マイナス思考から自分を守る、たった6秒の習慣

誰かに嫌なことを言われて、ついムッとする。激しく怒られて傷つき、落ち込んでしまう。誰しもそんな経験はあるでしょう。人の言動に振り回されそうになったとき、そのマイナスの思いを消す「6秒の奇跡」と呼ばれる方法があるといいます。自分の欠点とどう向き合うか――シスターであり、文学博士である鈴木秀子さんのお話から、弱さを抱えつつ幸せに生きる秘訣を学びます。

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欠点だらけの自分とどのように向き合うか

〈鈴木〉
夏目漱石や芥川龍之介をはじめとする明治、大正期の文豪には、ある共通した特徴があります。人間の持つ深い業、キリスト教でいう原罪のような部分を、作品の中でサラリと表現していることです。『鼻』は芥川のお馴染みの代表作ですが、この作品もまた、人間誰もが持つ弱さや醜さをユーモラスなタッチで見事に描き出しています。

5~6寸(1518センチ)もの腸詰めのような鼻を持つ禅智内供(ぜんちないぐ)という僧侶が、この小説の主人公です。内供は表面ではさほど気にならないような顔をしながら、終始、この鼻を苦に病んでいました。自分が鼻を気にしていることを人に悟られまいとし、会話の中に鼻という単語が出てくることを何よりも恐れていました。

内供は長い鼻によって傷ついた自尊心を恢復(かいふく)するために、鼻を実際以上に短く見せようと試みますが、苦心すればするほどかえって長く見えるような気さえするのでした。また、絶えず人の鼻を気にし、一人でも自分のような鼻を持つ人を見つけて安心しようとします。長い鼻を持つ人がいないと分かるや、今度は内典(ないてん)外典(げてん)の中に自分と同じような鼻の人物を見出して、せめてもの慰めにしようと考えるのですが、どの経文に目を通してもそのような人物に出会うことはできません。

ここで芥川がいう「鼻」は一つの象徴です。私たちは顔つきや体形、身体的欠陥、さらに学力や財力、社会的な地位、知名度など様々なことを他人と比較しながら生きています。世の中は苦しみに満ちていると言われますが、詰まるところ、多くは他人との比較の中で生まれると言ってもいいでしょう。

内供の場合も、鼻そのものというより「長い鼻によって自分は笑いものにしかならない」「他人より劣っている」というコンプレックスから抜け出ることができず、気づかないうちに、悪いイメージを自分自身に植えつけていたに違いありません。四六時中人のことばかり気にしていたのも、自分に全く自信が持てずセルフイメージが低いためだと言えます。 

しかし、完全な人間など世界中どこを探してもいません。人が羨む美貌の持ち主も大金持ちも有名人も皆、何らかの悩みや苦しみを抱えながら生きています。自分の思いどおりに生きられる人など誰一人としていないのです。

生きていく上で大切なことは、短所や欠点を含めて自分のありのままを受け入れることです。人生で直面する問題には、変えることができるものと変えることができないものとがあります。変えられる問題は努力して変えることが必要でしょうが、変えられない問題にぶつかった時、「これが自分なのだ」「自分は自分でいいのだ」と静かに受け入れる。その覚悟を決めることこそが安らかに生きられる一番の秘訣なのです。

自分を守る「6秒の奇跡」

〈鈴木〉
(前略)人の言動で心が動いてしまいそうになる時、 それを防いでくれる「6秒の奇跡」と呼ばれる方法があります。 例えば、誰かから激しく叱られたり罵倒されたりしたような場合、 「あっ、いま動揺してしまっているな、傷ついたな」 と客観的な目で自分を観察し、6秒間呼吸を整えて心を静めるのです。 そうすれば、マイナスの思いが消えていき、 気持ちを乗っ取られずに済むと言われています。 刺激に対してすぐに反応してしまえば、感情の虜になってしまいます。

自分を冷静に観察するこの練習を続けていくうちに、 人の言うことはそれほど深いものでも 真実に根ざしたものでもないことが分かってきます。 そして「人の目ばかりを気にして生きる自分、欠点の多い自分であっても、 大自然から生かされている尊い存在なのだ」という自覚が芽生えてきて、 いつの間にか自分を受け入れることができ、 自分自身と仲よしになっていくことでしょう。

セルフイメージを高める一番の方法は、 このように人間は大自然によって生かされていることを実感し、 それに感謝することです。 人間を生かしてくれるのは大自然だけではありません。 親や学校の先生、友人、隣近所の人たち、職場の上司や同僚など 多くの人たちの支えがなくては、私たちは生きていくことができません。 自分に愛情を注ぎ、育ててくれようとした人たちに思いを馳せてみることも自己肯定に繋がります。

もちろん、人間は成長するにしたがって多くの失敗や挫折を経験します。 そのことがトラウマになって先に進めなくなる人がいるかもしれません。 そういう時は小さな成功を自分で認めて、 自信を積み上げていくことです。
「きょうも頑張って仕事ができた」
「お客様から喜んでいただけた」
「道に落ちていたゴミを拾った」
というような些細なことでも 「ああ、いいことができた」 と喜ぶ習慣をつけることが大切なのです。

まるで親が小さな子供を褒めて育てるように、 当たり前と思えるようなことでも自分で自分のいいところを見つけて教育していく中で、 いつの間にかセルフイメージは高まっていくことでしょう。

顔の形が異なるように、人間の個性も皆違います。 共通しているのはただ一つ、奇跡的な命を授かって生かされていることです。 その素晴らしさに気づいていただくことが私の何よりの願いです。


(本記事は『致知』2018年2月号連載「人生を照らす言葉」より一部を抜粋・編集したものです)

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