体験的教育論「我が矯正人生」——Sとの出会いが教えてくれたこと 亀井史巠(元刑務官)

亀井史巠氏は広島市に居住する元刑務官。85歳。38年間の矯正人生を通して多くの犯罪者を更生へと導いてきた。ここで紹介するSもその一人である。処遇に携わった亀井氏自身が「生きた鬼」と形容し、「生きた鬼に出会ったのは後にも先にもない」と語るほど狂暴だったSは、亀井氏との出会いによって驚くほどの変化を遂げていく。亀井氏はどのような思いでSに向き合ったのか。命を賭した氏の実話は、人を育てる上での要諦を見事に説き尽くすものである。

私は子供の頃、父から「人間は皆、それぞれの分野で果たすべき責任(使命)を背負ってこの世に生まれている」と教えられました。
父のその教えは、人を教える上で忘れてはならない大切な要諦でもあるといまも思っています

亀井史巠
元刑務官
【写真=刑務官として第一線で活躍していた頃(前列中央)】

私は多くの受刑者の処遇に当たってきましたが、とりわけ心に残っているのが、Sという私よりも5歳年下の男のことです。

昭和40年4月10日の午後10時30分頃、A刑務支所拘置監から「死刑判決を受けた被告人が逃走した。逃走者捜索のため、警備応援の準備をして待機せよ」との第一報が入りました。これがSとの出会いの始まりです。

Sはこの夜、A及びF市内で強盗など3件の重罪事件を起こし地域住民を震え上がらせましたが、翌朝6時過ぎ、ダブダブの学ランに身を包み学生に扮して逃走中のところを捜索に当たっていた警察官に見破られ、多数の警察官によって捕縛されました。

入所手続き中、Sは殺気立って全身を激しく揺さぶり、警察官の制止を振りほどいて立ち上がると、我々に唾を吐きかけ、続いて体当たりを仕掛けようとして、これを制止されると辺り構わず周囲にある物を蹴散ちらしながら「なめるなー!」と怒鳴り散らす狂乱状態となりました。この時の怒り狂ったSの怒髪天を衝く形相はまさに鬼、猛獣そのものでした。これがSとの出会いであり、生きた鬼に出会ったのは後にも先にもありません。……(続きは本誌にて)

~本記事の内容~
◇人生の道標となった「三勤」の教え
◇困難な人を温かく見送る母の姿
◇常識が通用しない広島拘置所の実態
◇自分の躬行実践以外方法はない
◇心を開きかけた瞬間
◇凄絶を極めるSの養育環境
◇Sの遺書に書かれていたこと
◇人間には皆果たすべき使命がある

プロフィール

亀井史巠

かめい・ふみひろ――昭和15年広島県生まれ。37年刑務官を拝命。佐世保刑務所長、横浜刑務所総務部長、福岡矯正管区第二部長、横浜刑務所長などを歴任し平成12年に退職。現在広島県安佐北警察署協議会会長。30年瑞宝小綬章受章。


編集後記

元刑務官の亀井史巠さんにとって最も心に残るのは死刑囚・Sさんとの出会いでした。「生きた鬼」と言われるほど荒々しかったSさんが、亀井さんとの出会いによって心を開き、神々しいまでの人柄に変わっていく過程には涙せずにはいられません。人間は誰もが素晴らしい徳性を授かって生きていることを教えられます。

2026年4月1日 発行/ 5 月号

特集 人を育てる

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