10 月号ピックアップ記事 /インタビュー
病気や障害と生きる子と親に〝善き出逢い〟を 富和清隆 (奈良親子レスパイトハウス代表幹事)

社会にはいまこの瞬間も、難病や重度障害の子を抱え、一切気の抜けない日常を生きる家庭がある。「命あるものすべてが栄えることを望む」――聖武天皇は、奈良の東大寺大仏の造立にこの切願を込めたという。その境内の片隅に、そうした家族を招き入れ、日常を離れた親子の憩いの時間、命の交流をつくろうと心を砕く人たちがいる。施設の代表である富和清隆氏は、いかに親子の人生を輝かせてきたのだろうか。

ほんの一部でいい、やれるだけのことをやる。ただし、本質を実践することが大事
富和清隆
奈良親子レスパイトハウス代表幹事
――東大寺大仏のお膝元(ひざもと)で、重い病気や障害のために常時ケアが必須のお子さんを家族ごと受け入れ、憩(いこ)いの場を設けているお医者様がいると聞き、まいりました。
〈富和〉
すぐそばに大仏殿があって、なかなかいい雰囲気でしょう?
この建物は、長年使われていなかった大正時代からある東大寺の職員宿舎を、一部改築して使わせてもらっているんですよ。
――畳(たたみ)の居間に昔ながらの木の渡り廊下、素敵な庭園があり、外に鹿の姿も見えます。不思議と心が落ち着きますね。
〈富和〉
この「奈良親子レスパイトハウス」は、同じ境内にある東大寺福祉療育病院で副院長をしていた平成22年に立ち上げました。
いまも平日の大半はその東大寺福祉療育病院で、主に難病や重度障害の子たちを診療しています。現在は病院の母体である東大寺福祉事業団の理事長でもあるので、週末にここで活動できるのは月に1~2回なんです。
――〝親子レスパイト〟とはどういう意味なのでしょうか?
〈富和〉
レスパイト(respite)は休息という意味の英語です。医療や福祉の分野では、親が、手を離せない子供たちを病院や福祉施設に預けるレスパイト入院、短期入所といった福祉制度があります。
ただ、これには課題もありましてね。預けられた子は、施設の慣れない職員のケアに不安を覚え、親は、自分の休息のためということで、申し訳なさを感じてしまう。
――共に負の感情が湧きがちだと。
〈富和〉
それではいけない。「この家の子でよかった」「この子の親でよかった」と喜べる、それでこそ命が輝くことだと思うんです。
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本記事の内容 ~全4ページ~
◇「生まれて初めて、親子で川の字で寝ました」
◇お金や効率に囚われず歩んできた15年
◇最期の夜に開かれたお茶会
◇Live deep. 運命を決めた出逢い
◇いまやれること、しかし本質をやる
◇無意味に思える一回一回がすべて

親子レスパイトでは、東大寺大仏殿の拝観も行われる。日常では浴し得ない精神的な癒やしを得る家族も多いという(後列右が富和代表)
プロフィール
富和清隆
とみわ・きよたか――小児科専門医。昭和24年大阪府生まれ。43年東大寺学園卒業、50年京都大学医学部卒業。その後、聖路加国際病院小児科レジデントなどを経て英国ロンドンに留学、神経遺伝学研究に従事する。帰国後、大阪市立総合医療センター小児神経内科部長、京都大学大学院医学研究科教授を経て平成22年東大寺福祉療育病院に入職。同年東大寺境内に奈良親子レスパイトハウスを設立。
編集後記
近鉄奈良駅を出て、車に乗ること数分……ほどなく、野生の鹿たちに迎えられ、東大寺が見えてきます。境内にいくつもある古式ゆかしい建物のうち、大仏殿の近くにひっそりとたたずんでいるのが「奈良親子レスパイトハウス」です。事前に住所は伺っていたものの、一見してこことは分からず、少し迷ってしまったほど景色になじんでいました。
古い職員宿舎を借り受けて運営されているというこの施設は、出迎えてくださった富和代表のお人柄ともあいまって、何とも言えない温かな雰囲気に包まれていました。ここを訪れる家族の皆様は、人生で諦めてしまっていた外出や催事への参加といった活動を経験し、不思議な癒やしを得ていかれるそうです。
人生にたった一度になるかもしれない、その貴重な一日を、文字通り心力を尽くしてつくり上げる富和代表とハウスの皆様の姿勢に、感動しました。

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