無事是貴人——先師に導かれていまがある 千 宗室(茶道裏千家第十六代家元) 横田南嶺(臨済宗円覚寺派管長)

千利休居士を祖とする茶道家元の裏千家。「和敬清寂」の心を大切に、約500年にわたって代々その道統を守り継いできた。第十六代家元の千宗室氏は、「茶道とは人間にとって大切なものは何か、いかに生きるべきか、を学ぶ人倫の道でもある」と説く。氏はいかにして修行を積み、先師からの薫陶を受け、道を深めてこられたのか。懇意にされている臨済宗円覚寺派管長の横田南嶺氏と共に、人間学談義に花を咲かせた。茶と禅に通底する教えは私たちに多くの学びを与えてくれる。

「無事是貴人」の言葉を眺める度に、要らんものは捨てなさいと。おまえ、それは本当に必要か。
捨てたら元の自分に戻れるんやで、と問われている気がするんです

千 宗室
茶道裏千家第16代家元

〈千〉
きょうは、老師から以前いただいた「無事是貴人」の軸を床の間に掛けさせていただきました。私が一番好きな言葉ですし、この軸を掛ければ、話がうまく進むのではないかと思いましてね。

これは若い時に提唱で教わって私が消化したことですから、南嶺老師にお叱りを受けるかもしれませんが、無事というのは「要らんものを捨てる」こと。貴人というのは、偉い人ではなくて、「おまえ、それを捨てたら元の自分に戻れるで」と言ってくれているんじゃないかと受け止めています。

〈横田〉
お家元はあまり講演をお好みでないと言うんですけれども、ありがたいことに平成27年に円覚寺の夏期講座でご講演いただきました。私はお家元に自分の下手な字を差し上げるほど厚顔無恥な人間ではありません。

ところが、夏期講座の講師への御礼品はこの書と決めているのです。それで恐れ多くも紛れ込んでしまった。ここは私の書を掛けるような場所ではありません。

〈千〉
淡交会青年部の研修会や裏千家学園茶道専門学校の開校式などで私が話をする時には、この軸を掛けて重宝しております。

〈横田〉
もうお恥ずかしい限りで、きょう引き取って帰ろうかと(笑)。

「更に参ぜよ三十年」というように、師匠はいまも死んでいない、生きているんだとの思いを深く噛み締めています

横田南嶺
臨済宗円覚寺派管長

〈千〉
きょうは南嶺老師に鎌倉から京都までお越しいただき、本当に恐縮しております。

〈横田〉
坐忘斎お家元も稽古始めをひと通り終えられて、お疲れのところをありがとうございます。

〈千〉
老師も大摂心(坐禅修行)を終えられたばかりですね。

〈横田〉
ちょうど大寒の1月20日から一週間勤めさせてもらいました。例年、最も寒い時期の摂心であります。

〈千〉
摂心での提唱(講義)というと、『臨済録』や『碧巌録』を取り上げる僧堂が多いですけれども、何でなさったのですか?

〈横田〉
今回は『十牛図』を読んでおりました。

〈千〉
ああ、そうですか。『十牛図』をなさるところは珍しいですね。

〈横田〉
そうかもしれません。この頃は雲水(修行僧)に希望を聞いてやっているんです。

〈千〉
あれは取っ掛かりは易しいけれども、最後は迷子になるような。老師には下調べなんて必要ないと思いますが、聞く者の心の準備が要りますね。空っぽにせな、入りませんから。

〈横田〉
これまで何遍も話していて、今回も20回ほどかけてひと通り読んだんですけれども、いまでも新しい発見がありましてね。この字はこういう意味があったのかと。つい数日前の感動なんですよ。

〈千〉
それはまたぜひともお聞かせいただいて。

〈横田〉
このことはきょうのテーマにも繋がるので、最後にお伝えしたいと思います。……(続きは本誌をご覧ください)

本記事の内容 ~全10ページ(約15,000字)~
◇つい数日前の新たな発見と感動
◇風のような家元 蛍のような管長
◇人をお出迎えする時の絶妙な心遣い
◇「無事是貴人」は一生の目標
◇一日の始まりは利休堂のお参りから
◇弟子の成長を見るのが何と言っても楽しみ
◇「春になれば治ります」と答えた修行僧の覚悟
◇二人の師匠からいただいた宝物の言葉
◇分かったふりをしてはいけない
◇家元としての重圧にいかに向き合ってきたか
◇師匠からの最期の言葉「更に参ぜよ三十年」
◇慙愧の心こそが感謝の原動力である

プロフィール

千 宗室

せん・そうしつ――昭和31年京都府生まれ。同志社大学卒業。臨済宗大徳寺管長・僧堂師家の中村祖順老師のもとで参禅得度、斎号「坐忘斎」を受く。祖順老師没後、妙心寺の盛永宗興老師のもとで参禅。平成14年12月裏千家家元継承。今日庵庵主として宗室を襲名。

横田南嶺

よこた・なんれい――昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。著書に『禅の名僧に学ぶ生き方の知恵』『十牛図に学ぶ』『臨済録に学ぶ』『無門関に学ぶ』(いずれも致知出版社)など多数。


編集後記

弊誌とご縁が深く、昨年102歳で天寿を全うされた茶道裏千家第十五代家元の千玄室大宗匠。そのご子息で第十六代家元の千宗室さんと弊誌連載「禅語に学ぶ」でお馴染みの横田南嶺さんが懇意にされていると伺い、本対談が実現しました。1月28日(水)、京都の今日庵にて行われた取材は、まさに「にこにこ顔の命がけ」そのものの雰囲気でした。一つひとつの言葉や教えが深く心に響いてきます。

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