1 月号ピックアップ記事 /エッセイ
わが子を信じ、待つ力が子どもの未来を拓く——4,000組の親子に向き合って 分かったこと 池添 素(特定非営利活動法人 福祉広場 理事長)

不登校や引きこもり、発達障害など、様々な課題を抱える4,000組の親子に寄り添ってきた福祉広場理事長の池添素さん。子どもたちの声なき声を聴き、生きる力を甦らせてきた池添さんが実体験を交えて語る親子のあり方、子育てのヒントとは――。
【写真=福祉広場のスタッフと共に】

いまどれだけ苦しくても、決して諦めず子どもの〝いま〟にきちんと向き合い続ければ、時間は掛かったとしても必ず子どもは応えてくれます
池添 素
特定非営利活動法人 福祉広場 理事長
35万3,970人――。この数は何を意味していると思いますか? 文部科学省が発表した2024年度の小中学生の不登校児童生徒数です。不登校児童生徒数は年々増加しており、2024年も過去最多を記録しました。
私が理事長を務めるNPO法人福祉広場(京都府)では、児童発達支援事業所「ひろば」「御所ひろば」「まるんなひろば」の3か所で子育て、発達障害、不登校、ひきこもりなど、親子関係に関わる様々な相談・療育(発達に課題を抱える子どもに対して行われる専門的な支援)に向き合ってきました。さらに、「訪問看護ステーションひろば」では、終末期看護や在宅看み取とり、小児看護、認知症看護にも取り組んでいます。
福祉広場を立ち上げる前、京都市の児童福祉センター療育課などに勤めていた時代も含めれば、これまでに4,000組以上の親子の悩みに向き合ってきたでしょうか。
もともと私は、祖父が日本画家の山口華楊(文化勲章受章)、父・山口昌哉は数学者という家庭に生まれました。しかしなぜか絵も数学も全く苦手。そのため劣等感を抱えて育ち、居心地の悪い家を早く出たい、早く社会に出て働きたいという思いから、保母(保育士)を目指すようになりました。
その後、保育について勉強していく中で、保育実習で訪れたある知的障害者施設に、奇しくも父と同じ名前の男の子がいました。男の子は、石でも釘でも地面に落ちているものを何でも拾って食べてしまいます。汚いからだめと伝えても、全くやめてくれません。
この時、自分の無力さを痛感すると共に「なぜそんなことをするのかを知りたい。理由を知って何とかしてあげたい!」という思いが湧き上がってきたのでした。
なぜそんなことを――?。この問いが私の活動の原点であり、いまも子どもの立場になってなぜ?を問う姿勢は一貫しています。
以後、障害者の発達課題について学びを深め、京都市役所に就職してからは、市の障害者施設や保育所、児童福祉センター療育課などで様々な課題を抱える子どもたちの支援に没頭していきました。
ただ、公務員ではやはり人事異動があったり、組織の制約があったりして一人ひとりの子を小・中・高・大、就職というように、継続して支援していくのは難しい現実がありました。そこで42歳の時に市役所を退職して、1994年、思いを同じくする3人の仲間と共に福祉広場の前身となる「らく相談室」を立ち上げたのです。……(続きは本誌にて)
~本記事の内容~(全4ページ)
◇なぜそんなことを―? 活動の原点にあるもの
◇大人の向き合い方が子どもに宿題をつくる
◇生きる力が満タンになるまでじっくり待つ
◇人間は満たされなかった欲求を取り戻そうとする
◇その子の特性を理解し環境を整える
◇子育てはjust now いまを大事に向き合う
プロフィール
池添 素
いけぞえ・もと――昭和25年京都府生まれ。京都市職員として保育所や児童福祉センター療育課などに勤務。平成5年に京都市職員を退職し、「らく相談室」(現・福祉広場相談室)を開設。様々な問題を抱える親子に向き合い続ける。立命館大学産業社会学部非常勤講師、京都市保育園連盟巡回保育相談員。著書・関連書に『新装版 いつからでもやりなおせる子育て』(かもがわ出版)『不登校から人生を拓く 4000組の親子に寄り添った相談員・池添素の「信じ抜く力」』(講談社+α新書/島沢優子著)など。
編集後記
不登校やひきこもりなど、様々な課題を抱える4,000組以上の親子の相談に向き合ってきた福祉広場理事長の池添素さん。その実践から導き出した、生きづらさを感じている子供の生きるエネルギーを満たす親子関係のあり方や言葉掛けは、家庭の明るい未来を拓くヒントに溢れています。

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