5 月号ピックアップ記事 /対談
困難を踏み越えて人は育つ 伊藤裕子(ぺんぎん村水泳教室代表) 鈴木孝幸(パリ2024パラリンピック水泳男子金メダリスト)

静岡県浜松市。大海原に面し、水泳の盛んなこの町で、稀有な出逢いを果たしたお二人がいる。障がいや発達特性への理解が乏しかった30数年前から、そうした子供を多く受け入れてきた「ぺんぎん村水泳教室」代表の伊藤裕子さん。1,000人以上の生徒を輩出するこの教室を巣立ち、先天性四肢欠損の水泳選手として、北京・東京・パリのパラリンピックで金メダルに輝いた鈴木孝幸選手。水の中で育まれた絆の軌跡を振り返っていただいた。
【鈴木氏写真=朝日新聞社/伊藤氏写真=本人提供】

本当に強い選手というのは、いかに不利な状況でも金メダルを獲るもの
鈴木孝幸
パリ2024パラリンピック水泳男子金メダリスト
〈伊藤〉
きょうはよろしくお願いします。あなたのことは昔からタカちゃんって呼んでいるから、こうして改まると何て呼んだらいいのか(笑)。
〈鈴木〉
何でも大丈夫ですよ。
〈伊藤〉
じゃあ、孝幸君で。出逢ったのは、私が「ぺんぎん村水泳教室」を始めて2年目に入る頃でした。まだ6歳だったから、抱っこして水に入れたのよね。
もう30数年が経ちますけど、この間のパリパラリンピックでは金を含めて4つもメダルを獲得して、こんな世界的な選手になるなんて想像していませんでした。今年のアジアパラも出るの?
〈鈴木〉
今年のアジアパラ競技大会は、せっかくの日本開催でもあるので、いまはこの大会の出場を一番の目標にトレーニングしています。もっとも年齢を重ねてきた分、泳ぎで酷使する肩を中心に、体を痛めないことを第一に考え、メンテナンスの比重を上げています。
それと並行して、所属企業のゴールドウインでは、パラスポーツの支援事業に携わっています。まあ、支援と言いつつ、僕の様々な活動を業務と認めてもらっている形なので、むしろ日々支えていただきながら水泳を続けている、というのが本音ですね。

どんな困難を抱えた子でも、できる可能性を秘めている
伊藤裕子
ぺんぎん村水泳教室代表
〈伊藤〉
孝幸君のトレーニング風景、あと料理の動画なんかも、よく見ていますよ。
〈鈴木〉
正直、水泳でここまで来るなんて全く思っていなかったです。
伊藤コーチに出逢って30年と聞いて思うのは、これだけ多様性が叫ばれているいまでも、障がいのある子がスポーツ施設の入会を断られることはあるんですよ。誰が悪いという話ではなくて、未だにそうなのに、ぺんぎん村は30年以上前から障がい者にも門を開いてくれていた。それは、僕がキャリアを積んでいく第一歩として非常に重要なことでしたし、感謝しています。
~本記事の内容~
◇地元・浜松の市民プールの片隅から
◇指の大怪我と水の中の気づき
◇「これが僕の手だよ!」6歳の鈴木少年の衝撃
◇人生を導いてくれた〝おばあちゃん〟
◇水の中で子供の本能的な動きを伸ばす
◇大人の都合で子供の可能性を潰さない
◇成長しているのにメダルゼロの苦しみ
◇パラリンピック13年ぶりの大金星への軌跡
◇いかに子供たちの可能性を引き出すか
◇3つのことに集中する ――人生の突破法
◇いつまでも自分はチャレンジャー
プロフィール
鈴木孝幸
すずき・たかゆき――昭和62年静岡県に先天性四肢欠損で生まれる。平成16年17歳でアテネパラリンピック出場、初の銀メダル。北京大会以降、日本選手団競泳チームの主将を三度務める。25年より英国留学。同大学院博士課程でも学問を深める。令和3年紫綬褒章受章。ゴールドウイン所属。これまでパラリンピック6大会に連続出場し、通算メダル獲得数は14。
伊藤裕子
いとう・ゆうこ――昭和37年岐阜県生まれ。短大卒業後、幼稚園教諭、複数の民間スイミングスクールでのインストラクターを経て平成4年、障がいのある子も健常の子も分け隔てなく受け入れる「ぺんぎん村水泳教室」を浜松市内の市民プールに開設する。9年中日新聞教育賞受賞。令和3年文部科学大臣表彰受賞。
編集後記
どんな子にも可能性は秘められている。約35年間、手弁当で開いた水泳教室で障がいのある子の命の輝きを引き出してきた伊藤裕子さんと、四肢欠損の体を自在に操り、水泳で世界の頂点に立ち続ける鈴木孝幸さんは、それを実証しています。長年の師弟にして同志でもあるお二人の対談は、人を育てる、また人生の壁を越えるヒントに満ち、人間の底知れぬ可能性を思わずにはいられません。

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