人生の玄冬を歩く 五木寛之(作家) 帯津良一(帯津三敬病院名誉院長)

五木寛之氏92歳、帯津良一氏89歳。片や希代のベストセラー作家として、片やホリスティック医学の第一人者として、それぞれの道をいまもなお第一線で走り続けている。二人の活力の源、そして長きにわたる人生行路を通じて見えてきたものは何か。共に九十の坂に差しかかった二人が縦横に語り合う、老病死を乗り越える人生の秘訣。

百歳人生もいまが積み重なってそこに至るわけで、先のこと、死のことを考えるのも大事だけど、何よりもいま、この瞬間を精いっぱい生きる

五木寛之
作家

〈五木〉 
帯津さん、お久しぶりです。

〈帯津〉 
お目にかかるのを楽しみにしていました。少し前に講演会でご一緒して以来ですね。

〈五木〉 
そうでしたね。帯津さんとはよく旅先でばったり顔を合わせてきましたが、普通に会うよりもうんと嬉しいものですよね。おかげさまでお互いを「先生」ではなく、「さん」と呼び合うようなフラットなお付き合いをさせていただけるようになったのは嬉しい限りです。最近も旅にはよく行かれるのですか?

〈帯津〉 
講演で出かけることがよくあります。以前は飛行機で行くことが多かったんですが、最近は大体新幹線ですね。

それにしても五木さんは本当にお若いですね。初めて対談をさせていただいた20年前と全然変わりませんよ。

〈五木〉 
いやいや、僕も今年の秋には93になりますけど、五月雨式にあっちこっちに故障が出てきています。それを何とか我流で退治していくのを楽しんでいるんですけどね(笑)。生活は何も変わりません。これまで通りの毎日がそのまま続いている感じです。

〈帯津〉 
私は去年88歳になった時に、石原慎太郎さんと大江健三郎さんが同じ88歳で亡くなっているので、お二人に並んだと思ったんですよ。今年は89歳になって、私の好きだった脚本家の山田太一さんが亡くなった年とも並びました。

来年はいよいよ九十の坂に差しかかるわけですけど、大先輩の五木さんはずっと私の先を歩き続けていらっしゃるから、いつになっても並ばない(笑)。

九十の坂というのはどんなものですか。何かご心境の変化はありますか。

〈五木〉 
特別にないですね。年齢の壁なんか全然感じたこともありませんしね。僕らは、ほら、敗戦の時以来、明日のことなんか分からないと思い知らされてきたから、これから先のことはあまりくよくよ考えてもしようがないという主義でね。とにかく90代は、目の前の仕事をちゃんとやろうと思っているんですよ。

〈帯津〉 
あぁ、目の前の仕事をちゃんとやる。

〈五木〉 
自分の話で恐縮ですが、僕はいま連載を8本抱えていましてね。40代、50代の頃よりうんと仕事が多くて、これをやるだけで毎日があっと言う間に過ぎてしまう。だから年のことを考えている暇なんかないんです(笑)。

老化と死を認めて、受け容れた上で、楽しく抵抗しながら自分なりの養生を果たし、生と死の統合を目指していく。そういうナイスエイジングこそが大事です

帯津良一
帯津三敬病院名誉院長

〈五木〉 
昨夜、帯津さんがお書きになった『ときめいて大往生』を拝読しましたが、いやぁ痛快な本ですね(笑)。「医者の言いなりになるのをやめてみる」とか「偏食バンザイ!」とか、普通の人がそんな突飛なことを言っても感心しないけれども、帯津さんのような医学の専門家が書かれると本当に愉快だし、読んでいると老いや死が明るく、気持ちよいことのように感じられてきます。

老病死についていろいろ悩んでいる人にとってみれば、ガツンと後ろから頭を叩かれるような、そういう励ましをもらえる本ですよね。実に面白かった(笑)。

〈帯津〉 
ありがとうございます。89歳のいま思っていることをそのまま綴りました。

〈五木〉 
帯津さんのご本を読むといつも感じるのですが、一筋の道をずっと歩き続けていらっしゃいますね。

〈帯津〉 
医療の道を歩き続けて63年になります。もともとは外科医としてがん治療の現場で活動していましたが、体の悪い部分だけを見る西洋医学の限界を痛感しましてね。1982年に独立して帯津三敬病院を開業し、心や魂も含めた人間の丸ごとを見て、西洋医学だけでなく、代替療法、伝統療法なども活用して患者さんの命をサポートするホリスティック医学に取り組んできました。

〈五木〉
最近はどんなふうに一日を過ごされているのですか。

〈帯津〉 
朝は3時半に起きます。4時50分にタクシーが迎えにくるので、それに乗って病院に入ります。病院には2分で着くので歩いてもいいんですけど、病院のスタッフが転ぶのを心配してタクシーを頼んでくれましてね。それに乗って4時52分くらいに病院に入るんです。それから1日病院で過ごして、夕方の5時半に仕事を切り上げて晩酌を始めるんです。……(続きは本誌をご覧ください)

本記事の内容 ~全10ページ~
◇休まず書き続けること これがいまのモットー
◇いまこの瞬間に集中して
◇一人ひとりが自分の健康法を持つこと
◇人生観と一致してこそ本当の健康法
◇死ぬまで一所懸命働いてその日まで酒を飲みたい
◇時には変化を加えることも大事
◇死ぬのが嫌でなくなってきた
◇どこでどう斃れてもそれがその人の人生
◇ナイスエイジングと攻めの養生
◇いま、この瞬間を精いっぱい生きる

プロフィール

五木寛之

いつき・ひろゆき――昭和7年福岡県生まれ。生後まもなく朝鮮に渡り、戦後引き揚げる。27年早稲田大学露文科入学。32年中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、41年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、42年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、51年『青春の門・筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞を受賞。また英文版『TARIKI』は平成13年度『BOOK OF THE YEAR』(スピリチュアル部門)に選ばれた。14年菊池寛賞を受賞。22年に刊行された『親鸞』で毎日出版文化賞を受賞。日本藝術院会員。

帯津良一

おびつ・りょういち――昭和11年埼玉県生まれ。36年東京大学医学部卒業。東京大学医学部第三外科医局長、都立駒込病院外科医長を経て、57年帯津三敬病院を開業。平成16年帯津三敬塾クリニックを開設。体だけでなく、心と命も含めた人間まるごとを診るホリスティック医学を提唱。著書に『素晴らしき哉、80代』(ワニブックス)、『人生100年時代を楽しく生きる』(春陽堂書店)『ときめいて大往生』(幻冬舎)など多数。


編集後記

92歳にして連載を8本抱える人気作家の五木寛之さん。89歳の現在も毎朝3時半に起き、病院経営に邁進する帯津良一さん。九十の坂に差しかかったいまの心境をお二人に語り合っていただきました。「きょうが最後と思って生きる」と帯津さんが発言すれば、「いま、この瞬間を精いっぱい生きる」と五木さんが応じる。道は違えども通底する人生哲学に貴重な指針を得ることができました。

2025年7月1日 発行/ 8 月号

特集 日用心法

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