5 月号ピックアップ記事 /対談
スマホの危機から子供たちを救おう 川島隆太(東北大学加齢医学研究所教授) 小泉敏男(東京いずみ幼稚園園長)

近年、大きくクローズアップされてきた社会問題にスマホやタブレットなどデジタル端末の弊害がある。東北大学加齢医学研究所教授・川島隆太氏(写真右)は脳科学の視点から社会に警鐘を鳴らしてきた。一方、東京いずみ幼稚園園長・小泉敏男氏(写真左)は半世紀、幼児教育に携わる中でテレビやスマホが子供たちに与える影響をつぶさに目の当たりにしてきた。二人がスマホ依存から脱却する方法として提唱するのが、読み聞かせや読書の習慣化である。その実践を通して、スマホの危機から子供たちを守る具体的な方法が見えてくる。

スマホを1日に1時間以上利用している子供たちは、全く勉強しない子供たちよりも学力が低いというデータが出て、いままでの常識では理解できない何かがあることに気づかされたんです
川島隆太
東北大学加齢医学研究所教授
〈川島〉
僕たちは親子で絵本の読み聞かせをしている時の脳計測をやっているのですが、読み聞かせる親の脳のどの部分が一番働いているかというと、言語領域ではなくて実際には相手の気持ちを慮るコミュニケーションの領域なんです。絵本の読み聞かせをしている親は、子供に意思伝達をしているのではなく、心と心のコミュニケーションを仕掛けているわけです。
では子供の脳はどうなっていたかというと、感情を掌(つかさど)る辺縁系の領域が最も強く働いていました。このことは読み聞かせの間、子供がハラハラ、ドキドキといろいろな感情に揺さぶられながら親の声に耳を傾けていたことを意味しています。
〈小泉〉
つまり、読み聞かせというのは心を揺さぶる行為そのものなんですね。
〈川島〉
ええ。 こういうデータもあります。僕たちは山形県長井市で幼稚園児、保育園児を持つ保護者に読み聞かせをしてもらうというプロジェクトを文科省の委託で進めています。
その時に読み聞かせの効果を何によって評価したかといえば、ストレスなんです。子育ての忙しい時にあえて読み聞かせをやってもらう。すると意外にも子育てのストレスがグッと減るというデータが出ました。その理由は子供の問題行動が激減することにあると分かったんです。

幼児期は最も大事な母国語の獲得の時期なんです。そこで親がすべきことは決まっています。
目を見て笑顔で語りかけ、語彙の少なさを絵本を活用して広げてあげる。その原理原則にもう一度立ち返るべきですね
小泉敏男
東京いずみ幼稚園園長
〈小泉〉
大人たちがスマホに夢中になって、一番置いてきぼりを食らうのは誰か。子供たちですよ。そのうちに、子供が泣いているとお母さんが鞄からスマホを取り出し、それを見た子供がピタッと泣きやむという光景を園の行事などでも目にするようになりました。お母さんたちは皆、愛情100%なんです。スマホは確かに便利には違いありません。だとしても、こんな愛情表現では子供たちには何も心が伝わらないですよ。
加えて、いまでは学校までがタブレット学習でしょう? 社会全体、一層抵抗感がなくなっちゃっていますよね。三つ子の魂百までと言いますが、このままいったらスマホが子供たちの一生を台無しにしてしまうのではないかという危機感を日に日に強く抱くようになったんです。
ここはやはりお役所なり、しかるべき機関が世の中に発信し、危機感を強く訴えるべきではないかと思うのですが、川島先生、いかがですか。
〈川島〉
全く同感ですね。子供たちの問題行動の根幹がどこにあるのか、科学者としても関心があって調べているのですが、いまやゼロ歳児がタブレットをスワイプすることを普通にやる時代なんですね。
それは学習してやっているというよりは、もしかしたら我々の遺伝子の中に、電子端末に興味を示す何かがあるのかもしれない。そう考えると残念な気持ちがします。……(続きは本誌をご覧ください)
~本記事の内容~
◇子供の目を見ない母親が増えてきた
◇親子の愛着関係ができにくい時代
◇兵庫県小野市の取り組みに学ぶもの
◇集中力が10秒しかもたない
◇本は紙かデジタルかすでに結論は出ている
◇成績が伸びる子のスマホの使い方
◇読書を通してスマホ依存から脱却
◇読み聞かせは子育てのストレスを軽減させる
◇子育ての原理原則に立ち返るべき時
プロフィール
川島隆太
かわしま・りゅうた――昭和34年千葉県生まれ。東北大学医学部卒業。同大学院医学系研究科修了(医学博士)。同大学加齢医学研究所教授。専門は脳機能イメージング学。著書に『読書がたくましい脳をつくる』(くもん出版)『スマホが学力を破壊する』(集英社)『脳を鍛える! 人生は65歳からが面白い』(扶桑社新書)など多数。齋藤孝氏との共著に『素読のすすめ』(致知出版社)などがある。
小泉敏男
こいずみ・としお――昭和27年東京都生まれ。立教大学在学中に小泉補習塾を運営、卒業後の51年父と共にいずみ幼稚園を創設。石井式漢字教育、ミュージックステップ音感教育など画期的なプログラムを早期に導入。平成7年より園長。16年第13回音楽教育振興賞を幼児教育界で初めて受賞する。近著に『最高の育て方事典』(講談社)『国語に強くなる音読ドリル』(小泉貴史氏と共同監修/致知出版社)がある。
編集後記
スマホやタブレットの急速な普及は私たちの生活を便利にする一方、様々な弊害も指摘されています。脳科学の立場からデジタル端末が人間の心身の働きに支障をきたすことを検証してきた川島隆太さん、幼児教育に長年携わる中で子育てへの悪影響を目の当たりにしてきた小泉敏男さん。お二人の対談を通して、日常生活に埋没していては気づくことのない、憂えるべき実態が明らかになります。

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