木に学び、木に生かされ、木に悩む 田子和則(田子式規矩法大和流六代目/番匠会長・棟梁)

さしがね一本で膨大かつ精緻な図面を描き起こし、材木の癖を見抜いて巧みに組み上げる。こうした日本の宮大工の伝統技術、匠の心を受け継ぐ数少ない現役棟梁が、田子和則氏である。物心つく前から先祖伝来の規矩術に触れ、木と共に歩み、人を惹きつける数寄屋を天命として手掛けてきた74歳。その言葉は、単に大工の道を説くものではなく、日本人、人間の生き方をも示唆している。

西岡棟梁に教わった法隆寺大工の口伝に「木の癖組みは工人たちの心組み」とある。一番大事なのは、心を育てることですよ

田子和則
田子式規矩法大和流六代目

――田子会長は社寺の建築、数寄屋(すきや)の家づくりを通して、和の伝統文化を現代に伝えておられます。

〈田子〉
21歳で初めて棟梁を務めて、気がついたら74歳。世間にご恩返しをする年、思いがけず数寄屋のご依頼や講演であちこち引っ張りだこになっちゃって、当分は引退できそうにないね。

朝は4時半には目が覚める。15年前から、八王子に設立したこの会社兼自宅に寝泊まりしています。故郷は群馬の前橋で、かみさんも群馬に残して来たから、身の回りのことは全部自分です。

若い衆には休みがあるけど俺にはないよ。起きたらまず、神棚に若水をあげて二礼二拍手一拝。さざれ石には、心の中で「君が代」を歌う。ここの二階には中心に大日如来(だいにちにょらい)、脇に不動明王と十一面観音菩薩をお祀りしていて、それぞれに手を合わせて拝礼。ひと通り終えて、朝食をとったら冬は事務所を暖めておきます。

――毎朝拝礼を欠かさず、棟梁が自ら仕事場を暖める。

〈田子〉
当たり前ですよ。歴史を辿れば、飛鳥時代に唐から仏教と共に、我々大工の命とも言えるさしがねの技、規矩術(きくじゅつ)が伝わったと言われます。聖徳太子が三宝を祀る寺院の建築を命じ、工人(こうじん)たちに規矩術を伝えた。代々祖神たちが諸々の技法を受け継いで伝承してくれたから、いまこうして仕事ができている。だから、祖神を敬う心を忘れてはならないの。

若い衆が出勤してきたら、8時の始業前に会社の前の公園と、向こう三軒両隣の家前を全員で掃き清めます。その様子を見ればひと目で状態が分かるよ。気が抜けていたら「バカ者!」と活を入れて、現場に送り出すんです。

――棟梁として、会社の隅々まで気を張り巡らせているのですね。

〈田子〉
多くの人が混同しているけれど、大工と棟梁は別物だよ。棟梁はすべての職の責任者でもあり、施主様との対応も含めてできて初めてなれる経営者だ。

木の癖を読むこと、建物を建てる場所の天候や地盤が分かること、そして関わる人の心を組むこと。こういう「天地人」に通じていて、そのすべてに責任を負う。それが棟梁なんですよ。……(続きは本誌にて)

~本記事の内容~
◇棟梁とは「天地人」に通ずる経営者
◇切っても切れない木と人の繋がり
◇西の西岡 東の田子
◇木の話を聞き 木の心を知れ
◇仕事が縁を運んできてくれた
◇一人の心が変われば、山が変わり国が変わる

プロフィール

田子和則

たご・かずのり――昭和27年群馬県生まれ。62年清水寺三重塔落慶法要に宮大工棟梁として参加。平成元年田子式規矩法大和流六代目を襲名、翌年宮大工古式伝統保存会を設立。平成5年米アラバマ州バーミングハム市に茶室「燈心庵」建設。7年サムエル・ウルマン賞を贈られる。群馬県の職業訓練校で長年教鞭を執り講師、校長を約26年務める。23年㈱番匠設立。


編集後記

日本の匠の心を伝承している稀有な人がいる……。取材のきっかけは、致知出版社の社員が、田子棟梁の講演を聞いたことでした。
田子棟梁は、日々の仕事に加えて、「青春」に代表される、自身が愛誦している詩人サムエル・ウルマンの精神の伝承普及にも努めておいでです。
物心つく前から材木や大工さんたちと過ごし、木と共に歩んできた日々――。一級の技と心を、自身の父・田子光一郎氏そして〝法隆寺の鬼〟西岡常一さんという東西の名棟梁に注入され錬成してきた歩みはもちろん、木の癖を読む、人の心を組むといった宮大工ならではの指導論にも唸らされます。
日本の自然環境保護の急所、これからの日本人の生き方にまで及ぶ、棟梁の人間観が凝縮されたインタビューです。

2026年4月1日 発行/ 5 月号

特集 人を育てる

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