熱と誠が経営の道を開く 新井良亮(ルミネ社長) 松井忠三(良品計画前会長)

20代、30代の働く女性を中心に人気を誇り、日本最大のファッションビルとして知られるルミネ。昨今、デフレにより個人消費が停滞する中、同社を率いる新井良亮氏の経営手腕のもと、増収増益を続け、今期過去最高の業績を更新する見通しである。一方、かつて38億円の赤字に陥っていた無印良品ブランドを展開する良品計画。再生不可能と言われながらも、経営トップとして業務の仕組み化をはじめとする数々の改革を断行し、社風を変え、V字回復へと導いたのが松井忠三氏だ。熱と誠で道を開いてきたお二人に学ぶ「経営の要諦」「リーダーの心得」とは――。

人を説得していく時には力で押さえてはどうにもならない、本人が納得しなければダメだと学びました。納得というのは、理屈ではないんですね。やっぱり誠実さ、気持ちを込めることが大事だと思います

新井良亮
ルミネ社長

「私も人事課に配属されたことが、リーダーとは何かを考える一つの転機になりました。ご存じのとおり、1987年に国鉄は分割民営化され、JRとなったわけですが、その過渡期に私は人事課配転係長として、主に合理化や機械化による人員削減後の配置転換を進めなければなりませんでした。余剰になる人たちが中央線の各駅にたくさんいるんですね。長期間にわたり配置転換をしていないものですから、溜まりに溜まって手をつけざるを得ない。
 ところが、職員一人ひとりに家族がいて、生活があるわけで、とても複雑な心境でした。さらに、組合と当局の対立関係を解きほぐすのは非常に大変なんですね。これはもう本当に裁判まで覚悟しました。自宅に無言電話や脅迫電話がたくさんかかってきたり、ネクタイを摑まれて詰め寄られたり、何とも言えない壮絶な体験でした。そういう中で、人を説得していく時には力で押さえてはどうにもならない、本人が納得しなければダメだと学びました。納得というのは、理屈ではないんですね。やっぱり誠実さ、気持ちを込めることが大事だと思います」

調子のよい時も逆境の時も、自分を磨くチャンスだと捉え、「あせらず、くさらず、おごらず」に目の前のことをコツコツやる。そこがすべての起点になる

松井忠三
良品計画前会長

「『WORLD MUJI』といって、日本で生まれた無印良品がドイツやイタリアで生まれたらどうなるか、という発想のもと、海外のクリエイターたちと一緒に商品開発をしました。あとは、お客様と一緒に商品開発をする。店舗や本社の窓口で直接いただいたお客様の声をソフトに入力し、毎週1回、関係者で吟味するんです。『体にフィットするソファ』はお客様の要望から生まれた商品の代表格ですが、いまでも年間10万個売れる大ヒット商品となっています。
 ただ、ここで一つ重要なのは、これらの仕組みやマニュアルというのは、一度つくったらそれが最終形ではないということです。一般的なマニュアルはつくったらそれでおしまい、いつの間にか埃をかぶって棚に入れてしまうと。でも、世間の流行やお客様のニーズは刻々と変わっていくわけですから、それに伴って、現場の仕事のやり方も変えていかなければなりません」

プロフィール

新井良亮

あらい・よしあき――昭和21年栃木県生まれ。40年足尾高校卒業後、日本国有鉄道入社。東京・八王子機関区で運転士として勤務しながら、中央大学法学部(夜間)卒業。新宿駅、渋谷駅で勤務した後、人事関係業務に約20年携わる。62年国鉄分割民営化に伴い、JR東日本入社。東京地域本社事業部長、常務として、エキナカなどの生活サービス事業を担当。平成21年副社長に就任。23年ルミネ社長兼務となり、翌年より専任。

松井忠三

まつい・ただみつ――昭和24年静岡県生まれ。48年東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業後、西友ストアー(現・西友)入社。平成3年良品計画に出向し、翌年入社。総務人事部長、無印良品事業部長を経て、13年社長に就任。僅か2年でV字回復を成し遂げ、19年には過去最高売上高(当時)を達成した。20年会長に就任。27年より㈱松井オフィス社長。著書に『無印良品は、仕組みが9割』(角川書店)など多数。


編集後記

デフレ不況のいまも好業績を続けるルミネを率いる社長の新井良亮さん、赤字に陥った良品計画の経営を立て直した前会長の松井忠三さんには、経営の道に真摯に向き合ってきた今日までを振り返っていただきました。窮地にあって光を見出し、道を切り拓かれたお二人の根底には、強い信念と熱意、誠意があったことを教えられます。

2017年1月1日 発行/ 2 月号

特集 熱と誠

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