ノーベル賞・北川進氏の原点──読書習慣が育んだ科学への探究心

多孔性金属錯体を開発し、2025年にノーベル化学賞を受賞した北川 進氏。二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの回収・貯蔵など、地球環境課題の解決を切り拓く技術として期待されています。世界を大きく前進させる偉業を成し遂げた北川氏の原点には、幼少期に培われた「読書」の習慣がありました。読書を通じた科学との出合い、研究への道筋について、若き日々を振り返りながら語っていただきました。対談のお相手は、制御性T細胞の発見が評価され、北川氏と共にノーベル賞を同時受賞した坂口志文氏です。
(本記事は『致知』2026年10月号 対談「運をつかむ生き方」より一部を抜粋・編集したものです)

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読書は自己の鍛錬になる

<坂口>
北川先生のお若い頃についてもぜひお聞かせください。

<北川>
私も坂口先生と同じように、小さい時は遊び回っていました。京都の真ん中で将棋を指したり野球をやったり、長閑な時代でした。

かすかに記憶が残っているのは、小学校に入る前に病気で一年間幼稚園を休んだことです。何の病気か分からないのですが、その時に本や漫画をたくさん買ってもらったところから、坂口先生と同じように本をよく読むようになりました。印象に残っているのはエジソンなど偉人の伝記で、そこで科学の面白さに目覚めたような気がしますね。

小学校を卒業する時の文集には、天候をコントロールできる機械を発明したいと書いています(笑)。運動会や遠足で雨が降るとつまらないじゃないですか。子供の私には切実な願望でしたが、その思いがいま取り組んでいる大気の化学にも繋がっていることは、非常に感慨深いですね。

<坂口>
科学者としての片鱗が窺えるエピソードですね。

<北川>
中学では、自分に刺激を与えてくれるよい友人に恵まれました。入学したばかりの時に、両隣の二人が話しかけてきましてね。一人は数学をものすごくやっていて、「もう中学1年の数学なんて終わってるよ」と。勉強は授業に従ってやるものだと思っていたので、全然違う考え方を知って随分驚きました。

もう一人は、私と同じように1年休学したことのある青白い顔の男子で、本をやたら読んでいるんですよ。彼が教えてくれたフレドリック・ブラウンという推理SF作家の短編を読み始めたらたちまちハマって、科学への関心もさらに高まったように思います。

 

研究者としての礎になったもの

<北川>
それから、私は若い人に体力が重要だとよく言うんですが、これは中学生の時のバレーボール部の体験が元になっているんです。

<坂口>
バレーボールをやっていらっしゃったのですか。

<北川>
英語の先生がバレーボール部の顧問で、私は背が高かったので「おまえはうちの部に入れ」と言われたんです。ものすごく怖い先生だったので、抵抗する余地もなく「はいっ!」と(笑)。とても強いクラブで、夏休みも毎日朝9時から夕方6時まで練習ですよ。当時は練習中に水を飲むなという時代でしたから大変でした。

<坂口>
よく体が持ちましたね。

<北川>
下級生の頃は球拾いばかりでしてね。ボールが水飲み場のほうに転がっていくと、阿吽の呼吸で順番に拾いに行って、ついでにガーッと水を補給して何とか生き延びました(笑)。おかげで後年研究に存分に打ち込めるだけの体力がつきました。

それからバレーボールはチームスポーツで、組織の中での身の処し方を学んだことは大きかったですね。化学の研究も様々な人と力を合わせて取り組むグループワークですから。

ただ、高校のバレーボール部はレベルが低くて面白くなかったので、放課後には図書館に通って片っ端から本を読みました。坂口先生がおっしゃるように、本のよさというのは、自分が一生経験できないことを作品に感情移入しながら疑似体験できることです。その時はとにかく面白くて読み続けたのですが、その体験が自分の土台になったことを実感しています。


↓ 対談内容はこちら!
◆同窓、同学年の2人が共にノーベル賞を受賞
◆人類の未来に寄与する2つの偉大な業績
◆読書は自己の鍛錬になる
◆研究者としての礎になったもの
◆病気の後ろにある原理を追究したい
◆人が目を向けていないものに可能性がある
◆何事にも囚われず興味のあるところに遊ぶ
◆興味を持てることをとことん追究する
◆マイナーな研究が途轍もない金鉱だった
◆幸運は準備された心に宿る
◆夢を持ち努力を重ねていくこと

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◇坂口志文(さかぐち・しもん)
昭和26年滋賀県生まれ。51年京都大学医学部医学科卒業。同大学院医学研究科入学。52年愛知県がんセンター研究所実験病理部門研修生。58年京都大学医学系研究科博士号取得。同年より渡米し、ジョンズ・ホプキンス大学客員研究員等を務める。平成4年帰国。京都大学再生医科学研究所所長などを経て、23年大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学教授。現在は同大学特別栄誉教授。令和7年ノーベル生理学・医学賞受賞。

◇北川 進(きたがわ・すすむ)
昭和26年京都府生まれ。49年京都大学工学部石油化学科卒業。54年同大学院工学研究科博士課程修了。近畿大学理工学部助手。その後同大学理工学部助教授、東京都立大学理学部教授を経て、平成10年京都大学大学院工学研究科教授。さらに同大学高等研究院物質─細胞統合システム拠点 拠点長などを経て、現在は、同大学理事、副学長、高等研究院特別教授。28年日本学士院賞。令和7年ノーベル化学賞受賞。

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