あるがままを受け入れる 小林せかい(「未来食堂」店主 )

店の手伝いをすれば一食無料。そんなユニークな経営で黒字を維持する食堂がある。東京都神田神保町にある「未来食堂」だ。店主の小林せかいさんは、人気企業のエンジニア職を手放し、2015年に店を開始。「社会から零れ落ちそうになった時の最後のセーフティネットでありたい」との一念で、様々な事情を抱えるお客様を温かく迎え入れてきた。そんな経営スタイルは、小林さんが思春期に経験した孤独感が大きく影響しているという。「未来食堂」の原点から、前例のない経営に挑んできた10年、その中で掴んだ人生の真理についてお話しいただいた。

たとえ99回踏み躙られても、たった1回が誰かの支えになればいい。

いまではそう思えるようになりました

小林せかい
「未来食堂」店主

――お客様に無料で食事を提供しながら黒字経営をされている、何とも珍しい食堂があると伺ってまいりました。

〈小林〉
「未来食堂」は、本好きが集うオフィス街・東京都神田神保町に店を構える食堂で、2015年、私が31歳の時に開き、この9月で10周年を迎えます。カウンター12席のみで、メニューは日替わり定食1種。正規の従業員は私1人です。そんな小さな食堂が、ありがたいことに開店以降様々なメディアで取り上げられている理由は、その経営スタイルにあるのだと思います。

例えば、50分間店の手伝いをすると1食無料になる「まかない」、過去に来店した方が使わなかった「まかない」の権利で食事をする「ただめし」。お客様の体調や希望に合わせておかずをオーダーメイドする「あつらえ」、飲み物の持ち込みを自由にする代わりに、その半分をお店に置いて帰っていただく「さしいれ」などが特徴的です。この仕組みで開店以来、黒字を維持しています。

――数々のユニークな仕組みを取り入れていらっしゃいますが、そこには何か一貫した思いがあるのでしょうか。

〈小林〉
はい。おかずのリクエストができたり、一人の人がお客様になったりお手伝いになったりするお店って、考えてみれば不思議ですよね。「まかない」で言えば主婦に始まり、近隣の会社員の方、人の役に立ちたい方、料理修業をしたい方など多様な方が手伝いに訪れます。

どんな人であっても、その人ができることをやってもらうんですね。過去には聴覚障害をお持ちの方もいらっしゃいました。衛生上、保健所の衛生検査を通過した方を除いて調理は私1人で行いますが、基本的にどなたでも断りません。

常識で縛らずに、あるがままにその人の存在を受容する。「未来食堂」はその思いに立って経営しています。……(続きは本誌にて)

~本記事の内容~
◇〝ただめし〟を提供しながら黒字を維持する食堂
◇「未来食堂」誕生の原点
◇前例のない飲食経営に挑んで
◇「あなたを助けます」と発信し続ける
◇100回のうち1回が誰かの支えになればいい

プロフィール

小林せかい

こばやし・せかい――昭和59年大阪府生まれ。東京工業大学理学部を卒業後、日本IBM、クックパッドでシステムエンジニアとして働いた後、飲食店開業を決意。いくつかの飲食店で修業を積み、平成27年に「未来食堂」を開店。店の手伝いをすると一食無料になる「まかない」などユニークな手法を取りながら、黒字経営を行う独自の経営システムを確立し、注目を集めている。著書に『未来食堂ができるまで』(小学館)『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』(太田出版)などがある。


編集後記

「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所をつくる」。これが「未来食堂」の方針ですが、その実践は簡単なことではありません。実際、開店から10年の道のりは「人を助ける」ことの難しさと向き合ってきた歩みでもありました。様々な事情を抱えるお客様と向き合う中で小林さんが抱いた葛藤、それを経て至った心境とは。そこには人生における一つの真理が示されていました。

2025年7月1日 発行/ 8 月号

特集 日用心法

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