日本コカ・コーラ元社長・新将命が語る——令和時代を勝ち残る企業の創り方

企業の盛衰はトップで決まるといわれます。ジョンソン・エンド・ジョンソンやフィリップスなど、数々のグローバル・エクセレント・カンパニーで経営を担ってきた新将命さんに、勝ち残る企業の作り方、トップリーダーに求められる条件について語っていただきました。半世紀近く経営の第一線に身を置いてきた新さんが語る「成功する人と失敗する人の違い」とは?

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半世紀近く企業経営に 携わって気づいたこと

勝ち残る企業には驚くほど共通点がある  

これは半世紀近く経営の第一線に身を置いてきた私の実感です。1959年に早稲田大学を卒業し、シェル石油(現・昭和シェル石油)に入社して以来、日本コカ・コーラやジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなど、日米英蘭の4か国、6社のグローバル・エクセレント・カンパニーに勤め、3社で社長職、1社で副社長職を経験してきました。

世界各国の様々な分野の企業の経営に携わる中で、勝ち残る企業には驚くほど共通点、つまり原理原則があることに気づいたのです。

評論家はよく、アメリカの経営者は社員を道具のように扱って、すぐ首にしてしまう、日本の経営者は社員を長期的な資産として雇用すると言っていますが、日本の企業であれアメリカの企業であれ、勝ち残る企業には普遍性があり、国籍国境は関係ありません。

業種業界や企業規模においても然りです。物づくりのメーカーであれサービス業であれ、年商1兆円の大企業であれ10億円の中小企業であれ、長寿企業の基本は一緒だと思います。また、ピーター・ドラッカーの『現代の経営』には、「経営とは顧客の創造である。顧客の創造はマーケティングとイノベーションである」と書かれていますが、これは半世紀以上の時を経たいまも当てはまる教えでしょう。

ゆえに、経営の原理原則は国籍国境、業種業界、企業規模、時代という4つの要素を超越して効力を発揮するものなのです。一方、原理原則の対極にあるものとは何でしょうか。それは我流、自己流です。我流、自己流も確かに大事ですが、経営者がそれだけにしがみつき、原理原則を学ばず好き勝手にやっていると、いずれ壁にぶち当たる。原理原則のないでたらめ経営では会社は長続きしません。

経営の神様・松下幸之助さんに、こういう言葉があります。

「成功している会社はなぜ成功しているのか。成功するようにやっているからだ。失敗している会社はなぜ失敗しているのか。失敗するようにやっているからだ」

我流、自己流を大事にしながらも原理原則を学び、実行に移す。そうすれば壁をぶち破って、会社は前進し、成長できるのです。

経営のゴールデンサイクルを 構成する6つの要素

それではここで、勝ち残る企業を創るための原理原則とは何か、具体的にお話ししましょう。

私の理論は極めてシンプルで、経営者が時間をかけて以下のフローチャートを築き上げれば、滅多なことで潰れない会社になるというものです。私はこのフローチャートを「経営のゴールデンサイクル」と呼んでいます。

①経営者品質

何と言っても重要なのは、「経営者品質」です。ロシアの諺に「魚は頭から腐る」とありますが、これに準えて私は「会社は社長から腐る」と唱えています。会社は新入社員がダメだから腐るということはありません。腐るとすればトップである社長から腐るということです。

これは経営者のみならず、部長や課長など、長のつく人であれば誰しも当てはまることです。つまりトップがどんな人かによって、その組織が勝ち残るか否かがほとんど決まってしまうのです。経営者品質の詳細は後述するとして、優秀な経営者は社員に教育や訓練を施し、よりよい制度やシステムも導入し、社員のモチベーションを上げるので、2つ目の「社員品質」が高まります。

②社員品質(満足)

社員品質の中身は2つ、スキル(仕事力)とマインド(人間力)です。前者は誰でも分かると思いますので説明は省きますが、後者は曖昧で想像しにくいかもしれません。私は「人間力=信頼+尊敬+意欲」だと定義しています。

信頼される人とはどういう人でしょうか。嘘をつかない、約束を守る、言行一致している。こういう人は間違いなく信頼に値します。

尊敬とは「私利+他利」のこと。人は誰しも自分が一番可愛くて大切な存在ですから、私利私欲や自分の損得を考えることは否定も軽蔑もできません。しかし、自分の私利私欲だけに凝り固まった我利我利亡者ではなく、人の利益や幸せも考えられる。そういう人が尊敬に値すると言えるでしょう。意欲とはやる気、モチベーションです。これには本人のやる気が高いことと、自分の部下のやる気を高められること、という2つの意味があります。自分がやる気満々でも、部下がしらけているようでは本物とは言えません。

スキルもマインドも高い社員は、仕事が非常によくできると同時に、人間的にも立派で、部下の意欲も高めることができる優れ者です。いわば会社の財産となる「人財」です。ここで、社員満足についても説明しておきましょう。満足が高いということも重要な条件ですが、これには「正しい満足(サティスファクション)」と「悪い満足(コンプレイセンシー)」があるので、気をつけなければいけません。

悪い満足とは安易な現状是認や危機意識の欠如のことで、「まあ、ええやんか」「そのうち何とかなるだろう」ということです。江戸末期の幕臣・小栗上野介も、「一言で国を滅ぼす言葉は『どうにかなろう』の一言なり」という至言を残していますが、他に依存して何とかなるものではなく、自ら何とかしなければならないのです。

