2020年10月31日
業務用中古厨房機器の販売というユニークなビジネスを展開し、1997年の創業からわずか5年で上場を成し遂げたテンポスバスターズの創業者、森下篤史氏。2018年には「ドクターテンポス」として飲食店経営を総合的にサポートする事業を開始し、コロナ禍の中でもサポートを続けるなど、いまなお成長を続ける同社の原点はどこにあるのでしょうか。創業期のエネルギーの源泉についてお話いただきました。
※インタビューの内容は2004年当時のものです。
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
「テンポス精神17か条」
〈森下〉
当社には、「テンポス精神17か条」というのがありましてね。それを丸暗記するというのがあります。
――テンポス精神17か条ですか。
〈森下〉
店の中でいろんな問題にぶつかって迷っている社員がたくさんいるので、その時その時の体験を、他の社員にも参考になるように17項目にまとめたんです。
具体的な事実のまま伝えると頭に入るけれど、それを一般化するともう分からなくなる、ですから、テンポス精神は具体的な事実のままに書いてあって、それをテンポス道場で丸暗記させる。そのうえで、自分の店であった同じ出来事を言わせるんです。解釈なんかしたってしょうがないですからね。
――ざっと拝見しましたが、実におもしろいですね。例えば第12条の「いてての法則」。本当にその通りですね。
〈森下〉
そうなんですよ。
「従業員に前屈をさせて、手のひらを床に着けさせてみろ。『いてて』と言いながらも練習を続けていると、『いてて』の位置がだんだん下がってくる。そしていずれは全員が手のひらを床に着けられるようになるものだ。
つまり個人により現状のレベルが違っていてもそれぞれが『いてて』の位置で努力すれば、いずれは目標到達できるものである。
自分の仕事上の『いてて』の位置を見つけろ。無理だよ、やり方が分かりません、やった事がありません、すべて『いてて』の位置である。『いてて』の位置にある仕事に取り組んだ時、初めて能力のアップになる。おじぎを毎日100回やっても1年後に床に手が着くようにはならない」と。
身体を鍛える時の「いてて」の限界は分かりやすいけれど、仕事上の「いてて」の限界は分かりにくい。それは、「無理だよ、俺」とか「もうやってられねぇ」とか言う時が、その人の「いてて」なんですね。それが分かると結構乗り越えられるものなんです。
だけど、「会社に行きたくない」となったら「いてて」を超えている。そういう時はきっぱりと、「店長を辞めてよその店に行ってしまえ」と言います。
すると無責任と思われるのを心配するから、「当たり前だ。だけど、それがいやで精神に問題をきたすのと、精神健全で、半年、1年後にもう1回チャレンジするのとどっちがいいんだ?」と言うと、そのまま頑張ったり、しばらくして店長に復帰して前より伸びる者もいる。
――フリーエージェント制やドラフト制を取り入れて、職場を自由に行き来できるそうですね。
〈森下〉
テンポス精神第4条にこう記しています。
「上司が嫌なら店を替われ。そこでも嫌ならまた替われ。何度でも替わってみろ。テンポスはフリーエージェント制だから。だがそのうち気づくだろう。理想的な上司や職場などないということを。自分で切り開いたところにしか『やりがい』はないということを。店長は、気に入らない使いにくい部下は他の店に放り出せ。テンポスはドラフト制だから自分の納得にいくまで何回でも人を入れ替えろ。だがそのうち気づくだろう。理想の部下などいないということを」と。
――そこに気がつくことで自立心や責任感が芽生えるのでしょうね。
戦いモードで仕事をする
――テンポス精神は、まさに創業精神そのものですね。
〈森下〉
ここは羽田の近くだから、飛行場がよく見えるんです。飛行機が離陸する時っていうのは、「あれじゃ落ちるな」と思うくらい急角度で上がっていくんですね。グーッと1万メートル上空に上がって、そこから、例えば九州あたりへ行く場合は、1000キロその高度を保って飛ぶ。この1000キロを行くガソリンと、最初の50キロを行くガソリンは、大体同じだ、というんですね。
そうすると、グーッと上がっていく時には、上空を飛ぶ時の20倍のガソリンを使うのですね。いまの当社は、このグーッと上がっているときだから、全員で20倍のエネルギーを出さないとやれない時なんです。
――創業期には20倍のエネルギーが要る。
〈森下〉
それには熱意がないとダメですね。天ぷらを揚げるには、40℃の油に何時間つけていてもクッタリするだけでしょう。ところが、170℃にすると、3分かそこらで一気にカラッと揚がる。そこまで到達するエネルギー、熱意を出さない限り、いつまでたっても天ぷらは揚がらないわけです。
――そこに事業を立ち上げて成功するか否かの分岐点があるわけですね。
〈森下〉
私は会社を3種類に分けて考えています。例えば自宅でやっているから家賃を払わなくていい、家族でやっているから給料は時に払えなくてもいい。そういうのは「趣味芸術、遊びの世界」。
もう1つは大部分の企業グループで、経営計画だとか、問題解決だとか、いろいろなやるべきことが分かっていてそれをやらない。それでも生きていけるのだからこれは「生業グループ」。
一方でうちみたいに、20倍のエネルギーを出さないと失速するという、そういう限界を超えた目標をつくって必死になってやっていかなければいけないところ。これはいわば「戦いモード」で仕事をやっているわけです。
戦うとはどういうことか。それは、すべてを振り捨てて、その目標のために、いかに合理的な手を打つかということです。自分の気持ち、つまり、逃げたいとか、辛いとか言っているうちは、戦いモードではないんですね。
戦いモードのビジネスというのは、己を相当に鍛え上げていかなければやっていけないし、どこまでいっても合格点というのはない。常に道を求める姿勢がなければなりません。私は今後も、常にそういう姿勢で事業を営んでいきたいですね。
(本記事は月刊『致知』2004年7月号 特集「熱意・誠意・創意」より一部を抜粋・編集したものです)
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
◇森下篤史(もりした・あつし)
昭和22年静岡県生まれ。静岡大学卒業。46年東京電気入社。58年業務用食器洗浄機メーカーのキョウドウ設立。平成9年テンポスバスターズ設立。14年ジャスダックに上場。15年アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン、グロース部門ファイナリスト受賞。著書に『「戦いモード」で会社が変わる』がある。