるかを言ってみろと。

そうすると、例えばエンジンは、伸び伸びと排気できるように、従来のような曲がったものではなく、真っすぐなレイアウトにしたいとか、ボディはこれまで量産の都合で妥協していた部分があるけれども、本当はこういうふうにしたいとか、いろんな声が出てくるんです。それをすべて出し合った上で、為すべきことを具体的に落とし込んでいったわけです。

これをやることで何が起こるかというと、言い訳ができなくなるんです。制約があるならすべて外すと言っているわけですから、うちはこういう理由があるから世界一の技術を実現できない、ということはもう言えないわけですよ。

こうした議論を経て平成19年に公表したのが「サスティナブルZoom‐Zoom宣言」でした。マツダ車をご購入いただくすべてのお客様に「走る歓(よろこ)び」と「優れた環境安全性能」を提供する。言葉にしてしまえば簡単ですが、ここに私どもの深い思いがこもっているんです。

――それはどんな思いですか。

〈金井〉
やっぱり楽しくなければマツダじゃないということ。マツダはいつまでも走る歓びをお客様に提供し続けたい。しかし、走っている時だけ楽しければいいというものではもちろんありません。もし走る歓びの代償として燃費や安全などを軽視するような車だったら、それは決して持続可能とはいえません。

「サスティナブルZoom‐Zoom宣言」は、持続可能なワクワク、すなわち走る歓びをいつまでもという理想の追求であり、そのためには優れた環境安全性能は絶対外せない。そしてそれは、限られた一部の車種やお客様だけでなく、「すべてのお客様に」提供すること。普及できる価格ということが大前提になります。

議論の中では「Zoom‐Zoom」に代わる次の戦略は何にするかという話も出たんですが、私には全く迷いがありませんでした。10年経とうがマツダにはこの「Zoom‐Zoom」しかないと。

野球でバッターの急所はインコース高めですが、ピッチャーにとってそこに投げるのは非常に勇気が要ります。しかし我われは、そのインコース高めに一球入魂、全力で投げ込む。これが「Zoom‐Zoom」だと。こんな説明をよくするんですが、私どもの意図を一発でご理解いただけるし、ウケがいいんですよ(笑)。

――まさに乾坤一擲(けんこんいってき)の大宣言というわけですね。

〈金井〉
この趣旨に沿って確立していったのが、冒頭にご紹介した「スカイアクティブ・テクノロジー」であり、その技術を基に最初に発売したのが平成24年のCX‐5でした。10年後のマツダを見据えてゼロベースでつくった新しい車のトップバッターで、当社の社運が懸かった商品と言っても過言ではありませんでした。

結果的にCX‐5は大ヒットし、続く三代目アテンザも大きな成功を収めることができました。この成功によって業績的に大きな手応えを掴むことができたのです。


(本記事は『致知』2016年1月号 特集「リーダーシップの神髄」より一部を抜粋・編集したものです)


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◇金井誠太(かない・せいた)
昭和25年広島県生まれ。49年東京工業大学工学部卒業。東洋工業(現・マツダ)に入社。以後一貫して開発畑を歩む。チーフエンジニアとして開発に取り組んだ「初代アテンザ」は174の賞を受賞し、世界的に高い評価を得た。平成18年取締役専務執行役員。「スカイアクティブ・テクノロジー」の開発を指揮し、マツダ車のすべての要素を刷新。その後副社長、副会長を経て、26年会長。

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