4 月号ピックアップ記事 /対談
報恩感謝の日本酒づくりを貫く 澄川宜史(澄川酒造場 第四代目蔵元杜氏) 新澤巖夫(新澤醸造店 五代目蔵元)

共に国内外の数々の日本酒品評会で高い評価を得、多くの人々を魅了し続けている澄川酒造場(山口県)の「東洋美人」、新澤醸造店(宮城県)の「伯楽星」。それぞれの酒蔵を率いる澄川酒造場第四代目蔵元杜氏の澄川宜史氏と、新澤醸造店五代目蔵元の新澤巖夫氏に、師の教えや越えてきた試練を交え、妥協なき日本酒づくりの道のり、運命を力強く切り拓いていく要訣を語り合っていただいた。

清らかな気持ちで、心から楽しんで日本酒づくりに向き合い続けることが、恩を返していく自分なりの一番の方法だと思います
澄川宜史
澄川酒造場 第四代目蔵元杜氏
〈澄川〉
新澤とは東京農業大学醸造学科の同級生で研究室も同じでしたが、在学中はあまり接点がなく、話したこともなかったですね。
〈新澤〉
そう、澄川はほとんど大学に出てこなくて(笑)、お互い地方の酒蔵の跡取りとして一緒に食事に行ったことも、日本酒について語り合ったこともなかった。
〈澄川〉
大学に出なかったのは、アルバイトをしたり……、まあ、いろいろ忙しかったんです(笑)。
しかも、卒業式の前に新澤が病気で入院してしまって、結局、卒業式でも会わずじまいでした。
〈新澤〉
その時、研究室のメンバーが寄せ書きを贈ってくれたのですが、皆が励ましの言葉を書いてくれている中で、澄川のだけユーモアに溢れた内容でした。何が書いてあったかはとても明かせませんけれども、澄川の寄せ書きだけはいまでも忘れられません(笑)。

感謝の心をお返ししていくためには、皆様が喜んでくださる日本酒を日々一本でも多くつくり続けること以外に方法はないと思っています
新澤巖夫
新澤醸造店 五代目蔵元
〈澄川〉
その後、大学を卒業して家業に入り、2年ほど経った頃だったかな。酒蔵の交流会で会ったり、電話をもらったりするうちに、付き合うようになったのでした。
それ以来、30年以上の長い付き合いになりますが、新澤の尊敬するところは、周りからどんなに馬鹿にされようとも、誰もやっていないことにどんどん挑戦して究極のところまで突き詰める、その大胆さと圧倒的な行動力です。料理と調和する〝究極の食中酒〟を追究した「伯楽星(はくらくせい)」も、それまでなかった日本酒で、新澤だからこそ生み出せたのだと思います。
僕の日本酒づくりを「静」だとしたら、新澤は「動」。まさに新澤は日本酒界の勝負師ですよ。
〈新澤〉
大学ではあまり接点がなかったとはいえ、当時から澄川は発言や物事の判断の仕方など、僕より一歩も二歩も先に行っているなと感じていました。家業に入ってからも、澄川は伝統を踏まえた本道を外さない日本酒づくりを愚直に貫いていて、実際、「東洋美人(とうようびじん)」が国内外で高い評価を受けているように、他に真似のできない一流の味をつくってきた。また、日本酒以外の事業に多角化する酒蔵もある中で、澄川は何より大事なのはまず酒づくりだと、そこに会社の資源を最も傾けていました。
だから、おそらく澄川が僕から学んだことはあまりなくて、僕が澄川から教えてもらったことのほうがたくさんあると思います。
同級生だけれども、接すれば知らないうちに日本酒の本道に連れて行ってくれる、上のレベルに引き上げてくれる、人生、仕事の先生のような存在が澄川ですよ。……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全10ページ~
◇日本酒づくりの道を共に歩んできた二人
◇人生を決めた生涯の師との出逢い
◇悔いなく生きる―病が教えてくれたこと
◇日本酒にはつくり手の生き様が表れる
◇逆転の発想から生まれた「伯楽星」
◇東日本大震災を乗り越え、世界トップの酒蔵へ
◇背負った分だけ新しい世界が見える
◇好きだからこそやり続けられる
◇報恩感謝の心を日本酒づくりに込めて
プロフィール
澄川宜史
すみかわ・たかふみ――昭和48年山口県生まれ。東京農業大学農学部醸造学科在学中に、高木酒造の十五代目当主・髙木辰五郎氏に弟子入り。大学卒業後、家業の澄川酒造場に入る。平成16年に第四代目蔵元杜氏に就任。奇を衒わない「王道の日本酒」を追究し、主銘柄「東洋美人」は、世界最大級の日本酒コンペ「SAKE COMPETITION」にて24年に「生酛・山廃部門」で第一位、翌年「純米吟醸部門」「生酛・山廃部門」の二部門で第一位に選出、令和6年山口県の鑑評会にて「大吟醸」「純米吟醸」「純米」の全3部門を制し、初の3冠を達成するなど国内外で高く評価されている。
新澤巖夫
にいざわ・いわお――昭和50年宮城県生まれ。東京農業大学農学部醸造学科卒業後、家業の新澤醸造店に入社。25歳で杜氏に就任。同年〝究極の食中酒〟「伯楽星」を世に出す。「伯楽星」はFIFAワールドカップ公式酒に選ばれるなど、国内外で高い評価を受ける。平成23年36歳で代表取締役に就任。28年『SAKE COMPETITION』にて「あたごのまつ」が純米酒部門第一位に選出。令和4年より世界酒蔵ランキング4年連続1位。IWC(インターナショナルワインチャレンジ)にて、世界一の蔵元に贈られる『Sake Brewer of the year』に4年連続(令和4~7年)で選出。
編集後記
地方の酒蔵の後継者として生まれ、苦楽を共にしてきた澄川酒造場の澄川宜史さんと新澤醸造店の新澤巖夫さん。先輩への憧れと見栄、欲望と痩せ我慢の連続だったという歩みの中で、それぞれ「東洋美人」と「伯楽星」、国内外で高い評価を受ける銘酒を生み出してきました。日本酒づくりの一道にすべてを注いできた二人の対談から、感謝の心で苦を楽に転じ、運命を拓いていく要訣を学びます。

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