1 月号ピックアップ記事 /対談
かくしてV字回復は成し遂げられた 塚本こなみ(浜松市花みどり振興財団理事長) 堀 一久(新江ノ島水族館社長)

バブル経済崩壊後の不況をはじめとする様々な困難と向き合い、見事、大型施設のV字回復を果たした立役者がいる。あしかがフラワーパーク、はままつフラワーパークを再建した塚本こなみ氏、新江ノ島水族館を全国屈指の人気を誇る水族館に育て上げた堀一久氏である。共に強固な信念と高い志を抱きながら厳しい改革に臨んだお二人の歩みは、仕事や人生の知恵に溢れている。

いきなり難しい目標を掲げたとしても挫折してしまいます。
遠い目標ではなく、小さな楽しそうな目標を指示すること。それを積み重ねていけば、いつか高い目標に到達することができる
塚本こなみ
浜松市花みどり振興財団理事長
〈塚本〉
初めてお目にかかります。きょうは堀さんのお話を伺うことを楽しみにしていました。
〈堀〉
こちらこそ。2つのフラワーパークを再建し好業績に導かれた塚本さんのご活躍は以前から存じ上げておりました。今回、10年ほど前に出られた『致知』の記事を拝見していて「感動分岐点を超えた時、人も経営も変わる」という言葉に、とても感動したんです。そのことも含めていろいろとご教授賜りたいと思っています。
〈塚本〉
とんでもないことです。よろしくお願い申し上げます。
〈堀〉
塚本さんは人生や経営の大先輩でいらっしゃるわけですが、いまも理事長として「はままつフラワーパーク」の運営に当たられているそうですね。
〈塚本〉
はい。簡単にご紹介させていただきますと、「はままつフラワーパーク」は浜名湖畔にある植物園で、東京ドーム6・4個分の広大な敷地に3,000種類の草花が植えられています。2020年、コロナ禍の時でしたけれども開園50周年を迎えまして、それ以降は特に園内の景観や芸術性、快適性を高めることに力を入れていて、日本一、世界一のガーデンミュージアムを目指していま頑張っているところなんです。
個人的には、名古屋市の海沿いにある中部電力さんの庭園施設が来年、「メグラスガーデン名古屋」としてリニューアルオープンするに当たって、そのプロデュースを務めさせていただいている他、長野県のほうでは、八ヶ岳農業大学校ガーデンプロジェクトのお手伝いをしています。

勇気を持って殻を破って挑戦するがゆえに、その先に繁栄という結果が待っている。
そのことは会社経営に限らず、一人の人間が社会人として生きていく上で大事なことだと思います。
堀 一久
新江ノ島水族館社長
〈塚本〉
堀さんが社長を務められる新江ノ島水族館も昨年、リニューアルオープンから20年の節目を迎えられたと伺いました。
〈堀〉
ええ。旧館の江の島水族館のオープンからは、今年でちょうど70周年になります。新江ノ島水族館(以下、「えのすい」)は神奈川県の湘南地域の観光施設と位置づけられていますので、地元の藤沢市や観光協会、商工会議所、小田急電鉄、江ノ島電鉄などと官民一体となりながら、いかに地域の価値を高めるか、が問われています。次の10年に向けて、その大きな課題にスタッフと共に取り組んでいるところです。
〈塚本〉
いまおっしゃった「地域と共に」ということはとても大事ですね。この浜名湖地域は花の施設が多くございまして、2019年から一緒にガーデンツーリズムを推進してまいりました。浜松城公園や日本庭園で知られる龍潭寺、浜名湖ガーデンパークなど7施設を繋いで国内外からお客様をお呼びしようという取り組みなのですが、これからの時代は自分の施設だけでなく地域と一体となって歩んでこそ当園の道も拓けていくと考えています。
〈堀〉
私どももブランドという点で湘南の知名度が高いことはありがたいのですが、江の島が藤沢市にあるということはあまり浸透していない。「茅ヶ崎でしょう?」「えっ、鎌倉じゃないの」というイメージなんですね。加えてゴールデンウイークや海水浴シーズンだけでなく、いかに1年を通して観光客を安定的に呼び込むかという課題もあります。その意味でも「えのすい」の果たすべき役割は大きいと感じているんです。……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全10ページ~
◇地域と共に歩み続けて
◇女性樹木医第一号の道へ
◇困難を極めた大藤の移植
◇突然経営を担った母親の後ろ姿に教えられる
◇苦境の中で生まれた水族館再建策
◇改革の手始めは徹底した市場調査から
◇感動分岐点を超えた革新的アイデア
◇「えのすい」の価値をいかに正しく伝えるか
◇小さな変化を積み重ねることの大切さ
◇宿命に生まれ、運命に挑み、使命に燃える
◇世界一を目指して歩き続ける
プロフィール
塚本こなみ
つかもと・こなみ――昭和24年静岡県生まれ。造園家であるご主人の仕事を手伝った後、グリーンメンテナンス、環境緑化研究所の2社を設立。樹木医になり、足利の大藤を移植・デザインを担当。造園指導などを続ける傍ら平成11年あしかがフラワーパーク園長に就任。25年はままつフラワーパーク理事長に就任。卓越したアイデアと努力により赤字に陥っていた両園のV字回復を果たす。
堀 一久
ほり・かずひさ――昭和41年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、平成元年に住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)に入社。14年江の島水族館に専務取締役として入社。16年江ノ島マリンコーポレーション(江の島水族館から商号変更)の社長に就任。26年新江ノ島水族館社長に就任。
編集後記
全国から多くの観光客を集めるはままつフラワーパークとあしかがフラワーパーク、それに新江ノ島水族館。かつてバブル崩壊の煽りなどで苦境に立たされていた施設を、それぞれV字回復に導いた立役者である塚本こなみさんと堀一久さんにご対談いただきました。お2人に共通するのは来場者の期待を大きく上回る感動を提供し続けたこと。事業再建の道程から、苦しみを経てこそ、それを克服する知恵が生まれることを教えられます。

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