信じる心が運命の扉を開く 山田和樹(指揮者) 佐治薫子(千葉県少年少女オーケストラ 音楽監督)

2025年6月、日本人としては佐渡裕氏以来14年ぶりに、世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期公演に登場し、世界から絶賛された指揮者の山田和樹氏。音楽教師として赴任した小中学校のリード合奏やオーケストラを次々と全国優勝に導き、90歳を迎えるいまなお千葉県少年少女オーケストラの音楽監督として子どもたちの指導に情熱を燃やしている佐治薫子氏。音楽を通じて20年以上にわたる交流を続けてきた両氏に、これまでの歩みを交え、よき出逢いを実現し、運命の扉を開く要諦を語り合っていただいた。
【写真=2025年6月、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮する山田氏 ©Bettina Stoess】

自分が何か意志を持って一所懸命に努力して向かっていく先に、運命を変える出逢いが待っています

佐治薫子
千葉県少年少女オーケストラ 音楽監督

〈佐治〉 
山田さんが今年6月に指揮したベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(以下ベルリン・フィル)の定期演奏会は、本当に大成功だったと、現地で演奏を聴いたヨーロッパにいる教え子が話してくれました。とにかく素晴らしい演奏で、聴衆からはスタンディングオベーションが起きました。その様子は日本でも大きく報じられ、私も大変嬉しく拝聴いたしました。

〈山田〉 
世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルの舞台には、指揮者としていつか立てればと夢見ていました。その夢が46歳という、自分が思っていたよりも早く実現したのは本当に嬉しいことですし、感無量でした。

また指揮台に立つことで、なぜベルリン・フィルが世界最高峰のオーケストラと言われているのかもよく分かりました。それはベルリン・フィルが世界でも数少ない団員主導の自主運営であることに尽きると思うんですね。団員で好きな指揮者、曲目を自由に選んで演奏するという自主自立の精神が生きているから、ベルリン・フィル独自の音が出せるんです。

実際、指揮をしている間、まるで音が自分に突進してくるような感覚を受けました。これはほかのオーケストラでは経験したことのないものです。

〈佐治〉 
貴重な体験でしたね。

〈山田〉
ただ、その一方、すごく冷静な自分がいました。指揮を終えたら、感極まって泣くかもしれないと思っていたのですが、リハーサルも含めて、自分でも不思議なくらいに平常心だったんです。

〈佐治〉
ああ、そうでしたか。

〈山田〉 
というのは、一所懸命に準備をして、情熱を持って指揮をして、お客様が喜んで拍手をしてくださる。その音楽を創り上げる過程と充実感は、ベルリン・フィルであっても、ほかのオーケストラであっても同じなんですね。

ですから、どんなオーケストラであっても目の前の演奏会に全力を尽くし、お客様に喜んでいただく。そうしたらまた次の演奏会に全力を尽くしていく。一回一回の演奏に全力を尽くしていくその姿勢が、指揮者として何より大事であることを改めて学びました。

指揮者の仕事はやってもやっても終わりがありません。
命を懸けるに値する仕事だと思っています

山田和樹
指揮者

〈山田〉 
佐治先生とはだいぶ長いお付き合いになりますけれども、初めてお会いしたのは確か……。

〈佐治〉 
山田さんが東京藝術大学を出てから2、3年の頃だったと思います。

〈山田〉 
そう、2001年に卒業した2年後、2003年でした。

〈佐治〉 
私が30年音楽監督を務めている千葉県少年少女オーケストラの年1回の定期演奏会は、プロの指揮者にお願いすることになっているので、その指揮者を探していたところ、ある方から「若手でよい指揮者がいる」と紹介されたのが山田さんでした。

〈山田〉 
恥ずかしながら、当時私は千葉県少年少女オーケストラのことを知りませんでしたが、紹介者の方に素晴らしいオーケストラだから行ってみてと言われ、とにかく引き受けることにしたんです。

行ってみたら、音楽監督の佐治先生に随分叱しかられ、鍛えていただきました。先生はもう忘れているかもしれませんが、練習をしていると、「この速度では子どもはついていけない」などと言われたりして、その度にいたたまれない気持ちになりました。

〈佐治〉 
そんなこと言ったかしら。

〈山田〉
でもそうして率直に指摘してくださる方は、佐治先生しかいませんでした。先生の子どもたちに向き合う姿勢からもまた、多くを学んだことを覚えています。



本記事の内容 ~全10ページ(約14,000字)~
◇一回一回の演奏に全力を尽くす
◇20年以上の長い付き合い
◇音楽の存在が人生を支える力に
◇出逢いに導かれて指揮者の世界へ
◇「家を一歩出たら指揮者だと思いなさい」
◇「それでいいんだよ」師匠の愛情に包まれて
◇洋裁か、音楽か、運命を分けた出逢い
◇音楽室も楽器もないゼロからのスタート
◇「最高の一音」が子どもたちを成長させる
◇音楽を楽しむ―原点回帰で次のステージへ
◇巡り合わせが人生を導く
◇感謝の心が出逢いを本物の出逢いにする

世界トップレベルのオーケストラを指揮した山田氏と音楽指導の名人・佐治氏の対談には、出逢いを生かし、よりよき運命を導く要諦が満載です。ぜひご覧ください。

プロフィール

山田和樹

やまだ・かずき――1979年神奈川県生まれ。東京藝術大学音楽学部指揮科で、松尾葉子氏、小林研一郎氏に師事。在学中に「TOMATOフィルハーモニー管弦楽団」(現・横浜シンフォニエッタ)を結成。2009年第51回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。以後、2012年~2018年スイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者、2016/17シーズンからモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督、2023年4月からバーミンガム市交響楽団首席指揮者兼アーティスティックアドバイザーを務め、2024年5月には同団音楽監督に就任。日本では、東京混声合唱団音楽監督兼理事長、横浜シンフォニエッタの音楽監督などを務める。2025年6月、日本人としては14年ぶりに、世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を定期公演で指揮し、世界から絶賛される。

佐治薫子

さじ・しげこ――1935年千葉県生まれ。1956年千葉大学教育学部音楽科卒業後、音楽教師として君津市立松丘中学校に赴任。リード合奏の指導に情熱を傾け、同校を5回の全国優勝に導く。1966年船橋市立前原小学校へ転任、オーケストラの指導を行う。以後も習志野市立谷津小学校や市川市立鬼高小学校など、転任する先々で全国優勝を成し遂げ、「佐治マジック」「優勝請負人」などと高い評価を受ける。1996年教員を退職後、千葉県少年少女オーケストラの音楽監督に就任し、現在に至る。「音楽教育功労賞」(2008年)「地域文化功労者表彰」(2016年)など受賞・表彰多数。


編集後記

創刊47周年記念号のトップ対談を飾っていただいたのは、今年6月、日本人としては14年ぶりにベルリン・フィルの定期演奏会で指揮を務めた山田和樹さん、46歳と、数々の小中学校の合奏団・オーケストラを全国優勝に導いてきた佐治薫子さん、90歳。お二人が縦横に語り合う、いまも大事にしている師匠の教え、オーケストラの団員や生徒の心を掴む指導のあり方から、出逢いの扉を叩き、自らの運命を力強く切り開く要諦を学びます。

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