【WEB限定連載】義功和尚の修行入門——体当たりで掴んだ仏の教え〈第27回〉お大師様の御蔭をいただく

小林義功和尚は、禅宗である臨済宗の僧堂で8年半、真言宗の護摩の道場で5年間それぞれ修行を積み、その後、平成5年から2年間、日本全国を托鉢行脚されました。今回は四国霊場の札所を巡拝する中での一コマです。

一番札所 霊山(りょうぜん)寺

 霊山寺に来た。大きな寺である。まず本堂でお経をお唱えして祈った。

「49歳になってもまだ迷っています。道をお示し下さい」と。

また、大師堂でもお経を唱え、南無大師遍照金剛を繰り返して、祈りを重ねた。それから地図を探した。八十八ヶ寺が記載された地図だ。売店に回って探すとカラーで立派な地図があった。それをパラパラ見ていると、客たちに混じって御僧侶の姿があった。私は近づいて声を掛けた。

「ちょっとお聴きしたいのですが・・・」

「うむ」

若いが実直そうな方だ。

「私は托鉢で八十八ヶ寺を回りたいのですが、喜捨は?」

スルスルと本心が出た。

「大丈夫ですよ。3軒廻れば2軒から頂けますから」

「そんなに」

胸の痞(つか)えが取れた。

しかも、遍路保存協会発行の地図まで頂いた。歩き遍路の詳細な地図である。これは大変な収穫である。何番の札所はどこにあるか。札所と次の札所の距離。道に沿って点在する旅館、ホテルまで細かく記載されている。

これはいい。これなら道に迷うことはない。有難い。ほんとうに有難い。早速、お大師さまの御蔭(おかげ)を頂いたか。そう、何故か、そう。自然にお大師さまという言葉が出るから不思議である。これが四国霊場の魅力なのだろう。定価3,500円もする。有難いことだ。

喜捨はいただけるものの……

 ここから一番の札所、二番の札所と巡拝する。その間、托鉢である。なるほど四国は違う。御大師さま信仰が今も息づいている。玄関に立ってお経を上げる。すると喜捨が頂ける。その確率が今までとは明らかに違う。これなら大丈夫だ。迷いがスーと消えた。

 ところが三番札所、四番札所と進むうちに妙なことに気が付いた。喜捨を頂く数は多いが、ほとんどが5円玉、10円玉である。10円が10軒で100円。100軒で1,000円。宿坊に1泊。素泊まりで3,500円。う~ん、これは厳しい。顔が引き締まるのが自分でも分かった。

とにかく腹を据えて托鉢だ。不安をかかえながら、夕方になり理髪店の前でお経を上げると

「どうぞ」

とドアが開いた。小柄な若奥さまが立っていた。すぐに椅子を差し出しストーブを私のそばに引き寄せた。12月だから寒い。〈暖まって下さい〉と、その気持ちが伝わってくる。心にジーンと沁み渡る。お茶が出る。牡丹餅(ぼたもち)が出る。お菓子が・・・と話も弾んで40分、1時間居ただろうか。外も暗くなったので、そろそろと

「それでは失礼します。有難うございました」

と挨拶をした。すると

「これを」

と封筒を出された。

「えっ」

「どうぞ、どうぞお持ち下さい」

私に押し付けてきた。

「それでは」

とそれを受け取って店を出た。封筒が気になり、暗がりでそっと覗いた。1万円である。驚いた。思わず

「御大師さまの御蔭をまた頂いた」

と感激した。その日は安楽寺の宿坊で1泊した。素泊まりである。

つづく

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小林義功
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こばやし・ぎこう――昭和20年神奈川県生まれ。42年中央大学卒業。52年日本獣医畜産大学卒業。55年得度出家。臨済宗祥福僧堂に8年半、真言宗鹿児島最福寺に5年在籍。その間高野山専修学院卒業、伝法灌頂を受く。平成5年より2年間、全国行脚を行う。現在大谷観音堂で行と托鉢を実践。法話会にて仏教のあり方を説く。その活動はNHKテレビ『こころの時代』などで放映される。著書に『人生に活かす禅 この一語に力あり』(致知出版社)がある。

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