これに対して、正しい満足には3つの条件があります。1つは、誇り。うちの会社はお客様から評価され、感謝されていると、社員が自分の会社に誇りを持っている。2つは、達成感。社員が仕事の目標を達成した時に「やったぜ!」という言葉が飛び交う。3つは、自己実現感。会社は単に給料をもらう場所ではなく、仕事を通じて自分を磨き高める道場であると捉えている。

この3点セットが正しい満足の中身であり、ひと言で表現すれば、「ワクワク感」と呼べるのではないでしょうか。

③商品・サービス品質
優れた社員が正しい満足感を持って仕事をすれば、よい商品やよいサービスを提供します。ここで重要なキーワードは、「バリュー・フォー・マネー(お金に対する価値)」。お客様は商品やサービスに価値を認めるから、お金を出して購入するわけです。私はよく「勝ち組会社は価値組会社である」と言うのですが、競争に勝っている会社は価格で勝負していません。価値で勝負しています。

④顧客・社会満足
ある1冊の本に5000円の価格がついていたとしましょう。これが高いか安いかを決めるのはお客様です。お客様が価値を認めれば、5000円でも妥当だと思うし、価値が認められなければ、1000円でも高いと思うでしょう。よい商品やよいサービスを提供すれば、お客様がそこに価値を認めて喜んで買ってくれ、満足する。

⑤業績
そうすると、会社の売り上げや利益、株価は上がります。

⑥株主満足
結果的に、株主に満足のいく配当を払うことができ、株主は経営者に続投を要請する。これがゴールデンサイクルなのです。

成功する人と 失敗する人の違い

これまで数多くの経営者を見てきて感じているのは、「成功する人は謙虚、失敗する人は傲慢である」ということです。

リーダーにとって自信は必要不可欠ですが、ややもすると自信は過信に、過信は慢心に、慢心は傲慢に変わり、最終的には破滅に至ってしまう。傲慢な人は自分の考え方はすべて正しいと思い、苦言や諫言を呈する人が疎ましくなり、そういう人を遠ざける。ある日、気づいたら周囲にはイエスマン、追従者しかいない。そういう人は自分自身と会社を滅ぼすのです。
反対に、謙虚な人は目まぐるしく変化する時代の中で、その流れに取り残されず、勝ち残っていくために、自ら変化成長を遂げようと自己投資を惜しみません。吉川英治の「我以外皆我師」という格言の如く、あらゆる人や事象から学ぼうとします。

私は「美点凝視」という言葉が好きなのですが、どんな人であっても、その人のよい点を見て学ぼうとする謙虚さが大事であると思います。最近よく若い人に言っていることは「1日4回飯を食え」ということです。3回の飯は朝昼晩にいただく食事のことで、4回目の飯は「活字の飯」、つまり本を読むこと。私は30代の頃から1日最低1時間は本を読んできましたし、いまも実践しています。本を読むという習慣自体が、人生を素晴らしいものにしてくれるのです。

いまの話とも関連しますが、私は30代の頃から、「短期と長期の納得目標を追い続ける」ということを心掛けてきました。毎年正月に自ら納得して主体的に取り組める目標を手帳にいくつか書き出す。翌年の正月にチェックをし、達成できたものは削除、できていないものは継続、新しい目標が浮かんだら追加する。これを40数年間、ずっとやってきたわけです。
先般、過去の手帳を振り返ってみたところ、達成率は約85%でした。私のような平凡な人間でも納得目標をコツコツと追求し続けたことで、自分で自分の人生をつくり上げることができたのです。

私が大切にしている信条は「コツコツ、カツコツ」です。何があってもコツコツと努力の歩みを続けていく。それこそが自分に克ち、相手に勝つコツである、という意味の造語です。
これまで私は3回大きな逆境に直面してきました。20代後半のシェル石油時代には課長から平社員に落とされ、30代後半の日本コカ・コーラ時代には東京本社の部長から大阪支店の次長に格下げになり、50代でアメリカ系企業の社長をしていた時には総本社のトップと意見が対立し、2か月後に首になりました。2回の降格と解雇を宣告されたわけです。

そういう逆境の時、一部の人は親身になって手を差し伸べてくれますが、冷ややかな人が大半です。「降格してきっと落ちこぼれるだろう。仕事に身が入らないだろう」という意地悪い期待感で見ているわけです。しかし、それでは相手の思うつぼ。そこで私は、逆境というのはピンチであると同時に、リカバーするチャンスでもあると心を切り替え、降格する前よりもニコニコと元気よく、一所懸命に仕事に打ち込んでいきました。すると、どうでしょう。周囲の目が軽蔑から徐々に好奇心へと変わり、最終的には尊敬の眼差しになったのです。

逆境の時でも自分の弱い心に打ち克ち、諦めたり手抜きをしたりせず、目の前の仕事をコツコツとやり続ける。それが人生や仕事、経営を成功に導く唯一の道ではないかと思います。

新将命(あたらし・まさみ)

昭和11年東京生まれ。34年早稲田大学卒業後、シェル石油(現・昭和シェル石油)入社。日本コカ・コーラ勤務を経て、57年ジョンソン・エンド・ジョンソン社長就任。平成2年国際ビジネスブレイン設立、社長就任。これまでグローバル・エクセレント・カンパニー6社のうち3社で社長職、1社で副社長職を務める。長年の経験と実績をベースに国内外でリーダー人財育成に取り組む。著書に『王道経営』(ダイヤモンド社)など多数。ユーモア溢れる独特の語り口は、経営幹部や次世代リーダーの間で絶大な人気を誇る。

『新将命の社長の教科書』(新将命・著)

定価=本体1,760円(税込)

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