小学1年生の浦島君が、亡き母に宛てた作文 (『子どもの心に光を灯す』)

兵庫県の小さな町で55年間、教職者として一生を捧げた東井義雄氏。
本書は平成20年に刊行以来版を重ねる『自分を育てるのは自分』に次ぐ講演録であり、本講演の底辺に流れるのは、氏の子どもたちに対する深い愛情です。子どもたちの性の問題や父親不在の家庭の話などを織り交ぜながらも、理想の母親像をおかめの面に譬えたエピソードなどを例に、家庭教育復興への願いを言葉に託しています。本書の中から、小学1年生の浦島君の作文を織り交ぜながら、〝出会うことの意味〟についてご紹介します。

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出会うことの意味

そういう次第でございまして、今日の「出会い」を恵んでいただいたことを、本当にしあわせだと思っております。

この前、ご厄介になった時にも、この「出会い」のことを申し上げたのでございますが、今、この「出会い」が粗末になっているのではないでしょうか。

〝出会う〟ということは、ただ顔と顔とが出合ってる、こんなのは〝出会い〟のうちに入らないのですね。

だいぶ前になりますが、全国の小学校の子ども達から、「お母さん」という作文を集めたことがございます。

その時に、横須賀市の沢山小学校の、浦島君という1年生の男の子の作文が入選しました。

ちょっとそれをお聞きください。

ぼくのむねの中に

「おかあさん、おかあさん」

ぼくがいくらよんでもへんじをしてくれないのです。

あのやさしいおかあさんは、もうぼくのそばにはいないのです。

きょねんの12月8日に、かまくらのびょういんで、ながいびょうきでなくなったのです。

いまぼくは、たのしみにしていたしょうがく1ねんせいになり、まい日げんきにがっこうにかよっています。

あたらしいようふく、ぼうし、ランドセル、くつで、りっぱな1ねんせいを、おかあさんにみせたいとおもいます。

ぼくはあかんぼうのとき、おとうさんをなくしたので、きょうだいもなく、おかあさんとふたりきりでした。

そのおかあさんまでが、ぼくだけひとりおいて、おとうさんのいるおはかへいってしまったのです。いまは、おじさんおばさんのうちにいます。

まい日がっこうへいくまえに、おかあさんのいるぶつだんにむかって、「いってまいります」をするので、おかあさんがすぐそばにいるようなきがします。

べんきょうをよくしておりこうになり、おとうさんおかあさんによろこんでもらえるようなよいこになります。

でも、がっこうでせんせいが、おとうさんおかあさんのおはなしをなさると、ぼくはさびしくってたまりません。

でも、ぼくにもおかあさんはあります。いつもぼくのむねの中にいて、ぼくのことをみています。

ぼくのだいすきなおかあちゃんは、おとなりのミイぼうちゃんや、ヨッちゃんのおかあさんより、1ばん1ばんよいおかあさんだとおもいます。

おかあさん、ぼくはりっぱなひとになりますから、いつまでもいつまでも、ぼくのむねの中からどっこへもいかずにみていてください。 

と結んでいるんですが、この浦島君は、もはや世界中のどの国を探しても、お父さんの顔にも、お母さんの顔にも、顔と顔の出会いのできないしあわせの悪い子どもです。

しかし私は、浦島君はしあわせ者だと思います。

なぜか、いつでも、どこへ行っても離れてくださらんお母さん。

ミイ坊ちゃんのお母さんや、ヨッちゃんのお母さんより、もっともっといいお母ちゃんと、いつでも、どこでも一緒だからです。

これが本当に出会ってる姿でしょう。

これに比べましたら、毎日お父さんやお母さんの顔に出合っている子どもの中にも、お父さんお母さんの〝お心に出会う〟ことのできていない子どもの方が、しあわせの悪い子どもかも知れんと思いますね。

しかも、この〝出会い〟がある限り、浦島君のこれからはじまる長い人生の間には、いろんなつらいことや、苦しいことがやって来るに違いがございませんが、浦島君なら、どんな難儀、苦労に出合っても、この、お父さんお母さんとの〝出会い〟をふまえて、強く生き抜いてくれるに違いないと思いますね。

本記事の内容は、『子どもの心に光を灯す』(東井義雄・著)より抜粋しています。
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◇東井義雄(とうい・よしお)
明治45年兵庫県但東町に生まれる。昭和7年姫路師範学校を卒業、豊岡小学校に着任。以後、但東町内の小学校に勤務、32年『村を育てる学力』で反響を呼ぶ。34年但東町の相田小学校校長に就任。中学校長を経て39年八鹿小学校校長に着任。41年より『培其根』を発行。47年定年退職し、兵庫教育大学大学院、姫路学院短期大学講師などを務める。平成3年死去。享年79歳。「平和文化賞」(神戸新聞社)、「教育功労賞」(兵庫県・文部省)、「ペスタロッチ賞」(広島大学)、「正力松太郎賞」(全国青少年教化協議会)などを受賞。

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