5 月号ピックアップ記事 /対談
科学技術立国 日本の礎は人づくりにあり 大隅良典(東京科学大学総合研究院 栄誉教授) 栗原権右衛門(日本電子相談役)

細胞内のたんぱく質の分解・再利用に関係する「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典氏。電子顕微鏡などの分野で世界シェアトップを誇り、「ノーベル賞の蔭の立役者」とも称される日本電子を牽引してきた栗原権右衛門氏。日本の科学技術力の停滞が叫ばれる中、いかに科学技術立国・日本を甦らせていけばよいのか――。両氏の実践と提言から、その道筋、新たな時代を開く人づくりの要諦を学ぶ。

科学は一つの問題を解いたら終わりではなくて、一つ解けたらまた新しい問題が出てくる、終わりのない世界です
大隅良典
東京科学大学総合研究院 栄誉教授
〈栗原〉
当社は、電子顕微鏡(光学顕微鏡の100~1,000倍、高精細の像を表示する)や物質の分子構造を原子レベルで解析する核磁気共鳴装置(NMR)などを開発・販売していることもあって、科学者の方と交流する機会が多いんです。
大隅先生とのご縁も、先生が当社の電子顕微鏡を使ってくださっていたことがきっかけでしたね。
〈大隅〉
ええ、そうでした。
〈栗原〉
特に先生が「オートファジーの仕組みの解明」でノーベル生理学・医学賞を受賞(2016年)されてから、親しくお付き合いさせていただくようになりました。その翌年に設立された大隅基礎科学創成財団の理念、考え方にも大いに共鳴して、微力ながら応援させていただいてきました。
日本の基礎研究、科学基盤の発展に寄与するという財団の理念は本当に素晴らしいと思います。
また、ノーベル賞を受賞した先生が当社にいらっしゃった際には、記念の植樹をしていただいているのですが、大隅先生にも2020年にモチノキを植えていただきましたね。
〈大隅〉
財団を設立して今年でちょうど10年になりますが、日本電子、栗原さんは、最初からずっと財団のサポーターとして応援してくださって本当に感謝しています。
日本電子のように、様々な製品や支援を通じて、これだけしっかり研究者、基礎研究を支えている日本企業はそれほど多くはありません。そういう意味で、私は日本電子のファンの一人です。
〈栗原〉
そう言っていただけて本当に光栄ですし、励みになります。

お互いに心と心を熱く通わせるところに、本当のコミュニケーションがありますし、人間的な成長もあります
栗原権右衛門
日本電子相談役
〈栗原〉
先生は、どのようなきっかけで科学者の道に進まれたのですか。きょうはぜひ先生の原点をお聞きしたいと思っていました。
〈大隅〉
私は1945年2月、4人兄妹の末っ子として福岡市で生まれました。父親は九州大学工学部の教授、母方の祖父は歴史学者という家庭環境でしたから、何となく将来は研究者、科学者の道に進んでくれるのだろうという両親の期待を感じながら育ちました。
また、家は自然豊かな場所にあって、子供の頃は農家の子供たちと一緒に昆虫採集をしたり、自然の中で楽しく遊んでいました。
一番上の12歳離れた兄は、終戦前に政府がつくった科学者を育成するエリート中学の生徒に選抜されて広島にいましたが、幸いにも、原爆投下の前に疎開していて助かったんです。そうした体験から兄は東京の大学で歴史学を専攻し、せめて末っ子の私くらいは科学者にということで、休みに帰省するたびに小学生の私に宇宙や生物、化学に関する子供向けの本を一冊ずつ贈ってくれました。
例えば、八杉龍一の『生きものの歴史』や、ファラデーの『ロウソクの科学』、三宅泰雄の『空気の発見』などはいまも挿絵まで覚えていて、大きな影響を受けました。これが、科学の道に進むきっかけになったように思います。
〈栗原〉
それらの本が科学に惹かれていく原点になったのですね。
〈大隅〉
ただ、いまは生物学(分子生物学)を研究していますけれども、子供の頃はなぜか化学に惹かれるものがあって、高校でも生物学の授業はとっていませんでしたし、化学部に入っていました。
〈栗原〉
子供の頃は化学に関心を持っていた。生物学に転じるきっかけが何かあったのでしょうか。
〈大隅〉
親子二代で同じ道に進むという例もよくありますが、……(続きは本誌をご覧ください)
~本記事の内容(全10ページ)~
◇基礎研究の発展に力を尽くす
◇科学の世界に導かれて
◇一流の科学者に学んだ「人間力」の大切さ
◇アメリカ留学が酵母研究の出発点に
◇誰もやっていない分野にこそ道がある
◇流行に乗るのではなく流行を自ら創り出す
◇企業の永続は創業のDNAにあり
◇異なる分野の交流が人材・組織の活力を生む
◇「YOKOGUSHI」で科学技術立国・日本へ
◇終わりのなき探究の道を歩み続ける
本記事では大隅さんと栗原さんに、画期的な発想を生む要訣、科学技術立国・日本を実現する道筋を語り合っていただきました。
プロフィール
大隅良典
おおすみ・よしのり――1945年福岡県生まれ。1967年東京大学教養学部基礎科学学科卒業。1974年東京大学農学部農芸化学科研究生理学博士取得、米国ロックフェラー大学研究員。岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所教授、東京工業大学(現・東京科学大学)統合研究院フロンティア研究機構特任教授などを歴任。2014年より東京工業大学栄誉教授、2017年より東京工業大学科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター特任教授。2025年より現職。2016年「オートファジーの仕組みの解明」により、ノーベル生理学・医学賞を受賞。
栗原権右衛門
くりはら・ごんえもん――1948年茨城県生まれ。1971年明治大学商学部卒業後、日本電子入社。取締役メディカル営業本部長、常務取締役、専務取締役を経て2007年副社長、2008年社長。2019年6月より会長兼最高経営責任者、2022年6月より会長兼取締役会議長。日本の産業振興に貢献した功労により、2023年秋の叙勲において「旭日中綬章」を受章。2024年より相談役。
編集後記
2016年、オートファジーの仕組みの解明によりノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典さん。電子顕微鏡をはじめとする高い技術力で世界のトップシェアを誇る日本電子相談役の栗原権右衛門さん。科学技術の最前線で活躍するお二人の体験談と提言から、画期的な成果を生み出す人材育成、組織づくりの要諦、「科学技術立国・日本」を取り戻す道筋を探りました。

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