「“なぜ?”を5回繰り返せ」 世界のトヨタのものづくり・人づくり(張富士夫)

日本を代表する自動車メーカー・トヨタ。そのものづくりの原点、組織に浸透した強さの源泉はどこにあるのでしょうか。「トヨタ生産方式」をつくりあげた大野耐一氏に薫陶を受けるなど、トヨタ躍進の歴史とともに歩んできた張富士夫さんの講演録から探ります。

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現場には仕事と無駄の2つしかない

〈張〉
私が弟子入りした頃、大野は既に20年にもわたって無駄のないつくり方を追求してきた大ベテランで、私は現場へ出る度に、「この無駄が見えんのか」と叱られたものです。

最初に言われたのも、「いいか張、現場には仕事と無駄の2つしかないと思え」ということでした。

組み立ての現場へ行くと、ネジを締める時にビビビッという音がします。大野はそこで私に目をつむるように言い、「いま聞こえる音が仕事だ。音のしないところは全部無駄だ」と言うのです。これはちょっと極端な例ですけど、私はそのようにして、現場でのものの見方を大野から教わってまいりました。

無駄にもいろいろありますが、トヨタでは手待ち、2度(3度)手間、やり直し、不良、運搬、つくり過ぎの無駄を徹底して削減してまいりました。

手待ちというのは、仕事がない状態を言います。例えば、材料を機械にセットしたら刃物がダーッと動き出します。その間は手を出せないのでただ見ていると、それはもう仕事ではなく、手待ちの無駄になっているというわけです。

あるいは、部品の加工が1回で済まずに、もう1回同じことをやるのは2度手間になります。

また、部品を適当な場所に仮置きして、後でまた移動することもあります。最初からちゃんと置き場を決めておかないので、やり直しの無駄が生じてしまうのです。

それから、不良を出してしまうと、別のもので充当しなくてはなりませんから、これも無駄。

さらに運搬の無駄というのもございます。フォークリフトなどが何も載せずに工場内をグルグル移動していると、「流しのタクシーじゃないんだぞ」と叱られるわけです。運搬の詰め所をきちっと定めておいて、信号が出たらすぐに部品を載せて持って行き、空箱を持って帰る。そうやって運搬の無駄を省けば余剰な人員も明らかになるのです。

そのように、無駄の削減については先輩からうるさく言われたものですが、中でもトヨタのものづくりの一番の特徴は、最後に挙げたつくり過ぎの無駄を省いていくところにあるでしょう。つくり過ぎの無駄を省くことが、ジャスト・イン・タイムのものづくりの鍵を握っているのです。

一般に製造現場では、次の工程に渡すものを少しずつつくり溜めておこうとするものです。現場のリーダーの多くは、何があっても後工程を止めないことが職人の使命だと思い込み、作業が滞っても後の工程に影響が及ばないように、自分の工程で在庫をつくっておきたがるのです。

しかし大野は、つくり過ぎは絶対にやってはいかんと言って、その在庫を全部取っ払ってしまいました。そうして新たにつくり過ぎができないルールを設け、それによって余りが生じた人員を他へ回す。そんなふうなことで、無駄の削減をとことん追求していったわけでございます。

「なぜ?」を5回繰り返せ

〈張〉
現場では、まず疑問を持てとも教わりました。そのために、「なぜ?」を五回繰り返す訓練を徹底的にさせられました。

大野も鈴村も、何かトラブルが発生して報告に行くと、決して「あぁ、そうか」では済ませてくれないんですね。「昨日は予定の台数をつくることができませんでした」と言うと「なぜだ?」。「この機械が故障したからです」「なぜだ?」。「油漏れがしたらしいです」「なぜだ?」。そのへんからもう分からなくなって口ごもっていると「馬鹿もん!」と雷が落ちるんです(笑)。

仕方がないから今度は故障した機械の所へ行って、「なぜボルトが緩んだんだ?」「なぜ油が漏れたんだ?」と、「なぜ?」を五回、六回と繰り返すうちに、「そうか、ここがまずかったのか」と真因に辿り着く。そこで手を打つと、2度と同じトラブルは起きないわけです。

一番まずいのは、ボルトが緩んでいるのを見つけた時に、ただ締め直しただけで済ませてしまうことです。「なぜだ?」と追及して真因を解消していないと、後でまた緩んで油漏れを繰り返してしまい、大目玉を食らうわけです。

若い頃に大野や鈴村からうるさく言われ続けたおかげで、最低5回は「なぜ?」を繰り返すのが私の癖になってしまいました。これは仕事に限らず、例えばお腹が痛い時に「なぜ?」を繰り返して、健康のことをいろいろ考えるようにもなりました。社長に就任した時も従業員に、各々の職場で「なぜ?」を繰り返して真因を突き止めることの重要性をお話ししました。


(本記事は『致知』創刊40周年特別記念号から一部を抜粋・編集したものです)

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◇張富士夫(ちょう・ふじお)
昭和12年生まれ。35年東京大学法学部卒業。トヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)入社。63年トヨタ自動車取締役。トヨタモーターマニュファクチュアリングUSA社長。常務、専務、副社長を経て、平成11年トヨタ自動車社長に就任。17年会長。25年名誉会長。29年相談役。

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