坂村真民先生に学んだこと 青山俊董(愛知専門尼僧堂堂頭) 西澤真美子(坂村真民先生ご息女)

仏教詩人として知られる坂村真民先生。97年の生涯でつくられた数多くの詩は、没後19年が経ったいまなお人々に寄り添い、生きる力や希望を与え続けている。真民先生と長年交流があり、その生き方や詩をいまも修行の指針とする愛知専門尼僧堂堂頭・青山俊董師と、真民先生のご息女である西澤真美子氏。多くの苦難をも人生よき出会いと受け止め、詩に命を注ぎ続けた真民先生の人生を語り合っていただいた。

真民先生には「ねがい」「願い」と題する詩がたくさんありますが、先生はその願いに生きるために詩に命を懸けた方ですね。
私はそのような詩に触れるたびに誓願に生きる人のひたむきさ、美しさというものを感じるんです

青山俊董
愛知専門尼僧堂堂頭

〈青山〉 
暑い中、この信州・塩尻の無量寺まで足をお運びくださり、かたじけなく思います。きょうは真美子さんとお会いできることを心待ちにしておりました。

〈西澤〉
いいえ、とんでもないことです。高名な青山老師様と父・真民について語り合えるなどとても光栄であり、私のような者でいいものかと恐縮しながら松山からまいりました。

このお座敷に通していただき、床の間に「念ずれば花ひらく」の父の掛け軸をお掛けくださっているのを拝見しながら、老師様のさりげないお心遣いをとても嬉しく思っているところです。この書はおそらく父が若い頃に書いたものではないでしょうか。

〈青山〉 
はい。私も真民先生とのお付き合いは長く、お手紙なども随分いただきました。先生の詩集はいまも愛読しているわけですが、そういえば一度、砥部町(愛媛県伊予郡)のご自宅にお伺いしたことがありましたな。私は全国いろいろなところで講演をさせていただきましたから、確か愛媛に行った折に、砥部町に足を伸ばしてお訪ねしたのではないかと。

〈西澤〉 
ええ。もう40年近く前のことですが、よく覚えております。その頃、私はたまたま実家にいて、青山老師様をお迎えすることができました。父もとても喜んでおりましたね。

父は「運命の軽車に乗る」というゲーテの言葉が好きで、よくいろいろなところで話していました。
運命的な出逢いは自分の周りをいっぱい走っている、人生はそれを掴まえることができるかどうかだと。

西澤真美子
坂村真民先生ご息女

〈青山〉 
真美子さんはご存じでしょうか。長野県南端の遠山郷に真民先生の「念ずれば花ひらく」の詩碑と、私の歌碑が並んで立っているんです。

今回、真民先生についての対談ということでそのことを思い出し、調べていましたら、1993年に出した「無量寺便り」で碑について書いていました。

30年以上前、塩尻警察署にお勤めの柳澤文雄という方が私の講演を聞いて感動され、ご自身が信奉する真民先生の詩碑と私の歌碑を建てることを発願される。その後、派出所長として赴任された遠山郷にてほうぼうから寄付を集め、2つの碑の建設を進められたのですが、そういうところにも真民先生との不思議な縁を感じております。

〈西澤〉 
ちょうど『致知』の編集者の方から老師様がそのことに関心をお持ちだと聞きましたので、私も古い新聞記事を探して持ってまいりました。

柳澤様はご老師の本を通して父のことを知り、1992年の「念ずれば花ひらく」の除幕式には老師様が記念講話をされたと書かれています。その翌年、1つの石を割って老師様の歌碑と真民の詩碑が並んで立ちました。老師様の歌碑に刻まれた

その中に ありとも知らず 晴れ渡る 空にいだかれ 雲の遊べる

この歌は、父の求めた世界と通じるものがあるように感じます。
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本記事の内容 ~全9ページ~
◇長野県南端の町に並び立つ詩碑と歌碑
◇天地の声を聞き詩に表現した真民先生
◇よき出逢いと心のアンテナ
◇素顔の坂村真民先生
◇父の死と母の愛
◇杉村春苔尼、森信三師との出逢い
◇年を重ねてこそ見えてくる世界がある
◇それは遠い道である月までよりも遠い道である
◇「念」の一文字に込めた思い

プロフィール

青山俊董

あおやま・しゅんどう――昭和8年愛知県生まれ。5歳の時、長野県の曹洞宗無量寺に入門。駒澤大学仏教学部卒業、同大学院修了。51年より愛知専門尼僧堂堂頭。参禅指導、講演、執筆のほか、茶道、華道の教授としても禅の普及に努めている。平成16年女性では2人目の仏教伝道功労賞を受賞。21年曹洞宗の僧階「大教師」に尼僧として初めて就任。令和4年1月より曹洞宗大本山總持寺の西堂に就任。著書に『道はるかなりとも』(佼成出版社)『一度きりの人生だから』(海竜社)『泥があるから、花は咲く』(幻冬舎)『あなたに贈る人生の道しるべ』(春秋社)など多数。

西澤真美子

にしざわ・まみこ――昭和24年愛媛県生まれ。坂村真民氏の末娘。大学入学と同時に親元を離れたが、「念ずれば花ひらく」詩碑建立や国内外の旅行などを真民氏と共にする。母親の病気を機に愛媛県砥部町に戻り、その後、病床の母を見守った。平成24年の坂村真民記念館設立にも尽力。


編集後記

「人生は深い縁(えにし)の不思議な出会いだ」。詩人・坂村真民先生の「めぐりあい」という詩の一節です。人や出来事との出逢いを大切に育みながら、人々の心に寄り添う詩を書き続けられた真民先生。その生き方を本誌「巻頭の言葉」の執筆陣である青山俊董さん、真民先生のご息女・西澤真美子さんに語り合っていただきました。いまなお燦然と輝く真民詩の背景に修行僧の如き厳しさで創作に向き合う姿勢があったことに、思いを馳せずにはいられません。

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